減らないろうそく
机の上に一本のろうそくがある。
ずいぶん昔からそこにあった気がするが、正確にいつ置いたのかは思い出せない。
ただひとつはっきりしているのは──このろうそく、決して減らないということだ。
火を点けて、数時間読書をしても、芯は黒くもならない。
一晩中つけっぱなしにしても、蝋は滴らず、形は最初のまま。
不思議ではあるが、不便はなかった。むしろ電気代の節約になる、と妙に納得してしまったのだ。
いつからか、夜更かしの相棒になった。
照明を消し、部屋を暗くしたまま、机の上のろうそく一本で過ごすのが習慣になった。
最初は違和感があった。だが日が経つにつれ、ろうそくの光に包まれていると妙な安心を覚えるようになった。
そうして年月が流れた。
気づけば季節もいくつも巡っていたはずだ。けれども、ろうそくは一向に減らない。
──いや、減らないだけではない。
最近になって気づいた。
鏡を見ると、髪の色も肌も、昔とほとんど変わっていない。
学生のころから使っていたはずなのに、もう社会人になって何年も経つのに。
「おかしいな」と笑おうとしても、笑えなかった。
ろうそくに火を点ける指は自然に動く。何度も何度も。
消すと部屋が真っ暗になるのが怖い。
だから今日も点ける。昨日も、一昨日も、その前も。
気づいたら、日付の感覚がなくなっていた。
カレンダーは壁にかけっぱなしで、何月なのかも分からない。
ただ、机の上のろうそくだけが、ずっと同じ光を揺らしている。
……このろうそくを初めて使ったのは、いつだったのだろう。
考えても思い出せない。
思い出せないことが、恐ろしい。
だからまた、火を点ける。
ろうそくが減らないのは、ろうそくのせいか。
それとも──俺のほうなのか。




