幼馴染と転校生4
「じゃあねっ!」
ポンッと私の肩を叩くとアミは手を振ってくる。
「あっ、じゃあまた明日」
私はカバンに荷物を詰め込んでいた手を休め、アミにそう返す。
今日は午前放課という事で、アミの様にさっさと帰ってしまう者もいれば、午後からクラブ活動でもするのだろうか、友達同士で昼食をとっている者もいる。ちなみに私は帰宅部なので、帰ってしまう方になる。
その中、普段とは違う人集りが一つ、教室の後ろに出来ていた。集まっているのは男子ばかりで、クラスの内外問わず集まっている。その中心はもちろん美人転校生のシータ=コバヤシ。
見回してみると、教室内の女子は皆、睨み付ける様な目つきでそっちの方を見ている。
まぁ私も彼女たちに同感だ。
授業が終わるや否や、すぐにコバヤシさんの周りに集まって。これだから男ってやつは。
そう思いながら後ろの人集りに目をやっていると、その横に座っているエンの姿が自然と目に入る。
何をするでもなく、エンはじっと横、つまりコバヤシさんを囲む人集りを見つめている。
すると、そこに二人の男子が寄ってくる。エンの友人のユウタ=イガラシとアキラ=ササキである。
三人は何か話し始めたが、隣の人集りがうるさくて全く声は聞こえてこない。そうこうしている内に、二人はエンに手を振って帰って行ってしまう。
そこで我に返る私。何をしているんだか……とエンから目を反らすと帰り支度を再開する。
同じくすぐ帰るアミと私は、何故一緒に帰らないのかというと、実はアミには大学生の彼氏がいるから。校門を出た所でお出迎え、というのがいつものパターンだ。
そういう理由で、私は一人寂しく帰り支度をしている次第でありますが……。
「コバヤシさん、ちょっと」
その瞬間、教室の騒然とした空気が吹き飛ばされる。それだけの迫力が、その大きく重い声にはあった。
そして、さらに驚くべき事に、その声を発したのはエンであった。
「朝の事で聞きたいんだけれども」
次に発せられたエンの声は普段と変わらないもの。それでも静まり返ったクラスの中では、私にもはっきりと聞き取れた。
クラス中の視線はエンと、そしてコバヤシさんへと向けられていた。
「えっ、あ、あの…」
困惑の混じった声を発したコバヤシさんは、その白い、雪の様な頬を朱に染めていく。
「ちょっと来て下さい!」
と、コバヤシさんは急に立ち上がるとエンの腕を引っ掴み、勢い良く教室から走って出て行ってしまう。
あまりに突然の行動に、私も、そのすぐ傍にいた男子達も、ただその二人を呆然と見送るしかなかった。
先程までの喧騒が嘘のように静まり返る教室。
「何だったんだ今の?」
しばらくの沈黙の後、男子の一人のその一言を口火にして、教室は再び元の騒然とした空気を取り戻す。否、正確にはそれまで以上の騒がしさだ。
そうだよ、いったい何だったの? 今、目の前で起こった出来事は。あのエンは、まるでいつものエンじゃなかった様な。何か別の…そう、エンに良く似た別の誰かだったような気がしてくる。
普段のエンは教室の自分の席で大人しくしていて、クラスの話題の中心なんかには全く関係ない場所に居て……そう、あんな行動、エンに取れるはずが無い……。
と、私がボーッとしていると、
「ちょっとちょっとミズホ!」
「いいのー? 彼氏連れてかれちゃって」
話しかけてきたのはアミと同じく昨年のクラスメイト、レイナ=ヒナモリとマコト=ヨカワである。
「なっ、何言ってるのよ! エ、エンはただの幼馴染だし!」
そうは言ったが、私は明らかに彼女たちの言葉に狼狽していた。
あの冴えないエンが…。まさか女子にもてるわけもないと思っていたし、まだまだ子供で、女の子に興味を持つなんて事はまだ先だろうなって思っていた。さっきの二人の様な男友達と、わいわい遊んでいる方が好きなんだろうなって思っていた。
だからこそ、私は今までエンに気持ちを伝えようとはしなかった。エンがそういう事に興味を持つようになるまでは、下手に動いて今の関係を壊してしまわないように、と。
それなのに、いきなりこんな事になるなんて。
「私には関係ないよ!」
私は語気を強くしそう言うと、荷物を持って立ちあがる。
「やっぱり追いかけるんだ」
「心配なんでしょ?」
その行動にすぐさま反応する二人。
「帰るのよ!!」
大声でそう言った後、私は自分で顔が熱くなるのを感じた。おそらく、傍から見れば真っ赤になっていただろう。
クラス中の視線が今度は一斉に私の方に向けられる。
私はその場から一刻も早く逃げ出そうと、脱兎の如く教室から走り去る。
そのまま廊下を駆け抜けると、階段の所でやっと息をつく。
「何で私がこんな…」
手摺りに寄りかかって息を整えながら、私はそんな事を口にしていた。




