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一週間前の例の事件の後、私はエンと共にFOLSに入隊した。
ARUTOという犯罪組織から世界を守るとか、時間を越える事が出来るとか、そういう事に惹かれたから入る事にした訳ではない。
私がその判断をした理由は、エンもFOLSに入るからという事、ただそれだけだ。
これは後からエンに聞いたのだけれども、エンはずっとFOLSに憧れ、入りたいと思っていたらしい。それで、シータがFOLSの隊員だと気付いたエンは、現在の様にFOLSに入るに至ったという訳だ。
もちろんそれは、エン自身にFOLS隊員になるに足る能力があったからだけれども、私にさえも気付かれない様にエンが鍛えていたという事を知って、少し寂しく思った。
何だかエンが、私の知っていたエンと全く別の人になってしまったような…。
ともかく、エンがFOLSに入るという以上、私がFOLSへの誘いを断るはずはなかった。これ以上、エンから置いてけぼりにされるのは耐えられない。
だから、自分自身にFOLSに入れるだけの能力があるとは思っていなかったのだけれども、私はFOLSに入隊する事にしたのだ。
FOLSに入隊はしたものの、私もエンも、今までと変わらずに学校に通っている。
ベータさんが言うには、
「高校卒業まではFOLSの活動に専念しなくてもいいわ。突然二人が学校からいなくなってしまったら周りが不自然に思うかもってのもあるけれども、やっぱり若いうちにしか学べない事が色々あるからねぇ」
という事らしい。
一応FOLSは秘密組織なので、隊員は目立つ訳にはいかない。なので、普通に就職するかのように高校卒業と共に本格的にFOLSの活動に参加した方が良いし、一般的な教養は今の内に身に着けておいたほうが良い、という事なのだろう…たぶん。
実際の所は何か別の理由があるのかもしれないが、ベータさんはずっと上の存在で、私なんかの考えが及ぶとは到底思えない。
とにかく、そんな訳で現在のFOLSでの活動は平日の放課後だけと限られている。
そして、現在の私の活動は専ら訓練である。
私は潜在的には大量のアルドを持っているらしいのだが、それを使いこなせていない、らしい。だから、それを引き出せるようにする特訓と同時に、身体能力を上げるための一般的なトレーニングをこなしている。
アルドの方はともかく、運動の方にはそれなりの自信があったのだけれども、その自信は既に粉々に打ち砕かれている。何故なら、運動神経がないと思っていたエンに、運動の方の指導をしてもらっているんだから…。
それを知ったときは、驚いたなんてもんじゃなかった。今まで運動音痴だと思っていたのが、実はプロスポーツ選手も真っ青な運動能力だったのだから。良くそこまで周りにばれないで鍛えられたというか、隠し通す程だからこその常人離れした能力というか。
今まで私の見ていたエンは何だったのか…と落ち込みもしたが、今となってはもう迷いは無い。
エンが今までどんな隠し事をしていたとしてもエンはエンだ。私の思い出の中にあるエンの姿が嘘という訳ではなく、エンと私との思い出もまた真実なのだから。
むしろ、私は今の状況を嬉しく思っている。たとえそれがトレーニングという名目でも、毎日放課後にエンと二人きりの時間を過ごせるようになったんだから。
ひとまず、今はエンとのトレーニングの前にFOLS本部でアルドの方の訓練である。
ここからFOLS本部まで、車で移動して約二時間。けれども、今の私にはそれは一瞬の距離である。
私は内履きから外履きへと履き替えて校舎を出ると、人目のない木陰へと入っていく。そして、制服の内ポケットへと右手を差し込み、その中にある硬い感触を確かめる。
目を閉じ指先へとアルドを集めると同時に「FOLS本部へ」と頭の中で念じる。すると、まぶたの裏にFOLS本部が、魔光石による内装が施されたロビーが映し出される。
一瞬、浮遊感を感じるが、次の瞬間には足元に硬い感触が戻ってくる。そして、目を開けるとそこは、まぶたの裏に映っていたのと同じ、現実のFOLS本部のロビーである。
空間移動――この世界でFOLSだけに許されている禁断の技術。制服の内ポケットに入っている厚さ数ミリの銀のプレートが、それを可能にしたのだ。
私はこれをFOLSに入ったその日にFOLS隊員章と共にもらい、その扱い方も習った。今ではこの様に、FOLS本部への行き来で使っている。
と、
「あっミューちゃん、こんにちは!」
この一週間で聞き慣れた声が響く。
ミューというのは私に与えられたコードネームだ。
「こんにちは、エルピナさん。相変わらず元気ですね」
私は声の主と挨拶を交わす。
私が現れたすぐ横の受付にいるのが彼女、エルピナさんだ。ふわふわとしたショートカットの良く似合っている、元気で明るい女性だ。
「あはは! 元気だけが取り柄みたいなものだしね! ミューちゃんは今日も秘密特訓? 毎日大変だよね!」
八重歯をのぞかせながら笑顔で話すエルピナさん。
「秘密特訓って…ただの訓練ですよー!」
思わず笑みがこぼれる。うん、やっぱり私はこの人の事は好きだなぁ。
「でもでも、今まで通りに普段は普通の高校生をやってるんでしょ? だったらやっぱり秘密特訓じゃない! 私なんかいたってフツーの高校生活だったしね!」
「あはは、じゃあそういう事にしときましょうか――っと、私、早く行かないと教官に怒られちゃうんで、もう行きますね」
腕時計へ視線を移しそう答える。
まだ時間はあるのだが、エルピナさんと話しているとついつい長話をしてしまうため、早めに話を切り上げる事にする。
「あ、そっか! 呼び止めてごめんね! じゃ特訓がんばってね!」
「はい。エルピナさんも、お仕事さぼらないよーに!」
あははと笑う彼女に手を振ると、私は地下の訓練場へと向かって歩き出した。




