幼馴染と転校生3
一時間程経ち、退屈な始業式もやっと終わり、私達は教室へと戻って来ていた。
担任の先生は、今朝私を睨み付けたホンジョウ先生だった。
ホンジョウ先生には、昨年は数学の授業を持たれていた。そう、私の苦手な数学を。あ、と言ってもほんの少し、ほんの少ーし他の教科と比べて不得意ってだけで。
それはそうと、そのホンジョウ先生が遅い。教室に戻ってきてから十分近く経っているというのに、未だに姿を現さない。
一体どうしたんだろう? などと近くの席のコ達と話していると、
「いやあ、すまんすまん。遅くなってしまって」
教室の前の戸を開けたまま、ホンジョウ先生が入ってくる。
「ちょっとやる事があってな」
そう言うと廊下の方を向く。
「入ってきて」
その言葉に応えて、黒く長い髪をなびかせて入ってきたのは私達と同じ女子の東ココノエ高校の制服を身につけた美少女。
そう、エンが朝ぶつかって転んだあの少女だった。
「あっ!」
教室の後ろの方から声が上がる。この声は間違いなくエンだ、と振り返る。
案の定、エンは驚いた顔で少女を見ていた。
前に向き直ると、少女の方も気がついたのか、驚いた様な、困った様な、それでいて少し照れた様な表情をした少女の姿があった。
「どうしたエン、知り合いか?」
ホンジョウ先生は昨年もエンの担任だったせいか、私に対してよりも親しげに話しかける。
「え、あ、その――朝ちょっと見かけたんで」
我に返ったエンは慌てて体裁を取り繕う。
「ほーう」
ホンジョウ先生はニヤッとしたような表情を一瞬浮かべるが、すぐに元のにこやかな表情に戻ると、
「急な話だったんでクラス発表の時はまだ名簿に載ってなかったんだが、彼女も君達と今日から共に学ぶ事になった」
そう言って、少女に自己紹介を促す。
「あの、父の仕事の都合で引っ越してきたシータ=コバヤシです。よろしくお願いします」
そう言ってはにかんだコバヤシさんの顔は、ただただ綺麗と形容するしかないものだった。
男子達は「ヒューヒュー」と口笛を吹いたり、「よろしく!」などと言ったり、早くも彼女に自分を売り込もうと努力をしている。
エンもそうなのかと再び振り返ってみると、予想に反して他の人とは違う神妙な顔つきで前方を見つめている。
「おいおい落ち着け、お前ら」
赤くなりかけたコバヤシさんの顔を目にしたのかしないのか、とにかくホンジョウ先生はそう言って、みんなというか男子達を静める。
「気持ちが分からんでもないが、後は休み時間に個人的に彼女の所に行くんだな。と、それでだコバヤシ、お前の席は一番後ろの…エンの隣だ。さっき話してたやつの事だ。分かるだろ?」
そう言ってホンジョウ先生が指し示した先は、エンの右隣の席。確かにそこだけ空席だった。
「なんでだよ先生!」
「どうしてエンばっか!」
途端に抗議の声があがる。
「そう言われても名簿順だとそうなるんだ。まっ、席替えまで待つんだな。それじゃあコバヤシ、席に」
男子達を静まらせ、コバヤシさんを席へと促す。
不満の声があがるも、彼女はゆっくりと席へと向かう。
「分からないことがあったら隣のエン=スガムラに聞くように。と言っても、他の男子達も色々と聞いてもいない事にまで答えてくれると思うが」
コバヤシさんが席に着いたのを見ると、ホンジョウ先生は少しふざけてそう言った。
と、パンッと一つ両手を打ち鳴らすと続けて話し出す。
「よし、じゃあコバヤシにだけ自己紹介をやらせておくわけにはいかないからな。もちろん皆にもして貰うぞ。まずはアベ、お前から前に出てきて名前と何か一言」
こうしてホームルームをホンジョウ先生はどんどんと進めていく。
「えっ、いきなりっすかぁ?」
不満の声上がるが、ホンジョウ先生はお構いなしに名簿一番から前に呼び出す。
私はというと、ハァーとまたもや溜め息をつくと自己紹介の言葉を考え始めていた。




