お喫茶(新作エピソード)
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立 池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
あーかい部に所属するうら若き乙女の干物達は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
『アウトオブあーかい部!』は、そんなあーかい部のみんなの活動記録外のお話……。
池図女学院部室棟、あーかい部部室。
……ではなく、とある喫茶店。
きはだとモーラはお墓参りの帰りに朝ごはんを食べに寄り道していた。
※ep.86参照
奥まった4人掛けの席に着くなり、モーラはこめかみよりもちょっと高いところでフラメンコのように手のひらをパンパンと打ち鳴らし店員を呼んだ。
「店員さんとりあえずブラック2つね!」
「ミルク2人分もお願いします。……いつもすみません。」
慣れてますと言わんばかりにちょっぴり引き攣った笑顔で応えた店員さんの後ろ姿を見送ると、モーラは悠々とテーブルの上にメニューを広げた。
「いんやぁ〜、いつも悪いね♪」
「ミルクくらい自分で頼んでよぉ……。」
「ま〜まあ、『とりあえずブラック』って頼むのがカッコいいんじゃん。」
「店員さんでも狙ってるのぉ?」
「え?やだよタイプじゃないし。」
2人の席に来た店員さんが水を入れたグラスを置く音がいつもよりほんの少し大きかった。
「「ッ!?」」
2人がビクッと縮み上がると、店員さんはまた少し引き攣った笑顔で会釈をして奥へと戻っていった。
「あんまり怒らせると出禁になっちゃうよぉ〜?」
「げっ!?それは困る……からいっぱい頼むぞきはだ!」
「まだモーニングの時間なのにぃ?」
「いうて早起きしてお腹減ってんでしょ?」
「まあね。」
「ほいじゃあ
「店員さぁ〜ん。」
モーラがまた手を叩こうとすると、きはだが声を張り上げて先に店員を呼んだ。
「ああっ!?いつものアレやりたかったのに……!」
「やったじゃんさっき。」
モーラがほっぺを膨らまして抗議していると、店員さんがちょっと口角を上げてやってきた。
「ほらほら、たくさん頼むんでしょ〜?」
「そーだったそーだった。ええっと……フレンチトーストにエッグマフィン、アボカドシュリンプサンドに店員さんのスマイルとチーズガレット……、きはだは?」
「ピリ辛タコス風ホットドッグで……。」
途中で店員さんが持っていた注文のメモがシワクチャになる音が聞こえたが、店員さんは笑顔のまま注文を取り終え店の奥へと戻って行った。
「店員さんすげぇー。」
「いや、なにしれっとスマイル入れてんの。」
「向こうじゃそんな珍しくもないんだけどねえ……。」
「ナンパ留学でもしてたの?」
「これでも結構イケてたんだよ〜?」
「店員さんエッグい青筋浮かべてたけど。」
「はぁ……。こっちはお固いお国柄だからねぇ〜。」
「向こうが良かったならなんで帰って来たのぉ?」
「なんだかんだ帰って来ちゃうもんなんだよ……『ふるさと』ってやつぁ。」
「……これで飲んでるのがミルクタップタプの甘々コーヒーじゃなきゃサマになるんだけどねぇ。」
「うっせ。」
「お砂糖何個入り〜?」
「きはだは今まで食ってきたパンの枚数を覚えているのか?」
「向こうのジョーク?」
「こっちで流行ったやつだよ……!うわ〜ジェネレーションギャップかあ……。」
「海を越えて時を越えて、お忙しいことで。」
「あたしゃド○えもんか。」
「ド○えもんは店員さん口説かないんよ。」
「ほな違うかあ。」
2人はカップのコーヒーを啜る音がシンクロした。
「ねえねえモーラさん、」
「お、なんだい言うてみい。」
「こっち来てから何連敗?」
「失敗する前提かいっ!?」
店員さんがアボカドシュリンプサンドとピリ辛タコス風ホットドッグを運んでくると、モーラは店員さんにウインクして、店員さんは表情筋を痙攣させながら引き攣った笑顔で会釈した。
「ほい1敗。」
店員さんの後ろ姿が一瞬咳き込んだように見えた。
「い、いやいやまだ終わっとらん……終わっとらんよ。」
「ホットドッグ美味ぇ〜。」
「興味を失うんじゃないよ。」
「え〜〜、もうやめときなよぉ。店員さんに迷惑だよぉ?」
喫茶店の窓に反射して遠くに見えた店員さんが『そうだいってやれ』と言うかの如く、何度も大きく頷いていた。
「……。」
「い……いやいや、ご飯いっぱい頼んだから大丈夫!……なはず。」
「こうして人は課金に依存してくんだねぇ……。」
「み、見てろよぉ!?きはだに店員さんが『キュン……♡』ってするとこみせたるかんなぁ?」
そう言うとモーラはメモ帳のページを引きちぎって電話番号を書き殴ると袖の中に仕込んだ。
「うっわぁ……それほんとにやる人いるんだぁ。」
「見てろよぉ……。」
モーラが頬杖をついて店の外を眺めるふりをして、窓に反射するバックヤードを睨みつけた。
「だせぇ〜。」
「うっせ。」
こちらの話を聞いていたかのような見事なタイミングで店員さんがエッグマフィンだけを持ってきてきはだの目の前に配膳し、にこやかに微笑んだ。
「あ、これこっちですお姉さん。」
モーラがキメ顔で配膳し直すように促すと、店員さんはまた笑顔を引き攣らせつつモーラの目の前に皿を配膳しなおした。
「どうも……♪」
店員さんの手が近づくと、モーラは違和感を感じさせる間もない流れる手つきでほんの一瞬のうちに店員さんの手にメモ帳のページを握らせ手を振り見送った。
「え、慣れすぎでしょ引くぅ……。」
「見とけ見とけ〜?」
店員さんの後ろ姿が一瞬立ち止まると、紙を引きちぎるような音と、続いてグシャっと握りつぶすような音がして店員さんの右手が制服のポッケに突っ込まれた。
「ほい1敗。」
「ぐあああ……ッ!?」
「諭吉にでも書けば受け取ってもらえたかもねぇ。」
「いよっしそれだ!」
モーラは嬉々として財布から千円札を取り出すと、小さく折りたたんで袖に仕込んだ。
「……プライドは。」
「そんなもの、ウチにはないよ……。」
モーラがまた店の外を眺めるふりをしたタイミングに合わせて、今度は店員さんがチーズガレットを持ってくるのが見えた。
「なんだか店員さん、わざと一品ずつ持ってきてモーラさんのリアクション楽しんでない……?」
「チッチッチ。そいつぁあたしと何度も会話するためにやってんのさ。」
店員さんが今度はモーラの前に皿を配膳すると、また流れるような手つきで千円札を握らせた。
店員さんが目線だけ下ろして握らされたものを確認すると、ほんの一瞬真顔になって、
「……『キュン……♡』」
今までの引き攣っていた笑顔が嘘のような満面の笑みでモーラに会釈し、また店の奥へと戻って行った。
「……全部聞かれてて草。」
「うっせ、勝ちは勝ちだ『キュン……♡』って言わせたんだから……!」
「接客業すげぇ〜……。」
「フッフッフ……我がジャパンの接客は世界一ィィィ!」
「……まだフレンチトースト持ってくるけどどうすんの?」
「……あ。」
この日、モーラはもう1敗して負け越した。
きはだ、モーラ(2)
きはだ:いやぁ〜満足満足
モーラ:またいこーね
きはだ:その勇気は賞賛に値する
モーラ:勇気じゃなくて惚れさせた償さ
きはだ:千円札なら毎日見てると思うよぉ?
モーラ:それはそう
きはだ:連絡来た?
モーラ:店員さん体調悪いのかな?
きはだ:心象は間違いなく悪いねぇ
モーラ:おい
きはだ:え、なに本気で狙ってるのぉ?
モーラ:はぁ〜、やだねぇあんなのお戯れの内だよ
モーラ:釣った魚飼うつもりで釣り堀に糸垂らす人なんていないっしょ?
きはだ:サイコーにサイテーで草
モーラ:あっはっはよせやい向こうじゃ普通だよ普通
きはだ:海の向こうへの深刻な風評被害
モーラ:いやいや、お休みの日に持て余した時間を店員さんとのじゃれ合いに使うのはそんなに珍しくもないって
きはだ:訴えられても知らないよぉ?
モーラ:だからチップあげてんでしょ
きはだ:な〜るほどぉ
モーラ:それにだよ?
モーラ:あの逞しすぎる店員さんがこんな金蔓をみすみす訴えて手放すとでも?
きはだ:確かに
きはだ:良かったぁモーラさん客観視することできたんだぁ
モーラ:フッ
モーラ:気分はヒーローごっこの怪獣さ




