部活動
池図女学院部室棟、あーかい部部室。
「ちゃおっすあさぎちゃん、ひいろちゃん。これで3人集まったねぇ。」
「きはだで最後だからな?」
「まあまあひいろ。みんな揃ったし、今日も部活始めよ?」
「ああ!」
「ん。」
私の名前は青野あさぎ。池図女学院の1年生。
まあ、色々あって……うん。ひいろときはだ、それから顧問の白久先生、改め白ちゃん先生とここで『あーかい部』をやっている。
あーかい部の活動内容は、言っちゃえばケータイ小説。部のアカウントで、小説投稿サイトにあーかい部の日常を投下する。執筆は交代制。
「今回の当番はあさぎだったな。」
「うん。ネタは何にしようか……?」
厳格なルールなんてものはないけど、だいたい1人が執筆、残り2人がネタを提供(雑談)したり、投稿者のモチベーション維持(騒ぐ)をする。
もちろん、どうしても思いつかないって時は選手交代。その方がみんな早く帰れるし……ね?
「なんて、実はもう決めて来てるんだけど。」
「あさぎちゃんやる気だねぇ?」
「まあね。」
「で?今日は何について話すんだ?」
「うん。今日の話題は……『部活動』で。」
いつもこんな感じで大まかな話題を決めては、雑談の内容をまとめて投稿する。
まあ、脱線なんて日常茶飯事なんだけど。
「部活動かぁ〜。」
「ワタシ達あーかい部が発足してぼちぼち1ヶ月だもんな。」
「2人的には発足したのっていつからなの?」
「「さあ?」」
ひいろときはだは揃って肩をすくめた。
「え、じゃあ1ヶ月ってのは……、」
「なんかそんな気がするから……ッ!」
「えぇぇ……。」
「ほらぁ、あさぎちゃんだってあるでしょ〜?『なんか今日、金曜日な気がする……ッ!』ってヤツ。」
「平日がなかなか終わんないやつ……。」
「そそ、そ〜ゆ〜ことぉ。」
「……終わって欲しいの?」
「まあ、その……色々あったんだ。」
「とにかく今日はほぼ1ヶ月記念日ってことでぇ。」
「『記念日は多い方が良い』、的なヤツ?」
「そういうことだ。」
「倦怠期のカップルあるあるだねぇ。」
「やっぱ終わって欲しいの……?」
軽いお戯れを済ませると、誰からともなく、あさぎ、ひいろ、きはだの3人は揃って頬杖をついた。
「部活動といえば、一般的にはアレだよねぇ?『友情、努力、勝利』ってやつ。」
「少年が好きそうなヤツだな。」
「この部活で『友情、努力、勝利』、ねぇ……。きはだ何かに勝った?」
「わたしには無縁だねぇ。」
「『部活といえば』とか言っておいて全否定か……。」
「ひいろちゃんはあるのぉ?」
「ワタシにもないぞ!」
「やっぱり、私達あーかい部ってあんまり部活らしいことしてないよね。」
「そうか?ワタシ達みたいにゆるい文化部なんて他にいくらでもあるだろう。」
「オカルト研究部とか、天文学部とかはゆるそうだよねぇ。」
「ゆるいなあ。」
「逆にそこら辺が本気出すって、何をするんだ……?」
「屋外でテント張って……とか?」
「夜通しだとガチ感出るねぇ。」
「屋外でテント……しかも、夜通し……。なるほど卑猥だな。」
「「おい。」」
「……今からでも兼部した方が
「オカルト部と天文学部に謝れ。」
あんまり逸れるとコンプラ的にお蔵入りしてしまうので一旦仕切り直す。
「ガチな部活動っていうと……、野球部とかかなぁ?」
「野球は人生賭けてる人多いよな。」
「切り替え早いなあ……。」
「やっぱりプロがあると人生賭かるよねぇ。」
「もろ就職先だもんな。」
「つまり、野球部の人は広義の就活をしているというわけか……。」
「プロ野球選手って言ったら、なりたい職業でいつも上位にいる印象があるもんな。」
「それならお花屋さん志望の華道部とかも上位にいるけど、パティシエ志望の料理部もガチな人多いのかな……?」
「部費はガチだよねぇ。」
「消耗品使うところは嵩むよな。」
「金銭面だと、あーかい部は……、
「「「ガチではないな(ぁ)(ねぇ)。」」」
「使うのなんてパソコンくらいだし。」
「そのお陰で申請がすんなり通ったんだ、いいじゃないか。」
「しかも部室つきなんて、贅沢だよねぇ〜。」
「たまたま空いててよかったな♪」
私達あーかい部の部室には、ちょ〜っとお古なパソコンと席が隅っこに1セット。それと、部屋の真ん中にはお手頃サイズのテーブルとイスが4つ。
頑張れば部室に5人入れる……かなって感じの雑談にはちょうどいいこじんまりとした間取りだ。
「そういえば、あーかい部が発足したときにはもう部室あったけど……ここって前はなんの部室だったの?」
「え?ああ、前はカーリング部が使っていたみたいだぞ。」
「またマニアックな部活だよねぇ……。」
「部員が集まらなくて試合ができなかったのと、外部と合同でやった方が楽しいってことで部活はやめたらしい。」
「う〜ん、真っ当。」
「そりゃ部室も持て余すわな。」
「でもよくとれたよね、他にも部室欲しいところなんてたくさんありそうなのに。」
「そこは白ちゃんの尽力の賜物だな。」
『白ちゃん』は私たちあーかい部の顧問だ。
本名は白久澄河で、保健室で養護教諭をしてる。
「そんなに運動部の顧問が嫌だったんだ……。」
「部室があれば活動してますアピールしやすいもんねぇ。」
「あとは活動実績さえちゃんとしていれば盤石ってわけだな。」
「……で、どう?あさぎちゃん。活動実績、作れそ?」
活動実績……つまりはこの、今みんなが読んでくれてる雑談の記録。
「うん。これだけ話せばネタは充分。あとは形を整えて投稿するだけだね。」
「さすが速いな。」
「これでも趣味でケータイ小説書いてるからね♪」
2人がご機嫌な様子でパソコンに向かうあさぎを見守っていると、しばらくして部室のドアが開く音がした。
「やっほーみんな、元気してる?」
みんなの顧問、白ちゃんが入室してきた。
「白ちゃんだぁ。」
「お疲れ白ちゃん。」
「白ちゃん先生、こんにちは。」
「お、早速やってるわね?」
「もうすぐできるみたいだぞ?」
「ひいぃ、急かされる……。」
「まあまあ良いじゃない♪その調子でお願いね?」
そういうと白ちゃんは自分のパソコンを広げてカタカタとキーボードを叩き始めた。
「はいはい……了解ですっ。」
「なんだか、もうすっかりここが白ちゃんの仕事場になりつつあるよな。」
「ここは私の『城』だもの。3人にはしっかり守り通して貰うわよ?」
「……白ちゃん先生、部室交渉すっごく頑張ったのって、なんでですか?」
「え?そんなのサボり場所が欲しいからに決まってるじゃない。」
「そういう割に仕事してるよな。」
「わかってないわねぇ、保健室で仕事してると、仕事にならないのよ。お盛んな子たちの恋愛相談に乗りながらじゃあ無理無理……。」
「白ちゃん先生恋愛経験ないですもんね。」
「そうなのよ…………って、おい。」
「やば……、」
「顔がニヤけてるぞ〜あさぎ。」
「そうだよぉあさぎちゃん?いくら白ちゃんが天上天下唯我独身だからって、言って良いことと悪いことがあるよぉ。」
「おい。」
「げふんげふん……、」
「あさぎもきはだも、あんまり貶すもんじゃないぞ?」
「そうだそうだー!もっと言ってやってよひいろちゃん。」
「『夫婦喧嘩は犬も食わない』っていうだろ?」
「それを言うなら『蓼食う虫も好き好き』……おい待て。」
「しまった……、」
「あなた達ぃ……!」
「げっ、
「あ
「全員そこに直りなさーーい!」
……とまあ、こんな感じで電子の海に足跡を残してくのが、あーかい部の活動である。
「ふぅ〜、疲れた……。ん?PINEに通知が来てる……、」
誰もが知ってるトークアプリ『PINE』。
あーかい部のケータイ小説を投稿した人が報告するのに使ってる。
ここでお話するのも、今では部活があった日の夜のささやかな楽しみとなっている。
あーかい部!(4)
あさぎ:投稿完了
白ちゃん:お疲れ様♪
きはだ:部活のやつだ
あさぎ:今日はその話しかしてないからね
きはだ:読んできた
白ちゃん:同じく
ひいろ:ワタシもいるぞ!
あさぎ:みんな読むの速いね
白ちゃん:顧問だからね♪
ひいろ:顧問と読む速さは関係なくないか?
きはだ:ないね
あさぎ:だそうです。やり直し
白ちゃん:やり直し!?
ひいろ:やり直しwww
きはだ:草ァ!
白ちゃん:お疲れ様♪
あさぎ:そこから!?
きはだ:振り出しに戻った
ひいろ:そこからかwww
きはだ:いやぁ笑った笑った
ひいろ:部活の後にPINEでトークするのも、すっかり恒例になったな
白ちゃん:もう最近のトークはほとんどがここなんだけど
あさぎ:白ちゃん先生……
きはだ:トモダチ…
ひいろ:強く生きるんだ
白ちゃん:どーせ天上天下唯我独身ですよーだ
あさぎ:うん
ひいろ:だな
きはだ:そうだね
白ちゃん:誰か否定しろい




