おしるこ(新作エピソード)
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立 池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
あーかい部に所属するうら若き乙女の干物達は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
『アウトオブあーかい部!』は、そんなあーかい部のみんなの活動記録外のお話……。
池図女学院部室棟、あーかい部部室。
……ではなく、学校の近くの公園。
「お、奇遇だね。」
「デジャヴだねぇ。」
偶然出会したあさぎときはだは、せっかくなので近くにあった公園で日陰のベンチに並んで腰を下ろして雑談に興じていた。
「ほぼ毎日お互いの顔見てるからね。」
「ジャヴジャヴだねぇ。」
「えいえいっ。」
あさぎがきはだの二の腕に痛くない程度の軽いジャブを数発見舞った。
「ジャブジャブ。」
「……飽きた。」
「突然真顔にならないで怖い。」
「涼しくなった?」
「今日はもともと涼しいよぉ。」
「それもそっか。」
ここ数日で一番冷たい風が2人の間を吹き抜けた。
「冬、終わったんだけどなあ……。」
「あさぎちゃんに春はまだ早いってさ。」
「なんだと、このこのっ。」
あさぎがまたきはだの二の腕にかる〜いジャブを見舞った。
「迫り来るデジャヴ。」
「迫り来ると言えばさ、」
「なんだい?」
「3Dって、あるじゃん。」
「赤と青の眼鏡掛けるヤツぅ?」
「それそれ。この間3Dの本買ったんだよ。」
「……対象年齢は?」
「18歳以上。」
「……。」
「でさ?やっぱりこちらとしては飛び出す大迫力を期待するわけじゃん。」
「ごめん、あのヘンテコな眼鏡かけて読む18禁の本って何……。」
「しょうがないじゃん、特装版だったんだから。」
「…………続けてくれ。」
「で、少しでも大迫力を楽しもうと、眼鏡をクイってしたり本を近づけたり、部屋を明るくして離れてみたりしたんだけど、」
「アニメの最初に言われるヤツだねぇ。」
「テレビを見るときは、部屋を明るくして画面から離れて見てくれよなっ!」
「それそれ〜。」
「……って、そうじゃなくて。」
「自分で振ったくせに。」
「……正直ちょっと言ってみたかった。」
「どういたしまして。」
「で、3Dなんだけど、」
「チッ。忘れてなかったか……。」
「全然立体的じゃなかったんだよ……ッ!!」
「うん、まあそういうもんだよねぇ。」
「普通に読もうとしても線がちょっとズレて重なってるから読みづらいし全く抜けん……ッ!!」
「おい。」
「返してよっ!?通常版との差額と1/3の純情な感情を……ッ!!」
「3次元を1/3にしたら点になっちゃうよぉ……。」
「……それもそうか。」
「いや〜、」
きはだが唐突に立ち上がった近くの自販機へと歩き出した。
「まさかジャブからこんなしょーもないお話に繋げてくるたぁ……。」
「最後までうんうん聞いてた癖に。」
あさぎも立ち上がって自販機の前へと着いて行った。
「……きはだちゃんは3Dにしよう。」
きはだは[あったか〜い]と書かれたおしるこのボタンを押した。
「おしるこが3D?」
「飲んでみりゃわかるさ。」
きはだはもう一回おしるこのボタンを押しておしるこを一つあさぎに押し付けるとベンチへ戻って行った。
「これでこの前の借りは無しだね♪」
「返した側が言う台詞じゃない?」
あさぎがどっかりとベンチに身体を預けておしるこの缶を開けると、アツアツのまま喉へと流し込んだ。
「……熱くないのぉ?」
「ん?……普通に熱いけど♪」
「……な〜んかあさぎちゃん、妙に上機嫌じゃない?」
「へっ!?あ、いや気のせいじゃないかな……!?」
「…………。」
あさぎはきはだの突き刺さるような視線から逃げるように目を逸らした。
「……おしるこ美味し?」
「うん♪」
「それか。」
「あ"……。」
「ふむふむなるほどぉ、青野あさぎはおしるこ好き……っと。」
「メモるなっ!?///」
「え〜……。」
「駄々をこねるな……!あと私はおしるこじゃなくてつぶあん好きだから。」
「おお、そっかそっかぁ……。」
煽っていたはずのきはだがあさぎの予断を許さない眼差しに気圧された。
「まあ手ぶらだからメモも何もないんだけどねぇ。」
「これは下ネタか……?」
あさぎは考える人のポーズで眉間に皺を寄せた。
「だ〜めだぁ、こりゃ頭ん中につぶあん詰まってやがるぜ。」
「うん、元気100倍……、ん?」
きはだがお腹の辺りでおしるこの缶を開けずに抱えているのがあさぎの目に留まった。
「……ごめん、お腹冷えてた?」
「冷ましてるだけだよぉ。」
「あれ?もしかして、きはだって猫舌?」
「悪いかい?」
「いや別に。」
あさぎはまだアツアツのおしるこを喉へと流し込んだ。
「よく噛まずに飲めるねぇ。」
「噛む……?」
「おおっと、カレーも飲み物なお口かい?」
「流石にそれは無理…………、あ"。」
あさぎは缶の底の方に溜まっていた小豆の存在に気づいた。
「フッ。」
「ちょっ、笑うな!///」
「さあさあ、ご所望の3Dを存分に楽しみなぁ……ッ!」
「ああ、3Dってそういう。」
あさぎは缶の飲み口をもって軽く振り回すと、小豆たっぷりになったおしるこをもう一口、口に含んだ。
「…………う〜ん、確かにこれは3D。」
「でしょ〜?」
「今度から通常版買って差額はおしるこにするかなあ。」
「普段どんな本……おおっと、聞かなかったことにしてくれい。」
「そお?じゃあ代わりに聞くけど、」
「うん、絶対いい話じゃあないよね。」
「もしきはだがお母さんに3Dメガネ取られたらどうする?」
「……………………、は?」
「いや〜、ヤケになって3Dメガネ捨てようとしたらお母さんに見つかっちゃって……。」
「お、おう……。」
「お母さんったら『懐かしい〜♪』なんて言って部屋でず〜っと掛けてたんだよ。」
「酔わないの?」
「掛けたままなのに気づかないで買い物行こうとするくらいには。」
「止めた?」
「全力で。」
「お、おう……。」
「交渉の末、お部屋の中だけでってことになった。」
「……っそだろ。」
「外してって言っても『娘がくれたものだから』なんて言ってず〜〜っとつけてんの。」
「愛されてるじゃんwww」
「こっちは割と真剣に悩んでるんだけど……。」
「ごめんごめん、絵面が真剣じゃなさすぎて……w」
「真面目に考えろっ!」
あさぎがきはだの二の腕にちょっと痛い程度のジャブを数発見舞った。
「うおお、デジャヴ……!?」
「はぁ……。自分で言うのもなんだけど娘好き過ぎるでしょ……。」
「な〜るほど、あさぎちゃんの自己肯定感の高さはここからかぁ。」
「ほんと、どうしよう……。」
「『素顔のママが好き』〜って言えばイチコロじゃない?」
「ママじゃなくてお母さん。」
「お、おう……。」
「それで外してくれるかなあ……。」
「大丈夫大丈夫、あさぎちゃんの純情な感情……伝えよ?」
「1/3したら点になっちゃうんじゃなかったの?」
「そこはもうちょっと伝えてもらって。」
「うへえ、憂鬱……。」
「ほらほら、3Dチャージして。」
このあと、小一時間雑談しながらあさぎはチビチビおしるこを飲み干した。
きはだ、あさぎ(2)
あさぎ:[ファイルを送信しました]
あさぎ:投稿……はしないっ!
きはだ:あれあれぇ?やっぱりママのことは恥ずかしい?
あさぎ:秘密にしておいた方が良い思い出もあるんでしょ?
きはだ:いててててwww
あさぎ:おいそこぉ!
きはだ:で?お母さんの3Dメガネは奪取できたのかい?
あさぎ:外させるので精一杯……
きはだ:じゃあまた唐突に掛けるかもなんだねぇ
あさぎ:さっさと捨ててくれればいいのに
きはだ:まあまあ、なんでも取っておきたいお年頃なんでしょ
あさぎ:娘の写真撮りまくる親、的な?
きはだ:そうそう
あさぎ:きはだも親になったら娘の写真撮りまくりそうだよね
きはだ:だろうねぇ
きはだ:[送信を取り消しました]
あさぎ:きはだ?
きはだ:今のは忘れてくれい
あさぎ:おしるこもう飲んだ?
きはだ:流石に飲んだわ
きはだ:恐ろしく早い切り替え……
あさぎ:よかったてっきり今日の思い出〜とか言って押し入れにでもしまっておくのかと
きはだ:あれぇ?取っておく話続いてる……?
あさぎ:ちゃんとレンジでチンしてから飲んだ?
きはだ:チンしたら冷ました意味無いよぉ……
あさぎ:なんか卑猥
きはだ:卑猥とか言う悪い子は押し入れにしまっちゃうよぉ?
あさぎ:ひえぇ




