26.魔族
・前回のあらすじです。
『ユノが寝坊をする』
「まあ、魔法は体力を使いますからね。隊長さんも気を利かせて休ませておいてくれたんでしょう」
寝ぼけまなこのユノにセレンは言った。
「魔法じゃなくて【気術】ですよね?」
【魔族】やその混血者の使う超常の力を【魔法】。
妖精の力を借りて起こす奇跡を【気術】と呼ぶと、ユノは習った。
「どちらも同じです。妖精も魔族なので」
「そうなんですか?」
ユノは不思議に思った。
「じゃあ竜は? コルタの人たちは、竜を信仰してるって聞いたんです。でも、魔族を毛嫌いしてるって……竜は魔族じゃないんですか?」
「魔族ですよ」
セレンは答えた。
コンコンと、寝室のドアが鳴る。
「失礼、ユノさま。わたくしはこれで」
「あっ」
杖を振ってセレンは消えた。
廊下から、人が入ってくる。
「目が覚められましたかな?」
首から十字架をさげた、ふくよかな体型の男がやって来た。
うしろから、十名ほどの若者がぞろぞろとつづく。
「私はコルタの町長をしております。『アルゴ=コルタ・ヒル』と申します。よろしく」
男――アルゴは洗礼名まで告げて、ユノに手を差し出した。
「ユノです。よろしくお願いします……」
戸惑いつつもユノは握手をした。
「魔物の群れを駆逐してくださったそうで……いやあ、これでようやくあの森に攻め込める」
『あの森』と聞いて、ユノの背筋が粟立った。
町長はブロード・ソードを、ほかの若者たちは戦斧や槍をたずさえている。
「攻め込むって……町長さんたちがですか?」
「そうです」
「ボクたち――アドニス隊長が率いる警護隊が、全部を解決するんじゃないんですか?」
全身が冷えていくのをユノは感じた。
森のなかにはアイがいる。
アルゴたちのうしろからアドニスがやって来る。
「オレたちはあくまで町の警護だよ。斬り込みは……彼らが直々にやってくれるとさ」
アドニスは、なかば呆れたように肩をすくめた。
「魔族の殲滅こそが、我ら神の御子に与えられた、崇高な使命なのです」
高らかにアルゴは謳った。
集まっていた若者たちも唱和して、祈りを捧げる。