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隣の乗客
終電間際、電車に乗り込んだ。
がらんとした車内には、自分ひとりしかいない。
静まり返った空気に、レールの音だけが遠くから響いていた。
最後尾に腰を下ろし、何気なく向かいの窓を見た。
そこには二人分の顔が映っていた。
自分の顔の横に、もうひとつ。
髪の長い誰かが、まるで隣に座っているかのように。
慌てて横を見た。だが座席は空っぽだ。
窓を見直すと、やはり二人分の顔が並んでいる。こちらをじっと覗き込むように。
「気のせいだ」
そう思おうとしたが、背中に冷たい汗が流れる。
視線を逸らそうとした瞬間、座席がきしりと沈んだ。
まるで誰かが腰を下ろしたように。
心臓が強く脈打ち、呼吸が浅くなる。視界の端で、肩にかかる影が揺れた。
どうしても顔を向けられず、窓に映る影だけを見つめる。
その影は、確かに自分の肩に頬を寄せていた。




