28.提案
・前回のあらすじです。
『副隊長のフレデリックが隊長に意見する』
「あのー」
小さくユノは手を上げた。
町長のアルゴ、副隊長のフレデリック、隊長のアドニスが、一斉に彼を見る。
「ボクが森のようすを見てきます。それで町の人たちだけで攻略ができそうだったら、町長さんたちの自由に……無理そうなら、あらためて計画を練るっていうのは……」
「なにを悠長な……」
アルゴの気炎はおさまらない――
が、町長の反論をアドニスがさえぎった。
「それでいこう。――フレデリック、」
副隊長に向き直り、指示を出す。
「ユノのほかに二名ほど見つくろってくれ。調査隊を組む。現場での指揮はお前にまかせ――」
「ボク、ひとりで行きます」
ユノは声を荒らげた。
町人も騎士も、他の戦士たちも、【フォルクス=メルヒェンの森】に近づけたくなかった。
アドニスは角刈りの頭を掻く。
「水を差すなよ。せっかくまとまりそうだったのに」
「ごめんなさい」
ユノはアドニスに懇願した。
「でもボク、ひとりで行きたいんです」
アドニスはユノの提案を真に受けたのではなかった。
彼は不毛な水掛け論――作戦会議でも町人の参戦は問題になったらしい――に、終止符を打ちたかったのだ。
「こんな少年をひとりで行かせたら、ひとたまりもありませんよ」
アルゴが訴える。
「アドニス殿、お忘れではないでしょうな、あそこには【魔女】がいるのですよ」
「ボクには【気術】があります」
ユノは叫んだ。
町人たちがザワついたが、それはすぐにおさまった。
ユノはさらに大口をたたく。
「なんならボクが……魔物を全部やっつけます。だからみなさん、お、おお大船に乗った気持ちで待っててください……」
頭から、背中から――全身から汗が噴いた。
ユノの脚をフレデリックが指差す。
「あの、ヒザが笑ってますけど……」
「武者震い、ですっ!」
ユノは自分を鼓舞した。
部屋の出口に向かっていく。
「とにかく待っててください。ボクが帰ってくるまでは」
「おい……」
アドニスがユノの肩をつかむ。
大きな手を振りきり、ユノは廊下に飛び出した。
「ようすだけを見に行くんだぞ。無茶なマネはするなよっ」
詰所を駆けていくユノの背を、アドニスの声が追った。
手を上げて、ユノは了解を告げる。
アイの元に急ぐ。




