恋敵で親友で1
二日目
「ピピピピッピピピピッ」
目覚まし時計の電子音で目を覚ます。枕元に手を伸ばし、スイッチを切る。
「ん~はぁ」
ベッドの上で大きく伸びをする。
時計を見ると七時半を示している。本来、私はこれ位の余裕を持って朝は起きているはずなのに、昨日に限ってどうして寝坊なんてしたのだろう。と、そんな事を考えていても仕方がない。
私はベッドから起き上がると学校へ行く仕度をし始める。
今日こそはミズホ=イスルギに接触しなくては。
今までだって、目的の人物をそう簡単にスカウト出来た訳ではない。何日にも渡ってFOLSの事を分かってもらい、入隊が決まっているのだ。
とにかく、直接会って話をしてみなければ、どういう人物なのか細かい事まで分からない。これからどう行動すればいいのか対策を立てるのはそれからだ。
それともう一つ、今日の内に片づけておかなければいけない事がある。エン=スガムラについてだ。
クシイに協力してもらう事になったが、本当にこれで解決するのだろうか…。
はあ……不安になるのは仕方ない、か。こんなミスを犯したのは初めてなのだから。
とにかく、今日が勝負所なのは確かだ……。
「おはよう、シータ」
生徒玄関で靴を履き替えていた私にそう声がかけられる。
顔を上げるとそこに立っていたのは、童顔で色素の薄い髪色の少年。
「あっ、おはようございます、エン君」
「教室まで一緒に行かない?」
と、エン。
「は、はい」
と、答える私。
これは良い所で会ったのではないか。エンに、今日の夜八時に来てくれれば父と会うことが出来る、と伝えるには。
そう思って口を開けようとしたその時、
「あのさ――」
先に出されたエンの声によって、私の声は打ち消される。
「シータの家ってどこなの?」
唐突な質問に私は一瞬言葉を失う。もしかして私が家に来てと言おうとしていた事が分かったのか、などと思えてしまう。
私は何でもない振りをして、
「東リクドウチョウよ。丁度、郵便局の隣なんだけど…分かるかな?」
「ああ、そういえばあそこ、空き家だったな」
と、どこか分かったのか納得して頷くエン。
「結構僕の家から近いじゃん。僕の家はオキスズミチョウなんだ」
「そうなんだ。って言われても、私はまだこの辺の地名とか良く分からなくて…」
「あはは、そうだよね。えーっと、オキスズミチョウっていうのは――――」
などと、近所の地理のを話している内に、私達は二年二組の教室の前へと着いていた。
教室の扉を開くと、何故か何人もの男子が一斉に駆け寄って来る。
「おはよう、コバヤシさん」
「おはよう」
「おはよう!」
一斉に押し寄せてくる男子達。
そんな中、エンは私から引き離されるようにして遠ざかっていく。
ああ、せっかくのチャンスだったのに…まだ肝心な事を言っていない。そう思ってももう後の祭りだ。
そうして、私は男子達に囲まれたまま自分の席へと着くしかなかった。
休み時間の度にエンに声をかけようとした。
けれども、何故かエンは授業終了と共に、すぐに教室を出て行く。
後を追いかけようとしても、相変わらず私の周りには他の男子達が集まって来て身動きが取れなくなる。
そんな訳で、何もしないままに午前の授業は終わりとなってしまった。
現在は昼休みなのだが、相も変わらず私は身動きが取れない状態。
「ごめんなさい、あの、私、友達と一緒にお弁当を食べる約束があるんで…」
私はそう言って、何とか昼食を一緒に食べようという誘いを断る。
といっても、本当は約束などしていないのだが。
男子の囲いをやっとの思いで抜け出すと、私は素早く教室を見回す。エンの姿は見えないが、目標の彼女は一人、自分の席に座ったまま。
という事は、今は本来の目的を進めるのが最善だ。
私は足早でミズホ=イスルギの席へ近付いて行き、正面に回り込む。
流石に男子達は追って来ない様だ。ばらばらに散らばって行くのが目に入って、私はホッとため息を付く。
と、安心している場合ではない。何とか彼女と二人で話す機会を得なければならない。
それには、昼食を一緒に食べるというのは良い手である。加えて、男子達から逃れる理由にも使ったのだから、そうなった方が周りからも自然に見られる。
とりあえず、話しかけなければ何も始まらない。私は意を決して口を開いた。




