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泡の声
夜、湯船に浸かっていると、表面に小さな泡が浮かんでいた。
最初は湯気のせいかと思った。けれど、どれも妙に丸く、弾けるまでの時間が長い。
「まあ、気のせいだろう」
そう自分に言い聞かせ、泡を指先でつついた。
ぱちん、と弾けた瞬間。
耳の奥で、かすかな悲鳴が響いた。
思わず湯から立ち上がる。
浴室には自分しかいない。窓も閉まっている。
幻聴だ、と苦笑いしようとしたが、声の余韻が耳から離れなかった。
次の泡が浮かび、弾ける。
またしても小さな悲鳴。
その後もひとつ、またひとつ。泡が破れるたび、誰かの悲鳴が重なった。
「やめろ……」
低く呟いても止まらない。湯の表面は無数の泡で覆われ、ぱちん、ぱちん、と連鎖的に破れていく。
浴室いっぱいに悲鳴が反響し、狭い空間が震えるほどだった。
恐怖に駆られて湯をかき混ぜると、泡はすべて消えた。
やっと静寂が戻ったと思った瞬間、耳の奥に別の音が忍び込んだ。
──助けて。
それは悲鳴ではなかった。
無数の声が重なり、泡のように細かく砕けた懇願だった。
慌てて湯船をのぞき込む。
そこには泡はひとつもなく、ただ水面に自分の顔が映っていた。
しかしその口が、勝手に「助けて」と動いていた。




