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三国志だと思った?残念!  作者: 龍ヶ崎エタニティ
11/22

一刀、真桜と石臼を作る

久しぶりに一週間以内に更新できたので良かったです。

豊島についてから既に2週間、鈴々の指揮の下で一刀は石灰石を消石灰に変じることに成功し、なんとか漆喰もどきとでも言うべきものを作り上げていた。


ただ、鈴々の鍛冶用の小規模な炉では、漆喰などを本格的に築材として用いるための大量の消石灰の生成は不可能であり、新たな炉の建造を視野に入れなければならないというところで、漆喰に関する計画は一時棚上げということになった。


一刀は一刀で、漆喰における各材料の比率の研究など個人で出来ることは続けるつもりだったが、ことが建築材である以上、大規模な予算が必要になることは分かっていたので、その決定に自体には特に不満はなかった。


その代わりに、一刀が始めたのが石臼の試作であった。


一刀はその日も鈴々の屋敷の中庭で、黙々と石にノミを入れていた。


最初に彼が鈴々の屋敷の中庭で作業を始めたときは、ひっきりなしに見物客がやってきたのだが、ひたすら石を加工するだけの面白みのない工程に、徐々に人は減っていき、初めてから三日目の時点で、一刀の様子を見にきているのはたった一人という状況になっていた。


彼としては「天の御使い」と下手に持ち上げられるよりは、この方が落ち着くのだが、やはり単純作業というのは集中が解けたときに一抹のむなしさが去来するものではある。


「どうせなら、一緒にやる?」


だから、一刀がノミを止め、額の汗を拭って一息ついたところで、未だに自分の単純作業をキラキラとした目で眺めているたった奇特な人物──真桜にそう声をかけたのは必然であったと言えるだろう。


「いいん?」

「一人より二人の方が効率いいと思うし。七乃さんには後で俺が言っとくよ」

「そういうことなら、やらせてもらおかな」


真桜は少しばかり一刀に対して悪いことをしているかもしれないという表情を浮かべていたが、それは全くの杞憂であった。何せ、一刀が真桜に渡した工具は、その前日に七乃が彼に渡してきたものなのである。


実際、石工でも何でもない彼が、一人で一から石臼を作るのは無理があった。それは生粋の武士である真桜でも同じはずなのだが、彼女には不思議とこういったことが得意そうな空気のようなものがあったのだった。


それから一週間後。


「うーん、これで問題無いはずなんやけどな。やっぱ、角度が悪いんやろか」


真桜は、一刀が差し出しているスマホの図と自分が足元で加工していた石臼を見比べて、唸るような声を上げた。


「ごめん。俺がもうちょっとマシな画像引ければよかったんだけど」

「いやいや、一刀はんが謝ることやないで。むしろ、ここまで具体的な設計図を示されながら、形にできないわいに問題があるんやて」


一刀と真桜の言い分は半分半分でどちらも正しかった。


一刀はこの数日、いくつかのサイトで石臼の具体的な構造を描いた画像を引いてはいたのだが、それは全て古い石臼のリメイクを解説するサイトであって、一から石臼を作り上げるためには少しばかり情報が少なかったからだ。


ただ真桜には、協力を依頼された初日から、かなりの部分まで石臼の構造を理解した節があり、三日経った時点でまだ粉すらろくに挽けないという状況は、少しばかり奇妙ではあった。


「まあ、そんなに焦ることもないんちゃう?祭の姉御がこっちに来るまでに形にできれば、上々ってとこやろし」


祭は大国玉から豊島への旅路に同行せず、一度、彼女の本拠地に帰って、周囲の土豪たちを鈴々に恭順させる仕事に従事しているところだった。

この決定については祭と七乃の間で一悶着あったのだが、今の時点で自分を手元から離したがらないだろう七乃の考えを読んで、先に鈴々に許可をもらっていた祭の作戦勝ちといったところであった。


どうせなら後腐れなく家屋敷に火をつけてくると笑いながら言っていた祭の姿を思い出しながら、一刀はこの頃、小耳に挟んだ情報を口にした。


「けど、それだって、もうほとんど終わったようなもんだって、聞いてるけど」

「せやね。平の家の内紛としては、平国香と平将門が手を結んだ時点で、ほぼ決着がついたようなもんやから」

「そこがよく分からないんだよな。だって、まだ棟梁の平良兼とは敵対関係なんだろ?」

「あー、一刀はんからしたら、そうなのかもしれんね。うちかて普通の状況やったら、棟梁を残して、家の内紛が決着するなんて考えられへんもん。ただ、うちらの大将はあの平将門やからね」

「鈴々が相手だと、そんなに違うもんなんだ」

「そりゃ、違うで。何せ、平将門の騎馬軍団ちゅうたら、掛け値なしにこの関東最強や。祭の姉御やって、内輪で兵をいたずらに減らすのを避けたのもあるんやろうけど、戦うのに合戦やのうて奇襲を選んだくらいやからね。少なくとも勝とうとしたら、最低でも歩兵で千は集めんと話にならん。それでも平の家と将門との対決ちゅう構図やったら、どうにかなったんやろけど、祭の姉御がこっちについてる状況で、平将門と正面きって戦ってくれる兵はほとんどおらんと思うで」

「だけど、真桜の母親とか、何だっけ、藤原の何とかって人は油断ならないって話だよな?」

「ああ、藤原秀郷やね。あのおっさんは噂を聞いた限りやと、どんな状況でも油断ならんのちゃう?けど、それはまた違うお話ではあるんや。紫苑母さんや秀郷かて、単独で集められる兵ゆったら、そこまでの数やない。ただ、この二人には姉御や良兼が絶対に取らへん策が使えるからね」


そこまで言われれば、一刀には真桜が言わんとしていることが理解できた。彼が知っている史実でも、国香を殺害した将門は最終的にそれを敵に回してしまったのだ。


「都を巻き込むってことか」

「なんや、もしかして、うちのこと試してたん?一刀はんの言う通り、都に使いを出して、討伐の命令の一つでもせしめれば、兵の千や二千、造作もなく集められるって寸法やね。まっ、もちろんロハってわけにはいかんやろうけど」


国香や良兼が都の助けを借りようとしなかった理由を、真桜の言葉が端的に示していた。都の命令は周囲に利に敏い武士たちを動員する最強の打ち出の小槌だが、それには相応の対価が必要なのだ。将門を倒したところで、その所領の一部を都に献上しなくてはいけないとなれば、結局、平の家全体としては弱体化したことになる。祭にしても良兼にしても最初から論外の方策であった。


「しっかし、どこが悪いんやろな」


話が一段落したところで、真桜はスマホを覗きこむために一刀に肩をよせた。そんなことせずとも、スマホを真桜に手渡せば良いようなものだが、彼にこちら側の攻撃がほとんど通じないのと同じ理屈で、スマホを操作できる人間は彼以外にはいなかったため、彼に接近する必要があるのだった。

鈴々などは、一刀の背中におぶさり肩越しに眺めていたりはしたが、大半の人間は横から覗きこんでいた。


そういう意味で、この手の接近は一刀からすればすっかり慣れたものだったが、相手も同じ気持ちであるとは限らないものだ。


これだけ身を寄せて、反応一つないちゅうことは、やっぱ脈無しってことなんやろなぁ。真桜は一刀から離れると、そう一人合点して小さくため息を吐いた。

この数日、仕事にかこつけて彼女としては積極的に一刀にアピールを繰り返していたのだが、いつも平然としている一刀を見て、すっかり自信を喪失してしまったのだ。


実際のところ、一刀もほんのりと背中に胸を押し付けられたときなどは、気が気ではなかったのだが、ここで過剰に反応してしまうと後の作業しにくくなるだろうと思い、必死に耐えていたのだが、真桜からすれば、ここまでしても駄目かと、その夜、寝具に顔を埋めてバタバタせざるえないぐらいの屈辱ではあった。

とはいえ諦めてしまえば、引きづらないのが彼女の性質でもあり、気分を切り替えて前々から気になっていたことを聞いてみることにした。


「ところで、一刀はんとしては、七乃さんと鈴々の大将、どっちが本命なん?」


すげぇな、この子。一刀は真桜のあまりにもド直球の質問に妙に関心してしまった。集団のナンバーワンとツーのどちらとも関係をもっているというのは、どうしたって人の興味をそそるわけで、今までにも彼にそういった類の質問をしてきた人間は少なくなかった。

ただ、その質問は何重にもオブラートがまかれたふんわりとしたものが常であったので、一刀としては真桜の逃げも隠れもできない問いかけは新鮮だったのである。


とはいえ、彼としては直球で聞かれたところで、返せる言葉が変わるわけでもなかったのだが。


「毎回言ってたんだけどさ。俺が選ぶ立場って前提が違うと思うんだよね」

「そんなこと言うたかて、一刀はんが両手に花もってるちゅうのが現実やん?」

「いや、そりゃそうなんだけどさ。それは何っていうか、もの珍しさっていうか、偶然みたいなもので、長く続くようなもんじゃないと思うんだよ。どう考えたって、俺にあの二人を引き止めておける何かがあるとは思えないし」


これは一刀の偽らざる本音だった。


「せやけど、一刀はんモテるやろ?今日かて、うちが来る前に屋敷の娘と楽しそうにお喋りしてたやん」

「モテるっていうか、あれは”天の御使い”を在り難がってるだけだよ。真桜からしたら、俺なんて何の魅力もないだろ?」

「そんなことないと思うんやけど──」

「具体的には?」


真桜の言葉に、一刀はぐいっと距離をつめた。彼としては色眼鏡がかかっていない人間の視点から、自分の評価を聞いてみたいとずっと思っていたのだ。


ちかっ。真桜は一刀の予期せぬ接近にドキッとしたが、今まで自分がかなり無理目に距離をつめていた関係上、言葉にして拒否することも出来ない。

自然の動揺が一刀が気づかぬことを祈りながら、彼女は上擦りながらも言葉を紡いだ。


「そ、そやね。やっぱ、一般論やけど、うちらを女の子扱いしてくれるちゅうのは、得点高いちゃうかな」

「女の子扱いって、真桜は普通に可愛い女の子だと思うけど」


可愛いって、可愛いって言われてもうた。真桜は赤くなっている自分を隠すために、失敗作の石臼を手でちょんと叩いた。


すると、その石臼はまるで最初からヒビでも入っていたかのように、真っ二つにその場で割れた。


「これでも、まだ、普通の、か、か、可愛い女の子やと思うん?」

「思うよ、だって、えっと、「物見」だっけ。神技ってそういうものなんだろ?」

「せや、これはそういうもんや。せやけど、一刀はんみたいに、それをそういうものだって受け入れられる人間はそう沢山はおらへん。剛毅で知られとる平将門の騎馬軍団でも、中を割ってみれば大将への憧れ半分、怯え半分ってとこやと思うで。それに誰かて、自分を怯えた目で見ている人間といい仲になりたいとは思わへんやろ」


なるほど、だから全体的に俺に対しての評価が高いのかと一刀は得心したが、彼の真桜たちへの怯えのなさは、鈴々の攻撃すら通さない自分の現状に一番の原因があったので、何とも言えない気分ではあった。


「他には何かあったりする?」

「それは、やっぱ誰も考えたことないようなことを知ってるところとか」


これも俺の力じゃないな。一刀は自分が見苦しいことをしていることを頭のどこかで意識しながら、問いかけを止めることが出来なかった。


「他には?」

「鈴々の大将に見事に勝ってみせたとことか」

「他には?」

「せやね、七乃さんに一目置かれてるとことか」

「他には?」

「何やろ、顔がかっこいいとこやろか」

「えっ?」

「えっ?」


二人は思わず、見つめあい、ついで真桜がいてもたってもいられず、その場から駆け出そうとして、足元にあった石臼に足を取られた。


とっさに一刀は、真桜を後ろから抱きすくめることで、彼女が転ぶのを防ぐことに成功した。彼は自分たちの現状に気づき、すぐさま離れようとしたが、真桜が自分の腕の中で耳まで真っ赤にして震えていることに気づいて、方針を変更した。


「俺の顔、かっこいいって思ってくれてたんだ?」

「い、一般論や。それと一刀はん、ちょいと距離が近過ぎんっ」


一刀は真桜の初心な反応に、何とも言えない心地よさを味わっていた。それは一種の支配欲から来るものであって、何処までも底が知れぬ七乃や、逆にどこまでもカラっとしていて性の営みすらスポーツの一種であるような鈴々と付き合っていては絶対に満たされない類の感情であった。


それ故に、このとき一刀は未知の果実を前にして少しばかり暴走していた。


「そうかな?真桜だって、さっきまでこれぐらいの距離感だったと思うけど」

「嘘や。そりゃ、意識して近くはしとうたけど。ここまで近くはなかったはずやで」

「ふーん、やっぱわざとだったんだ」

「ちゃうねん、今のは言葉の綾ってやつで──」


一刀はそれ以上言わせまいと両手に少しばかり力をこめて、ぎゅっと身体を密着させた。


「分かる?俺はさっきも、今も、ずっと心臓がドキドキしてるんだけど?」


あかん、このままや、ドツボや。真桜は迷走に迷走を重ねる思考の中から、何とか起死回生の一言を探そうとした。そして、それは案外と簡単に見つかった。


「七乃さんが言うとったで、一刀はんは現実から逃避するために女に走ってるだけやて」

「酷い言い振りだな。そんなわけ──」


真桜は自分の肩先にぽたりと水滴が落ちるのを感じた。


「泣いてるん?」

「ごめん、俺、なんか調子のって、どうかしてたわ」


その言葉とともに一刀が自分から離れようとしているのを察して、真桜は俊敏に自分の体を翻して、その両手で一刀の両頬をやさしく挟み込んだ。


「何って顔してるん。男前が台無しやないの」


一刀の顔は、涙こそ最初の一滴で打ち止めだったため泣き崩れてはいなかったが、自嘲と真桜に対する申し訳なさが混ぜ合わさった何とも情けないものになっていた。


「いや、何っていうか、図星だったみたいでさ。真桜だって、そんな男に迫られても嫌なだけだよな」

「うーん、まあな。嫌っていうよりは、少し怖かったかなぁ。何か、こっちの話聞かんとグイグイ来る感じが」


一刀は真桜の言葉に少し黙り込んだ後、気まずそうに言葉を紡いだ。


「あー、あのさ、真桜。男って馬鹿だから、そういうこと言われると、嫌じゃなかったって部分だけ、前向きに捉えちゃうんだけど」

「別に間違ってないんちゃうん?ただ、ほら、わいも可愛い女の子やから、そうなる前に言葉が欲し──はやい、行動がはやいで、一刀はん」


一刀はその場で真桜を抱きかかえると、そのまま中庭からつながっている自分の寝所に向かって歩き出した。


その道すがら、一刀はほっとしたようなため息をついた。


「どうしたん?」

「いや、本当に嫌じゃなかったんだなと思ってさ」


真桜はその意味が一瞬理解できなかったが、次の瞬間、再び耳まで顔を赤らめた。つい先ほど一刀が真桜の身体を持ち直した際に、新しく触れた臀部の付近は、一刀に後ろから抱きすくめられてから、現在進行形で、ヒドいことになっている部分だったからだ。


「あ、あれや。今の発言は、セクハラってやつやで!」


真桜の叫び声が、屋敷の中に木霊したのだった。


次の日、石臼の試作機は、真桜のちょっとした工夫で完成したそうな。












一刀さん、肉食系男子に進化しそこねるの巻。次は沙和で、4P風に凪という鉄板コースですね。


この話の一刀さんは、本質的には真面目系でそこまで才に長けない人と波長が合うので、メイン二人は完全にキャパをオーバーしている感じだったりはします。だからといって、特定のヒロインに走らせるつもりもないので、完全にどうでもいい設定ではありますけど。


次は、視点を他の勢力に振ろうかなと思っているんですが、字数が多かったら、2回に分けてとかになるかも。

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