8.武器や防具は、装備しないと意味がないよ
・前回のあらすじです。
『ユノが人を殺す』
・・・・・・
王国暦 四二〇年。
春の月 第三二日――。
「ユノさま」
セレンは寝室にいた。
昨日、ユノが泊まった部屋である。
質素なベッドと書きもの机だけの、小さな空間。
「うわっ」
ユノは飛び起きた。
血まみれになった衣類は、宿屋の給仕に出したままだった。
「いきなり入ってこないで下さいよ」
「ノックはしましたが」
入口に立ったまま、セレンは手の甲でドアを叩く。
「失礼かとは思ったんですけれどね。カギは開けさせていただきました」
「魔法とかで?」
うっすらと、セレンが笑う。
「身支度をどうぞ。着替えはこちらに」
かかえていた衣類を、妖精の女はユノに寄越した。
「新しい服?」
「異界のファッションは目立ちますからね」
「目立つと、なにかあるんですか?」
「特には。昨日のような手合いに、今後もからまれることをのぞけば」
こそこそとユノはシーツにかくれて衣装を着た。
シャツは麻でできていた。
上着は皮のジャケット。厚手のズボンを穿いて、つまさきと踵をプレートで補強したブーツを履く。
「馬子にも衣装ってとこですね」
値踏みするようにセレンは言った。ユノは少しだけムッとする。
「……ところでセレンさん」
壁に立てかけていた抜身の剣を、ユノは手に取った。
ペンドラゴン王家に伝わる、選定の剣。
神託の銅板から引き抜いた、勇者を証立てする、最強の剣。
「これ、ボクには扱いきれないかなって……」
「なぜ?」
ユノには答えられなかった。
「……まあ、身のほどを慮るのは良いことです」
剣をセレンは受け取った。
無骨な木の杖――霊樹の杖を振って、剣を消す。
「では、行きましょうか」
「どこへ?」
廊下に出ていくセレンに、ユノは言った。
「代わりの武器を買いに。ひとりで探すのであれば、私は自分の用事のほうに行きますが」
「いえっ、いっしょに選んでもらえればと」
あわててユノはセレンにつづく。
王都の街並みを、昼近くの日光が、鮮やかに照らしていた。
〇表現をいくつか修正しました。(以下はその一例です)
旧→神託の銅鏡から引き抜いた、『勇者』を証立てする(略)
改→神託の銅板から引き抜いた、『勇者』を証立てする(略)