33.墓の前
・前回のあらすじです。
『ユノがアイと再会する』
「ユノは、今日はこの森になにをしに来たの?」
墓の前でアイは訊いた。
ユノは目を泳がせる。
やがて目的を告げた。
「町を……モンスターたちに襲わせた首魁を討ちに来たんだ」
「……魔女を?」
「町の人たちの話は、ボク信じてないんだ……」
「じゃあ――」
「【フォルクス=メルヒェン】。彼が町への襲撃を、モンスターたちに命令してるんでしょ?」
それは、森に迷い込んだユノに、アイが話した内容だった。
「言わなきゃよかった」
ポツリと彼女はつぶやいて、
「私も彼の一味だって言ったらどうする?」
(……どうしよう)
ユノは自分の後ろ頭を掻いた。
アイは肩をすくめる。
赤いフードをはずす。
少女の頭には、一対の耳があった。
長い髪の色――黄金色――に近い赤混じりの毛におおわれた、イヌ科の動物の。
「あなたの言う通り、私は【魔族】よ。コルタでは……そう、【魔女】って呼ばれていた」
アイは赤い目をほそくした。
遠くを見つめる。「
「どれくらい前だったかな。狼男だった父が火あぶりになって……私と母は、魔物のうろつくこの森に放逐された」
――野草に守られた木の墓を風がなでる。
ユノは言葉を待った。
「母はすぐにバケモノに殺された。私もそうなるハズだったけど、この森のヌシ……【フォルクス=メルヒェン】に助けられたの。人狼は彼の眷属だからって」
獣の耳がピクリと動く。
アイはそれを押さえつけた。
「じゃあ、メルヒェンは良いヒトなんだね。なら、話し合いでなんとか――」
「めでたい奴。説得なんてムリよ。彼は人間の破滅を望んでいるから」
「どうして?」
アイは嘆息した。
「襲撃については、【魔王】に命令された……ってのもあるみたい。けど、ハッキリと殺意を持ち始めたのは、私や他の魔族の境遇を知ってから、かな……」
銀毛の魔狼【フォルクス=メルヒェン】は、人狼の娘を同胞と認めて自分のテリトリーに秘匿した。
また、彼はアイに教育を与え、危害をくわえる魔物から身を守る結界魔法を習得させた。
だがそれも、ヒトの血の濃い生物には通じない。
「町の人たちが、まさか私が生きてるって思ってたなんて……複雑な気分だわ」
「……ボク、何も言ってないよ?」
「わかってるって」
青ざめて震えるユノを、アイはヒジで突っついた。




