独裁者(新作エピソード)
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立 池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
あーかい部に所属するうら若き乙女の干物達は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
『アウトオブあーかい部!』は、そんなあーかい部のみんなの活動記録外のお話……。
池図女学院部室棟、あーかい部部室。
……ではなく、応接室。
「……ふう。こんなもんですかね。」
あさぎは来賓用のテーブルの上に広げられた書類を束にするとテーブルでトントンと小気味のいい音を立てて教頭先生に手渡した。
「いつも助かるわ♪」
「『いつも』助けられないでくださいよ……。」
「あら、ひいちゃんとブッキングしない程度には抑えてるつもりだけど。」
「じゃあひいろに頼んでくださいよ。メール紙に出力して仕分けるくらいひいろなら喜んでやってくれますって。」
あさぎは池図女学院に入学式してからというもの、しばしば教頭先生に呼び出されて応接室で事務職紛いの雑用を手伝わされる日々を送っていた。
「文章読むのはあさぎちゃんの方が得意でしょう?」
「どーですかね。」
「それはテストの点数が…………あ。あさぎちゃん、数字は
「流石に数字くらいわかります……ッ!」
「そ、そうよね?じゃないと日常生活もままならないものね。」
「いくら理系科目ミジンコレベルだからって、これでも一応中学卒業してるんですからね?」
「じゃあ書類読むのはあさぎちゃんの方が得意ってことで♪」
「はあ。私を解放してくれる気はありませんか……。」
「そんなこと言いつつ、あさぎちゃんだってここ、結構居心地良いと思ってるんでしょう?」
「……まあ、人はけにはなりますし。」
「はあぁぁぁ〜。」
教頭先生はあさぎに当てつけるかのようにクソデカためいきをついた。
「……なんなんです?」
「これだから自称美人は……。」
「『自称』は余計です。」
「フフ♪あさぎちゃんが自分のこと美人だと思っている限り、私は『自称』を擦り続けるわよ〜?うりうり。」
教頭先生はあさぎの二の腕に肘をグリグリと軽く押しつけた。
「なんか、教頭先生って私にだけ絡みが幼くないですか……?」
「ええ、そりゃあもう。」
「そこは『そんなことないわよ〜』とか言う所では……。」
「いや、あさぎちゃんにだけフランクに接してる自覚はあるわよ普通に。」
「怖いんで急に真顔にならないでください。」
「あーかい分のみんなより古い付き合いなのにまだ怖いの?」
「たぶん一生怖いです。」
「あら心外。」
「っていうかひいろへの態度ともなんか、違いますよね?」
「ええ、もちろん。」
「なんか理由でもあるんです?」
「理由ねえ…………、強いて言うなら『顔』かしら。」
「さっき人のこと『自称』美人とか言う割には顔認めてるんじゃないですか。」
「奢るんじゃないわよ3位風情が。」
「3位……?」
「フッフッフ……。私はあと2人、あさぎちゃんより美人……1人は怪しいけど。を知っているわ!」
「それ結構高評価なのでは……?」
「おだまらっしゃい。」
「うわあ理不尽。」
「え?因みに誰かって?」
「言ってません。」
「知りたい?ま〜あ、知りたいわよねえ??そんなに知りたいなら……しょうがないわねえ♪」
「帰って良いですか?」
「だめよ。」
「うわあ理不尽。」
「良いから黙って私に思い出話をひけらかされなさい。」
「……ん?そのフレーズどっかで聞いたような……。」
「『どっか』……?」
「ああ、思い出した。白ちゃん先生が講義するとき言ってるやつでした。」
「あらやだ、私の口癖が感染っちゃったのかしら……。」
「負の連鎖ってやつですね。」
「……なんか、あさぎちゃんも大概私にだけ大人気ないわよね。」
「しょうがないじゃないですか、教頭先生がなんだか同級生っぽく絡んでくるんですから。」
「まあそうね。」
「……で、1位と2位って誰なんです?」
「え?興味出てきちゃった?」
「『早く帰りたくなっちゃった』に訂正しといてください。」
「あら、もしかして教頭先生ともあろうお方がそんなことにすら気づかないとでも?」
「気づいてて引き止めないでくださいよ。あと自分で『お方』って……。」
「女の子はオレ様系が好きなものでしょ?」
「オレ様系でこんな異次元の誤用できるものなんですね。」
「う〜ん……最近の流行りって難しいわね……。」
「じゃあ帰りますんで。」
「……良いでしょう。」
「あ、良いんだ。」
「その代わり条件が一つあります。」
「条件を飲まなかったら?」
「ここで私に思い出話をひけらかされてもらいます。」
「じゃあ飲むしかないじゃないですか。」
「そんなに聞くの嫌なの……?」
「他人の与太話程聞いててつまらないものはないですから。」
「『カラフルラバーズ』だって読者からすれば他人の与太話じゃない。」
「ちょぉぉおッ!!??//////」
『カラフルラバーズ』はあさぎがあーかい部に加入する以前から持っている個人用アカウントで投稿しているケータイ小説である。
幼馴染の女の子2人が青春の中で、お互いにバレないように恋心を育んでいくラブコメ小説だが、あさぎは『カラフルラバーズ』のことはおろか、個人用アカウントの存在も一応みんなには秘密にしている。
「ななっ、なななな……なんで、それ……ッ!?」
「今まであれだけあーかい部で投稿しておいて、癖の一つも露呈しないとでも思った?」
「く、せ……。」
「フフ♪容易かったわよ、特定するのは……♪」
「ま、まさか『条件』っていうのは……っていうか実質脅迫
「いや、あーかい部の投稿に私を出してって言うつもりだったんだけど。」
「へ!?…………あ、そうですか。」
「まあそれはそれとして、このカードはもっと有意義な所で切らせて貰うわね♪」
「オワッタ…。」
あさぎはその場に膝から崩れた。
「それじゃ、もう帰って良いわよ。」
教頭先生はへたり込むあさぎの横を素通りしてドアの前で立ち止まった。
「……『また明日』♪」
牡丹、あさぎ(2)
牡丹:明日は放課後、ちょっと遅れて来てね♪
あさぎ:はいはい、ひいろと時間はずらしときますって
牡丹:あらやだ良い子……!?
あさぎ:別にうしろめたい事ないならはち合わせても問題ないのでは?
牡丹:ひいちゃんに嫉妬されたいならどうぞお好きに
あさぎ:めんどくさいんで時間ずらしておきますね
牡丹:良い子ね
あさぎ:っていうか雑用なら私じゃなくて生徒会にやらせてくださいよ
牡丹:ダメよ
牡丹:生徒会は私が直接選んだ人間じゃないもの
あさぎ:発想が独裁者のそれなんですが
牡丹:独裁者だから良いの
あさぎ:今更でしたね
牡丹:ちょっとは否定して?
あさぎ:それは教頭先生の態度次第ですね
牡丹:『ね?お願い……///』
牡丹:『そう言って私の手を包み込む茜の指先から伝わる湿度と熱が、今日も私の脳をオーバーヒートさせる。』
あさぎ:人の小説引用しないでください!!
牡丹:ところで私って独裁者なのかしら
あさぎ:いやあまったくとんでもない風評被害ですねあはは
牡丹:全くよねぇ、嫌になっちゃうわ
あさぎ:まったく、こんだけこき使ってるんだから私にも甘い汁吸わせて欲しいもんですね
牡丹:甘いお菓子ならいつもあげてるじゃない
あさぎ:そうでしたねー
牡丹:ところであさぎちゃんは粒あんとこしあんならどっちが好きかしら
あさぎ:粒あんを選ばない理由とは
牡丹:はいはい♪
あさぎ:ではまた明日




