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【異世界転移】をやってみた《1》  作者: とり
 第4話 おおかみ
34/92

33.墓の前



 ・前回のあらすじです。


 『ユノがアイと再会する』





「ユノは、今日はこの森になにをしに来たの?」

 はかの前でアイは()いた。

 ユノは目をおよがせる。

 やがて目的を告げた。


「町を……モンスターたちにおそわせた首魁(しゅかい)()ちに来たんだ」

「……魔女(わたし)を?」

「町の人たちの話は、ボク信じてないんだ……」

「じゃあ――」

「【フォルクス=メルヒェン】。彼が町への襲撃(しゅうげき)を、モンスターたちに命令してるんでしょ?」


 それは、森に迷い込んだユノに、アイが話した内容だった。


「言わなきゃよかった」

 ポツリと彼女はつぶやいて、

「私も彼の一味(いちみ)だって言ったらどうする?」


(……どうしよう)

 ユノは自分の(うし)(あたま)()いた。

 アイは肩をすくめる。

 赤いフードをはずす。


 少女の頭には、一対(いっつい)の耳があった。

 長い髪の色――黄金色(こがねいろ)――に近い赤混じりの毛におおわれた、イヌ科の動物の。


「あなたの言う通り、私は【魔族】よ。コルタでは……そう、【魔女】って呼ばれていた」

 アイは赤い目をほそくした。

 遠くを見つめる。「


「どれくらい前だったかな。狼男(おおかみおとこ)だった父が火あぶりになって……私と母は、魔物のうろつくこの森に放逐(ほうちく)された」

 ――野草に守られた木の墓を風がなでる。

 ユノは言葉を待った。


「母はすぐにバケモノに殺された。私もそうなるハズだったけど、この森のヌシ……【フォルクス=メルヒェン】に助けられたの。人狼(じんろう)は彼の眷属(けんぞく)だからって」

 獣の耳がピクリと動く。

 アイはそれを押さえつけた。


「じゃあ、メルヒェンは良いヒトなんだね。なら、話し合いでなんとか――」

「めでたい奴。説得なんてムリよ。彼は人間の破滅(はめつ)を望んでいるから」

「どうして?」

 アイは嘆息(たんそく)した。

襲撃(しゅうげき)については、【魔王】に命令された……ってのもあるみたい。けど、ハッキリと殺意(さつい)を持ち始めたのは、私や他の魔族の境遇(きょうぐう)を知ってから、かな……」


 銀毛(ぎんもう)魔狼(まろう)【フォルクス=メルヒェン】は、人狼(じんろう)の娘を同胞と認めて自分のテリトリーに秘匿(ひとく)した。

 また、彼はアイに教育を与え、危害をくわえる魔物から身を守る結界魔法を習得させた。

 だがそれも、ヒトの血の濃い生物には通じない。


「町の人たちが、まさか私が生きてるって思ってたなんて……複雑な気分だわ」

「……ボク、何も言ってないよ?」

「わかってるって」

 青ざめて(ふる)えるユノを、アイはヒジで突っついた。



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