60.交通路
・前回のあらすじです。
『妖精のセレンが魔王をあおる』
大陸の北部は不毛の地だった。
草もなく木もなく、虫も動物も近寄らない。
降っていた雨も、荒れた山をひとつ越えると止んだ。
埃っぽい風と、黒い叢雲。
砂塵を外套のフードでふさぎ、三人は乾いた大地をすすむ。
砂埃の向こうに、すっと伸びる建造物が現われた。
一行は足を止める。
「ここ?」
ユノは建物を見上げた。
魔法の文字が刻まれた石柱。
レンガの外壁は崩れて壮麗な内装が穴からのぞいている。
隣りでローランも【パペルの塔】をうんと仰いでいた。
「そっ、大昔に人間の世界と天国をつないでいた交通路。もうだいぶんとまえに閉じちゃって、今はただの遺跡だけど」
朽ち果てた建物は、なおも空にまで届いていた。
ザあっと吹いた突風が、ローランのフードを押しのける。
ユノは半眼で彼女の頭にあるものを見つめた。
「どうしたのよ?」
「……やっぱ、飾り系の装備整えておいたほうがよかったんじゃないかなって」
「これでいいわよ。あんたらが買ってくれたんでしょ?」
ローランは耳元につけた、野薔薇の髪留めに触れた。
パンドラが横から彼女の袖をひく。
「私が選んだんだよ」
「どーりで。お手柄よパンドラ、このお兄ちゃまったらその辺のセンス無さそーなんだもん」
「悪かったね」
ユノはムスッとしてそっぽを向いた。