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続・迷ったら月に聞け11~居場所  作者:
次世代の神達
33/198

湖へと到着すると、気を失って倒れている薫を、維月が浮いて見下ろしていた。

維心は、その近くへとスーッと寄って行くと、言った。

「維月。」

維月は、こちらを向いた。

その目は真っ赤で、維心は一瞬、誰なのか分からなかった。

しかし、維心を見た瞬間、維月の瞳はいつもの鳶色にスーッと戻って行った。

「…維心様。あの…我を忘れてしまいそうでしたわ。私、やはり陰の月なのですわね。どうしたものか、解放してしまうとそれはのびのびと…本当に、自分が信じられませぬわ。」

維心は、苦笑した。

「良いのだ。それも主であろう。ところで、薫は?」

維月は、首を振った。

「いえ、未だ…。闇は薫の中で意識を失い、薫も意識がありませぬ。だから、この体は倒れておるのですわ。」

維心は頷き、薫の顔を覗き込んだ。

薫は、確かに炎嘉によく似ていた。どうして気付かなかったのか、この華やかな様は、どう考えても鳥の血筋なのだ。

そして、やはりその命には、気を封じる術が掛けられてあった。

「…やはりの。封を解く。」

維心は、手を翳した。

すると、パアッと隠されていた本来の気が現れて、その大きさに、維月は思わず目を白黒させた。

「この気、鳥…?!薫は、鳥でしたの?!」

維月が驚いていると、維心は苦笑して頷いた。

「王族ぞ。恐らくは炎嘉の…」と言ってから、少し顔をしかめた。「炎嘉よな?確かに炎嘉と気の色がそっくりであるし…だが、何か違和感を感じる。闇が混じっておるからか。」

それには、維月は顔をしかめた。

「はい…確かに。闇が入っておりますから、変質して感じるかもしれませぬ。ということは、この子は炎嘉様の御子と?」

維心は、ため息をついて頷いた。

「そうよな。侍女の一人に手を付けておったらしいが、どうやら侍女の方から懇願して、ではひと夜だけ、と約してのことだったらしい。決して漏らしてはならぬという約定であって、本来ならそれで終わりのはずが、その一度で子が宿り…産めぬのだが、女は産みたかった。それで、外へ出てはぐれの神の中に居ったのだ。この子は、そんな場所で育つ子では無かったのに。」

言われて、維月はまじまじと薫の顔を見た。確かに、炎嘉に似ている。炎嘉も、恐らくは寂しさを紛らわせるために、つい誘いに乗ってしまったのだろう。そんなことでまさか子がなどと思わなかっただろうが、こうしてここに、生き証人が居る。

「ならば…きっと今ならば、炎嘉様もお喜びになるのでは。私にお子をと言って来られるぐらいですもの。」

維心は、ため息をついて頷いた。

「確かにの。こうして立派に育っておるのだ…炎嘉に、知らせてやらねば。そうして、これを助けねば。あれの力が要る。知らせをやらねばの。」と、浮き上がった。「義心をやる。維月、これをまた光希の屋敷へ。一応十六夜の結界があるゆえ、それがかすめて痛みを感じるという事は、こやつも今のように消耗しておる間は、出て来ぬだろうし。頼むぞ。」

維月は、頷いて気を失っている薫を気で持ち上げた。

「問題ありませぬ。十六夜も父も見ておってくれておるのでしょう。陰の月の激しい様を見せるのは…実は嫌なのですけれど。」

維心は、フッと笑った。

「主は主であるし我は良い。だが、十六夜は若干ショックを受けておったの。」

維月は、息をついた。

「確かに…まるで闇のような性質ですから、陽の月である十六夜には相容れないものに感じるのですわね。片割れには違いないのですけれど、本来私達は対極であるので。」

維心は、維月の頬を撫でた。

「そのように生まれついておるのだからしようのないことよ。案じるでない、あれも直に慣れる。それにしても…主が寝台で時にあのようになるのは、このせいかと今更に思うた事よ。」

維月は、それを聞いて真っ赤になった。

「まあ維心様…申し訳ありませぬわ。あの、ですが我を忘れておるわけではありませぬので…。」

維月が言い訳のように言うと、維心は笑った。

「案じるでないわ。時に主からあのように攻められると、我も新鮮で良いのだ。次を楽しみにしておる。」

維月は、ブンブンと首を振った。

「お、お忘れくださいませ!もう致しませぬから!」

しかし維心は声を立てて笑うと、宮の方へと飛んで行った。

維月は、赤い顔のまま、薫を気で引きずって、光希の屋敷へと向かったのだった。


炎託は、将維の客間でホッと息をついた。左手の袖を上げる…見えた腕には、ここに来る前には無かった、炎のような形の痣が出来ていた。

この痣は、鳥族全般、鷲も鷹も、死期が近付くと例外なく出るもので、炎託はそれで、もう自分の命が長くはない事を知った。

人型はまだ、老いてはいない。だが、そろそろ出て来るはずだった。現に将維は平気そうにあちこち飛び回るが、自分はついていくのがやっとの体力だ。

元々将維よりは200歳も年上なので、先に自分に老いが来るのは分かっていたが、こうして目の前にすると、さすがにショックだった。

とはいえ、覚悟は出来ている。

後は、何とか自分亡き後炎嘉が困らぬように、出来ることはやっておきたいということだけだった。

碧黎には恐らく見えていて、時にちらりと視線が流れて来るのは感じていた。十六夜も見ようと思えば見えるはずだが、今はそれどころではないらしい。炎託は早くこれの方を付けて、さっさと鳥の宮へ帰りたかった。しかし、今この状態では帰るとも言えなかった。それに、月の浄化の気のお陰で、老いの速度が緩やかなのも感じていた。帰れば恐らく、一気に加速する。何かする暇も、もしかしたら無いのかもしれない。

炎託は、息をついた。せめてもうしばらく時をもらえたのなら…。

寝台に横になり、とにかくは体を休めた。そうして明日の朝になったなら、恐らくはもっと老いているのかもしれない。だがそうする他に、今の炎託に出来ることは無かった。


次の日の朝、目覚めて重い体を起こし、鏡に己の姿を映すと、まだそう見た目は変わらなかった。

ホッとした炎託は、侍女を呼んで着替えを済ませた。ここは呼ばねば侍女が来ないので、本来勝手に着替えるのだが、どうにも腕を上げるのが辛くてならない。

居間へと出て来ると、もう将維が、スッキリとした出で立ちで座っていた。

「炎託、えらくゆっくりだったの。昨日はあれから、闇を屋敷へ映して管理しておる。それに、主にすれば嬉しい驚きであろうが、炎嘉殿の子が見つかったぞ。」

炎託は、目を見開いた。父上の?!

「どこに…どこに居る!」

それが居たなら、もう我は思い残すことはない。

炎託があまりに必死なので将維は驚いたようだったが、すぐに微笑んだ。

「安堵したであろう。父上が確認して参った。炎嘉殿は今朝からすぐに来ると言うておったので、そろそろ着いておるのではないかの。だがしかし…それが、薫なのだ。」

炎託は、息を飲んだ。自分はまだはっきりと見て居らぬが、闇に憑かれたと言うあのはぐれの神の軍神か。

「…父上が、はぐれの神の女を相手にされたと?」

炎託には、どうも解せなかった。前世ならいざ知らず、今生の炎嘉は大変に謹厳だ。維月一人を守り、そこらの女になど目もくれない。

しかし将維は、首を振った。

「侍女であった女ぞ。己から懇願し、その夜だけと決めてということらしい。本来ならその子は生むことは許されなんだが、女は宮を出て隠れて生んだ。それが、薫なのだ。いや、それは蒼が付けた名で、その女が付けた名は炎耀というらしい。」

「…炎耀…。」

ならば、どうあっても助けねばならぬ。

炎託は、身を乗り出した。

「では、父上が闇から逃れるために手をお貸しくださるのだな?父上ならば、並の精神力ではない故、間違いなく退けることができようの。」

そう、あの父ならば。

炎託は、心の中を安堵感が満たしていくのを感じた。これで鳥は、安泰。あの父の子が、よう生きて見つかってくれたもの…。

「炎託?!」

将維の声が、慌てたように言うのが聞こえる。

だが、炎託はもう、立っている力も、無かった。

そうして意識が喪失していく中で、将維の声だけが聞こえて来た。

「炎託…!主、いつからこれが…!」

腕の痣の事を言っているのだ。

そうか、見つかったか。

そこで炎託の意識は途絶えた。

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