恋敵で親友で2
「イスルギさん、ちょっといいですか?」
私が声を掛けると、それまでうつむき加減で考え事でもしていた様子のミズホ=イスルギは、ぱっと顔を上げてこっちを見上げた。そう、見たのだけれども、そのまま…まるで氷漬けにされたかのように動きが固まる。
一体どうしたというのか? とにかく、何も言葉が返ってこなくては話が進まない。
私はもう一度声を掛ける。
「あの、イスルギさん?」
「あ、えっと、な、何? コバヤシさん」
ようやく動き出すミズホ=イスルギ。
もしかしたら相手にされてないんじゃ、と一瞬不安にもなったので、少し安心して私は話を続ける。
「お昼、まだですよね?」
見たところ、授業が終わってからまだ席を動いた様子はない。さっきの様にずっと考え事をしていたのだろうか?
「あ、昼食ね。うん、まだ、まだだけど?」
「あの、私はお弁当なんですけど、イスルギさんは…」
ミズホ=イスルギはいつも弁当だという事は既に調査済みだ。返ってくる答えを知りつつも私はそう尋ねる。
「私もお弁当よ」
何だか受け答えしている顔がぎこちないのは気のせいだろうか?
ミズホ=イスルギの表情は、どこか取り繕ったような感じで、どう見ても機嫌が良い様には見えない。
とは言うものの、それだけ聞いて去るのも変なので、私は次の言葉を口に出す。
「それなら一緒に食べません?」
瞬間、彼女は目を泳がせて、あらぬ方向へと視線を向ける。
いきなりはやっぱりまずかったかなと思い、咄嗟に、
「あっ、でも嫌ならいいんですよ」
と付け加える。
ここで無理をして彼女に嫌われてしまうと、後々面倒な事になってしまう。
ゆっくり、ゆっくり近付いていってFOLSへの勧誘の話ができるようになれば良いのだ。なるべく悪い印象を与えないようにして…。とにかく、時間はあるのだから。
しばらくの間。
どうやらミズホ=イスルギは、私の誘いを受けるか断るか考えている様子だが…。
「いいよ、誰かと食べる約束をしてるわけじゃないし」
にっこりと微笑み、はっきりとミズホ=イスルギはそう答えた。
私は少しホッとする。そして、次の言葉を発する。
「それなら屋上に行きませんか? 今日は昨日みたいに天気が良いし、気持ちが良いと思いますよ」
もしかしたら、ある程度立ち入った話をする機会があるかもしれない。そうだとしたら、なるべく人気の少ない所が良いだろう。
教室では、他の人の耳に入らないかと落ち着いて話す事が出来ないだろうから。
「そ、そうね。行きましょう」
そう言うとミズホ=イスルギは鞄から弁当を取り出し立ち上がる。
そして、二人並んで廊下に出ると屋上へと向かった。
屋上に出ると、暖かな日差しと心地よい風が私達を出迎えてくれる。
昨日はあまり心にゆとりが無かったせいか全く記憶に残っていないのだが、屋上はこの季節にはくつろぐにはもってこいの場所のようだ。
これもまた昨日は気が付かなかったのだけれども、屋上にはいくつかのベンチが置かれている。
見回すと、もうすでに何組かのグループが弁当を食べたり話をしていたりするのが目に入る。と言っても、確実に教室よりは人気は少ない。
私達は空いているベンチを見つけると並んでそこに腰を下ろした。
「あの、イスルギさん。美味しそうなお弁当ですね」
ミズホ=イスルギが弁当のふたを開けたところで私はそう声をかけた。別に機嫌を取ろうとしてお世辞を言ったわけではない。本当にそう思ったのだ。
「え、あ、そ、そう?」
ミズホ=イスルギは少し照れたようで、顔がうっすらと赤く染まる。
「ありがと。自分で作ったんだ、これ」
私は、正直その言葉に驚いてしまう。そして、思わず感心してしまった。何故ならば、
「そうなんですか? 私、料理とか出来ないから尊敬しちゃいます」
という訳だ。そのくせ一人暮らしなんかしているから、殆どの食事は外で済ますか、出来合いの物を買ってきて食べるかしている。
今持っている弁当だって、朝、出掛けに買ってきた物だ。
「あはははは、そうなんだ」
顔が赤くなっているのを誤魔化そうとしたのか、ミズホ=イスルギは笑いながらそう答えた。
「そ、そうだ、コバヤシさん。気になってたんだけどさあー」
不意に、思い出したかの様にミズホ=イスルギはそう切り出す。
「ハイ?」
「私達、同い年じゃない? 敬語で喋らなくてさ、普通に話さない?」
その指摘に私は一瞬言葉を失う。
何故なら、そんな事は今まで言われた事がなかったからだ。
ミズホ=イスルギとの仲を良くするには、やはり言われた通りにする方が良いに決まっているので、
「そ、そうですか、じゃなくて…そうだね。うん、そうします…そうするね」
ぎこちなくなってしまったがそう答える。と、
「それで私の事はミズホでいいから」
こういう時はどういう受け答えが良いのだろうか?
ともかく、向こうはファーストネームで呼んでくれと言っているのだ。それに従うべきなのだろう。だとしたら、
「じゃあ私もシータって呼んでくだ…呼んでね」
男子はいつも親しく話しかけてくるのだが、女子に至ってはこの様に親しく話した事があっただろうか? 思い当たる範囲では全く無い。
どう対応したら良いのかさっぱり分からず、私は動揺してしまっていた。




