懸賞
池津女学院部室棟、あーかい部部室。
「はむっ……、」
あさぎは独り、部室で菓子パンを貪っていた。
「ちゃおっすあさぎちゃん。」
「はむっ……、あ、きはだ。」
「食ってるねぇ……。」
「食ってるね。」
生返事をする傍らで、あさぎは何やらカバンをガサゴソしている。
「あさぎちゃんってそんな菓子パンジャンキーだったっけ?」
「ジャンキー言うな……お。あったあった。」
あさぎがカバンから取り出したのはハサミだった。
「おいおいよせよブラザー、話せばわかる。」
「ブラザーじゃなくてシスターね。」
ツッコみ所がちょっとズレてることもお構いなしに、あさぎはさっき食べ終わった菓子パンの袋をジョキジョキしている。
「見せしめなんて今どき流行らんぜ?」
「さっきからなんで自分が切られる前提なのさ……。」
「あれぇ?わたし助かる?」
「助かるも何も、ただの懸賞だよ……。」
「へ〜、面白いことやってるねぇ。」
「懸賞って面白い?」
いつもの如く他愛もない雑談をしていると、部室のドアが開いて見知った顔が1人、雑談に加わった。
「待たせたな。」
「お〜ひいろちゃん、ちょうどいいところに。」
「ちょうど?」
「あさぎちゃんを見てどう思う?」
「あさぎ?……何か面白そうなことをしているな!」
「ほれみろ〜♪」
「菓子パン1つでなぜ煽られにゃならん……。」
「っていうかあさぎは何をしているんだ?」
「ただの懸賞だよ。ほら、応募券何枚で当たる……ってやつ。」
「そうか、とうとうあさぎちゃんも宇宙に……。」
「宇宙食の感想、聞かせてくれよな。」
「当たる前提か……って地球から追放するなっ!?っていうか宇宙食は割と普通に買えるじゃん。」
「にゃはは。」
「あさぎは何の懸賞に応募するんだ?」
「ああこれ?温泉旅行が当たるらしいよ。」
「『らしい』って、ハサミ持参する程ガチなのに興味ないふりしちゃって可愛
あさぎの左手の五指がきはだの顔面に食い込み、きはだのセリフがキャンセルされた。
「あだだだ!?」
「そんなんじゃないから……!///」
「はぃ、あさぎちゃんはミジンコほども可愛くないで
きはだの顔面を握りしめる手にいっそう力が込められた。
「ぎにゃぁぁぁ理不尽……!?」
「温泉旅行か。家族でも連れて行くのか?」
「お母さんが好きなんだよね。……まあ、4人分の券だと余っちゃうんだけど。」
あさぎがきはだの顔面を解放した。
「顔!?……よかった取れてない。」
「懸賞か、懐かしいなあ。小さい頃はワタシもよくアニメや雑誌の懸賞に奮って応募したものだ。」
「なんか当たった?」
「全敗だ……。」
「なんか、ごめん……。」
「懸賞って言えばさぁ、ハガキに絵を描いたりすると当たりやすくなる〜、みたいなのあるよねぇ?」
「それ聞いたことあるかも。」
「ジンクスだな!」
「じゃあハガキになんか描いてみるぅ?」
「そんな都合よくハガキを持ってなんていないぞ?」
2人の会話の横であさぎがカバンから1枚のハガキを取り出した。
「「あるんかいっ!?」」
「いやぁ、今日くらいで点数集まるかな〜って///」
「ハガキ白い奴だし、なんか描けるねぇ。」
「う〜ん……じゃあ、ひいろかきはだに何か描いてもらおうか?」
「ワタシはやめておいた方がいいぞ!」
「そんな誇らしげに卑下する人初めて見たよ……きはだは?」
「あさぎちゃんの苦労をドブへ、ポーン!してもいいなら…………『やる』よぉ?」
「よし!却下。」
「ハガキだとやり直しきかないからなぁ……。」
「んじゃ、でっかく温泉の地図記号でも書いとく?」
「クラゲをひっくり返した奴だな!」
「まあ……目を引く、のかなぁ?」
「いずれにせよ、決めるのはあさぎだ。後悔のないようにな。」
「う〜ん…………よし!」
あさぎが覚悟を決めたように凛々しい顔つきになると、机に突っ伏してハガキの真ん中に小さく、でも存在感のある温泉の地図記号を書いた。
「おお……!」
「でもまだ余白の方が広くてなんだか寂しいねぇ……。」
「だから、こうする……ッ!」
あさぎが再び机に突っ伏してハガキの片隅に青色のペンで文字を書き入れた。
[温泉旅館に行きたい!]
「直球だね……。」
「いいじゃないか。思いはまっすぐ伝える方が美しい。」
「じゃあ……はいこれ。」
あさぎはペン入れから赤と黄色のペンを取り出して2人に差し出した。
「「え?」」
「2人の力、貸してくれる?」
「そういうことか。ならワタシも……!」
[当たれ!!!]
「これは、さっきの直球を超えてきたねぇ……。」
「きはだも。」
「ん。じゃあこんな感じで……。」
[菓子パン美味しかったです。]
「「媚びた!?」」
「ん。これでバランスばっちり♪」
「ありがとう2人とも。これで想いは3人分、
「1×1×1は無限大だな♪」
「掛けたら増えないんだけど……。」
「このハガキ、まだちょっと寂しいような……。」
3人が書いた文字はそれぞれ中央の地図記号から四隅に向かって縦書きで書かれている。
つまり角が1ヶ所余っている。
「何か書き足そうか……?」
「その必要は無いんじゃない?……ね、あさぎちゃん。」
「え?」
そのとき、部室の外からレジ袋のガサガサした音を鳴らしながら白ちゃんがドアを開けて入ってきた。
「あら、みんな揃ってたのね。突然で悪いけどちょ〜っとこの荷物、隠させて?」
「荷物?」
白ちゃんの両手のレジ袋にはどちらにもギッシリと菓子パンが詰め込まれていた。
「いいですけど、もしかして白ちゃん先生も……?」
「『も』?」
白ちゃん先生が机上のハガキの存在に気づいた。
「みんなも応募するのね……。」
「そうだ!白ちゃんも一筆書いてくれないか!?」
「一筆?」
「ん。ハガキに寄せ書きしてたんだけど、1人分スペースが余っちゃってねぇ。」
「なんというか、あんたららしいわね……。ま、いいわ。最後に当てるのは私だけどね!」
[癒されたい]
「おお、『癒す』ってこう書くんだ……。」
「これでも養護教諭だからね!?」
「これでちょうど、埋まったね。」
「っていうかこれ……一揆でも起こすの?」
真ん中から外側にそれぞれ縦書きで書かれた文字たちは、歴史の授業でなんとなく見覚えのある、それと重なった。
あーかい部!(4)
きはだ:投稿かんりょ〜♪
あさぎ:投函完了!当たれ〜!
ひいろ:『投函』ってこう書くんだな
白ちゃん:私は知ってたけど?
きはだ:大人が子こどもをいびるようになったら世の中終わり
あさぎ:いびる?
ひいろ:いーびる
あさぎ:黒ちゃんだ!
きはだ:黒ちゃんだ!
ひいろ:黒ちゃんだ!
黒ちゃん:なんでよ!?っていうか黒ちゃんって呼ばれてるの私……
きはだ:[画像を送信しました]
あさぎ: [画像を送信しました]
ひいろ: [画像を送信しました]
黒ちゃん:フレンド名で遊ぶな
ひいろ:黒で思い出したんだが、あの菓子パンどうするんだ?
あさぎ:食べるんじゃない?
きはだ:なにゆえ黒から連想
ひいろ:黒→黒カビ→菓子パン
きはだ:↑訂正 黒ちゃん→黒→黒カビ→菓子パン
ひいろ:訂正感謝
あさぎ:菓子パンってあんまり日持ちしないんだよね
黒ちゃん:おい待て私からカビに繋げるな醸すぞ
黒ちゃん:少しなら食べていいわよ点数はもらうけど
ひいろ:顔が汚れて力が出ない……
ひいろ:感謝
きはだ:優しさを捨てきれない闇堕ち黒ちゃん好き
黒ちゃん:わたしゃ悲しいモンスターか何かか
あさぎ:『醸す』?
ひいろ:菌とかが食べものに繁殖すること、お酒とか醸造って言うアレ
黒ちゃん:麹で食品を発酵させることよ。お醤油とかお酒を作るときに使われる言葉ね。
きはだ:おお、僅差
ひいろ:どやぁ
黒ちゃん:くっ……!お子様に負けた
あさぎ:知識マウント取るから……
黒ちゃん:いいもん!数の暴力で温泉当ててやるんだから!あと名前戻してね
ひいろ:今度は財力マウントか……!
きはだ:うえーん札束でしばかれる〜
あさぎ:世の中、金かぁ
黒ちゃん:大人の世界はブラックなのよ




