第39話:「鏡の儀式」(ファンタジー)
聖堂の白い壁に、千の鏡が埋め込まれていた。
「準備は整いました、天鏡師様」
見習い巫女の花鏡が、深く頭を下げる。14歳。透き通るような白磁の肌を持つ少女だ。
天鏡師の鏡汰は静かに頷いた。風にそよぐ銀髪が、夜明けの光を受けて輝く。
「では、始めよう」
鏡汰は中央祭壇に立ち、詠唱を始めた。
Initiate: MIRROR_REFLECTION_PROTOCOL
Status: First Sacred Reflection
Time: Dawn of the Thousandth Year
千の鏡が一斉に光を放つ。それは星々の輝きのようでもあり、千の魂の呼応のようでもあった。
「花鏡、第二詠唱を」
花鏡は震える声で応える。これが彼女の最初の、そして最後の儀式となる。
Execute: SOUL_TRANSCENDENCE
Target: Eternal Mirror
Phase: Alpha to Omega
鏡は次々と砕け始めた。しかし、その破片は床に落ちることなく、光となって空中に漂う。
「道は開かれた。さあ、行くがいい」
鏡汰の声が、どこか悲しげに響く。
花鏡は理解していた。自分が選ばれた理由を。自分の役割が何であるかを。
「でも、それは……」
「そう、これが千年に一度の鏡の儀式。世界の歪みを正すための」
鏡汰は微笑む。その姿が徐々に透明になっていく。
「あなたは……消えてしまうの?」
「いいえ。私は千年前の天鏡師の投影にすぎない。本物の私は、そう――」
鏡汰は花鏡を指さした。
「あなたの中に」
花鏡の体が光に包まれる。記憶が、魂が、力が、すべてが蘇っていく。
自分が千年前の天鏡師であったこと。
魂を鏡に映し、千年の時を超えて転生したこと。
そして、この瞬間のために、すべてが調えられていたこと。
Complete: MIRROR_REFLECTION_PROTOCOL
Status: Perfect Convergence
Result: Cycle Renewed
最後の鏡が砕け散る頃、花鏡――いや、新たな天鏡師は静かに目を開いた。
そこには、新たな見習い巫女が佇んでいた。
「準備は整いました、天鏡師様」
千年後の夜明けが、また始まろうとしていた。
このお話から「千年に一度だけ」を取り出して次につなげます。




