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おうせな部屋(新作エピソード)

ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立 池図(いけず)女学院。


そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。


あーかい部に所属するうら若き乙女の干物達は、今日も活動実績(アーカイブ)を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。


『アウトオブあーかい部!』は、そんなあーかい部のみんなの活動記録外のお話……。

池図女学院部室棟、あーかい部部室。


……ではなく、応接室。




「……ってことがあったんですよ。」


「なるほどねえ。」




鍵のかかった応接室の中で、あさぎと教頭先生が逢瀬(おうせ)していた。




「私が結構な頻度でここに通っていること、ひいろは気づいていたみたいです。」


「せっかく日付をずらしていたのに……気が回るのは私に似たのかしら?」


「そんなとこですかねー。」




あさぎはあつ〜いお茶を湯呑みに継ぎ足した。




「あら、張り合わなくたって良いのに。」


「別に気を回したわけじゃないですって。……良い機会ですしぼちぼち私を解放してはくれませんか?」


「何から?」


「教頭先生から。」


「あらやだ、まるで私が強制労働でもさせてるかのような言い草ね♪」


「違うんですか?」


「違うも何も、私が個人的にあさぎちゃんを気に入っているだけなんだけど……。」


「はあ……。よく言いますよ、入学式が終わったかと思ったら突然こんなとこまで担いでおいて。」


「そうだったかしら?」


「今年は人間ドック受けといた方がいいんじゃないですか?特にあた


「な に か♪」


「ナンデモアリマセン…。」


「そうよね♪……あ、そうだ!」




教頭先生が突然パンッと手を打ち鳴らした。




「良い機会だし、私たちの出会いを振り返ってみましょうか♪」


「なんですか突然……。」


「それとも私に人間ドック、されてみる?」


「どうぞお話しくださいッ!!」


「フフ♪そう言うと思ったわ♪まずは……、」






〜〜〜




これは、あさぎがあーかい部に入るよりも前のこと。




『ふぁ……、やっと解放された……。』




春休み明けでたるみきった身体には長く過酷過ぎる入学式を終え、教室に戻ったら戻ったでこの上っ面に釣られてコバエのように集る女の子達を躱し、あさぎは疲弊しきっていた。




『帰って、本でも……。』




あさぎは本当に疲弊しきっていた。




『あら?大変お疲れのようね?』


『うひゃぁあっ!?』




廊下でコソコソしていると不意に背後から肩に手を置かれる感覚を覚え、熱湯をかけたお刺身の皮みたいに身体が縮みあがった。




『うんうん、見込んだとおりのナイスリアクションね♪』


『ななっ、なんですか急にっ!?』




振り向いて身構えると、声の主は教頭先生だった。




〜〜〜






「あの、」


「何?まだ回想の途中なんだけど。」


「なんで私目線なんです?……あとお刺身みたいは盛ってます。」


「お刺身だけに?」


「…………。それはそれとして、なんでここまで私の内心全部ピタリと当ててるんですか、怖いんですけど。」


「そんなの簡単よ。……だって私も高校生のとき、あさぎちゃんにそっくりな子をずっとそばで見てきたんだから♪」


「そっくりな、子……?」


「私があさぎちゃんの前に姿を現して、それから……」


「あ、はぐらかした。」






〜〜〜




あさぎは、目の前に現れた女性が教頭先生であることを知っていた。


担任の先生の名前なんて覚えちゃいないが、入学式で祝辞を述べていたこの人と目が合ったのが、何故だか強烈に記憶に残っていたからた。


……いや、目が合ったというより、こちらが壇上の教頭先生を一瞥(いちべつ)したときには既に向こうがこちらを見ていた。なんなら入学式なんてそっちのけでずっとまっすぐこっちだけ見つめていたような気さえした。




『入学式で言わなかったかしら?……光陰矢の如し。出会いも青春もあっという間よって。』


『あ〜……えっと、それは……。』


『なるほど……。』




入学式での話なんてろくに聞いちゃいなかったことを察して教頭先生がちょっと考え込むような仕草をしたかと思うと、すぐに年甲斐もなく目を輝かせてこちらの両手をガッシリと握ってきた。




『ほえ?』


『……やっぱり!あさぎちゃんは私が期待した通りの子だった……!』


『え、あの……。』




そんなに強く握られている感じはしないのに手を振り解けない。




『っていうか名前、言いましたっけ……?』


『教頭先生だもの。』


『えぇぇ……。』




どうやらこの人は名簿的なものを見て完全に私をロックオンしていたようだ。




『もはやこれは運命としか言いようがないわ……。』


『すみません、私にそんな趣味はないんですけど。』


『あ〜、心配しないで?私だって願い下げだから♪』


『えぇぇ……。』




青野あさぎ、人生で初めてフラれる。




〜〜〜





「いや、なんですか『青野あさぎ、人生で初めてフラれる。』って。」


「もしかして、もっと前に振られたことあったかしら……?」


「そもそも告白なんてしたことないんですけど。入学式の日も含めて。」


「あらやだ、あさぎちゃん案外ウブなのね……!?」


「っていうか、勝手に振られたことにしないでください。」


「あさぎちゃん、まだ諦めてなかったの……!?でもごめんなさい、私にはもう心に決めた人がいるの。」


「そもそも求めてないですしこれで2回目とか言ったら怒りますよ?」


「お〜怖い怖い。」


「……あれ?っていうか教頭先生独身でしたよね?『心に決めた人』って


「そうそう!ここから感動的な自己紹介を


「してません。」


「そうだったっけ?……まあいいわ。ええっと……」






〜〜〜




『……とりあえず安心しましたけど、じゃあなんの運命なんです?あと放してください。』


『放したら逃げちゃうでしょ?』


『はい、それはもう全速力で。』


『私は教頭先生なのだけど。』


『王様的なやつですか?』


『まあ……山吹(やまぶき)先生は海の向こうだし、そうなるわね♪』


『山吹先生……。』


『胸像、見なかった?』


『ちょっと見てくるんで放してもらえません?』


『放してもらえません。』


『えぇぇ……。』


『だって放したら逃げちゃうでしょ?』


『はい、それはもう矢の如く。』


『…………、じゃあ応接室に行きましょうか♪』




教頭先生は両手をガッシリと握ったまま背負い投げの要領であさぎの身体を肩に担ぐと、そのまま涼しい顔をして歩みを進めた。




『ひえぇ誘拐される……。』


『さ、て……と?』


『それどっかに下ろして一息ついた時にいうセリフなんですよ。』


『良いじゃない、別に担ぎながら言ったって。ほら、光陰矢の如しって言うじゃない?』


『確かに出会ってあっという間に連れ去られてますけど……。』


『やだ、もしかしてあさぎちゃんって結構話せるくち?』


『……それで解放してくれるなら。』


『これはじっくり手懐けていく必要があるわね……。』


『令和の時代に奴隷制は流行りませんって。』


『きちんと対価は支払うつもりなんだけど。』


『じゃあ理系科目の成績上げてください。』


『……意外と逞(たくま)しいわね。』


『まったく、不思議ですよね。常識が通じなさ過ぎてちょっと余裕が出てきてる自分がいます。』


『見識が広まったようで何よりね♪でも成績は上げられないわ、常識的に。』


『え?もしかして、私今誘拐犯に常識問われてるんですか……?』


『私は教頭先生なのだけど。』


『あ、ダメだループするやつだこれ……。』




教頭先生が突然足を止めた。




『さ、着いたわよ♪』




〜〜〜





「やっぱダメですか?」


「だ〜め♪」


「とか言ってちょっと数学の成績上げるとかなら……、」


「だ、め♪」


「と見せかけて私の知らないところで手心を


「加えてませーん♪」


「く……っ!」


「まあでもそんなに言うなら、数学の先生にでも交渉してみようかしら?」


「まじっすか教頭先生大明神様ッ!」


「あ、でも交渉の材料が無いわね。……あさぎちゃんにあげるお茶菓子で


「やっぱ成績は自分で掴み取ってこそっすよね!!!」


「ほんっっと逞しくなっちゃって……。」


「へんへーろおひえはいいはられふよ(先生の教えが良いからですよ)〜♪♪」


「わりと素養はあったと思うのは私だけかしら……。」




教頭先生は目を閉じてキュッと眉間を摘んだ。




「いや〜、今となっては感謝しかありませんね。ここもすっかり憩いの場ですし♪」


「ほんと、生まれたての子鹿みたいに震えてたのが遠い昔のことみたいね。」


「それは……もういいじゃないですか。」


「なんか負けた気がするから事細かに話しておきましょうか。」


「えぇぇ……。」






〜〜〜




『ほんとに応接室だ……。』




ようやく教頭先生に下ろしてもらえたあさぎは、職員室のような重苦しいオーラを感じてその場に立ち尽くしていた。




『さ、入りましょうか♪』


『い……いやいやいや!?ここってその、生徒指導とか、来客の対応とかするとこですよね……?』


『ええ、あさぎちゃんの指導をするしあさぎちゃんを迎え入れるとこね。』


『…………、』


『?』


『サラダバッ!』




あさぎは教頭先生の不意を




『はい残念♪』


『ひえぇ……。』




……つけず、首根っこを掴まれてそのまま応接室の中へと引き摺り込まれていった。




『……さてと。』


『今カギ閉めました?』


『ええ。閉めておいた方が、あさぎちゃんが逃げようとしても数秒稼げるでしょ?』


『入学するとこ間違えた……。』




あさぎは逃げることを諦め、応接室のフカフカなカーペットの上に膝から崩れた。




『とりあえずこれでも食べてちょうだい。』




教頭先生は応接室の棚の引き出しを開錠すると、中から白い厚紙製の箱を取り出し、中から山吹色のお饅頭を一つ手に取ると跪(ひざまず)いてあさぎの手に握らせた。




『ああ、やっぱりここに入って良かった……!』




あさぎは目にも留まらぬ速さでソファーに座ると、個包装だったはずのお饅頭はいつのまにか剥き出しにし、目尻に涙を溜めてお饅頭を頬張っていた。




『私が言うのもなんだけどチョロ過ぎて心配になるわね……。親御さんに「知らない人についてっちゃダメ」って言われなかった……?』


『「美味しいお菓子をくれる人に悪い人はいない」……となら。』


『……。』


『どうかしました?』


『いや、なんでもないわ?ちょっと懐かしいなってね。』




〜〜〜






「そういえばあの時ははぐらかされちゃいましたけど、何が懐かしかったんですか?」


「お饅頭にかぶりつくあさぎちゃんの笑顔かしらね……。」


「あ、またはぐらかす……!」


「だいぶいい時間だし、それ食べたら今日もお手伝いお願いね?」


「人遣い荒いなあ……。」




結局今日もまた教頭先生の過去についてはぐらかされ、書類整理やら資料作りやらの雑用をこなすことになった。




「……なんか、このまま回想終わると私がお菓子で釣られただけみたいになってません?」


「違うの?」


「……別に違いませんけど。」








牡丹、あさぎ(2)




牡丹:いや〜浸ったわね


あさぎ:珍しいですね教頭先生からダル絡みだなんて


牡丹:そーゆー日もあるのよ


あさぎ:……投稿しませんよ?


牡丹:とかいって

あさぎ:しません

牡丹:日付が変わる頃にしれっと

あさぎ:良い子は寝る時間です


牡丹:悔い改めるように


あさぎ:というわけでおやすみなさい

牡丹:あ!違う違う

牡丹:起きなさい


牡丹:目覚めよ


あさぎ:さあ、願いを言え……

あさぎ:あ、やべっ


牡丹:オラをあーかい部の投稿に出してくれーー!


あさぎ:却下

牡丹:やだやだやだやだ出たい出たい


あさぎ:自己顕示欲抑えてください


牡丹:抑えられたら教頭先生やってない


あさぎ:確かに……!?

あさぎ:っていうか今までもちょいちょい出てきてるじゃないですか


牡丹:存在仄めかされてるだけじゃない


あさぎ:まあ今のところ白ちゃんの上司でひいろのおばさんがいるって感じですね


牡丹:だから登場させやすいようにあさぎちゃんとの出会いから回想したんじゃないの


あさぎ:そんな思惑で呼びつけたんですか……


牡丹:だって教頭先生だもの


あさぎ:それ言えばなんでも許されると思ってます?


牡丹:許されるも何も、今の池図では私が法よ?


あさぎ:山吹先生早く帰ってきて……


牡丹:残念だったわね、今しがたアロハシャツ着てヤシガニの丸焼き齧ってる写真が送られてきたところよ


あさぎ:もうダメだこの学校


牡丹:というわけで観念して私を出しなさい


あさぎ:他人のまあまあ恥ずかしいエピソードとセットでですか?


牡丹:私に注意が向くように思わせぶりなこと言ったんだから……ね?


あさぎ:ヤです


牡丹:ケチんぼ

牡丹:ふて寝しちゃうんだから……!


あさぎ:おやすみなさい良い子な教頭先生


牡丹:くっ、次こそは……!

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