真実は宴の中に
爛 梓豪は本物の、橋 鈴藤の父親を見つけている。全 紫釉はそう、告げた。
爛 梓豪からすれば、それは突拍子もないこと。きょとんとして、大笑いしてしまった。
「あっはっはっ。阿釉、俺がいつ見つけたんだよ? ここに来るまで、親父さんの遺体を見つけたことないぞ? そりゃあ、ここには頭あるけどさ……」
山積みになっている妖怪の死体を見つめる。どんな妖怪かわからない者もいて、適当に積み上げられたといことしかわかっていなかった。ただ、ここには、橋 鈴藤の父親の頭部だけがある。
それを全員で凝視した。
全 紫釉は首をふる。
「勘違いしないでくださいね? あなたがどうこではなく、知らない間に発見してしまっていたという感じですから」
「……んん?」
頭を抱える彼の肩に軽く触れた。
肩をすくませて苦笑いすれば、彼は笑い返してくれる。
「この部屋をひととおり調べたら、私が捕まっていた部屋へ戻りましょう」
よにんは目ぼしいものを見つけ、隠し部屋を出た。出た先には牀しかない、質素な部屋がある。
部屋の牀に獲得した品を置き、全 紫釉はある場所に足を向けた。そこは爛 梓豪が、寒いと文句を言っていた場所でもある。
天狗の絵で言えば、ちょうど翳を持っていた部分にもなった。
「──この天狗と、そして壁の牛。このふたつの妖怪が持っている物が逆というのが、謎を解く道具だったんです」
牀の上に放り投げられているのは、楓の絵が絵が描かれている一枚の板だ。その板を彼に渡し、天狗の絵に嵌めてほしいと頼む。
「え? まあ、いいけど……ぴったりと嵌まるとは思えな……あ、あれ?」
彼の声は疑問から驚きに変わった。なぜなら、あっさりと絵が嵌まってしまったから。
白月は拍手し、白無相は「おおー」と、歓喜の声をあげていた。
「ど、どうなってるんだ!?」
さんにんは全 紫釉へと向き直る。
全 紫釉はコツコツと、足音をたてながら床の絵までやってきた。
「別に特別なことはしてませんよ。と言うか、本来あるべき場所へ戻しただけ、なんでしょうね」
「あるべき場所? ……あっ! もしかして、両方の板は、最初からこうなっていた?」
全 紫釉はクスッと微笑して頷く。
「おかしいと思ってました。天狗は楓を。牛は翳を。本来なら、これが正解なんです。そこで、思ったんです。お互いの持つ物が違っているのには、わけがあるのでは? と」
案の定、牛が楓を持つことにより、隠し部屋への入り口を塞いでしまっていた。
「恐らくですが、最初はキチンとした位置にあったのでしょう。けれど反対に持たせることで、隠し部屋への入り口を閉ざせる。それに気づいた誰かが、逆に嵌めたのでしょうね」
「誰かって、誰?」
「……さすがにそこまでは」
そこを突っこまれるとは思っていなかったようで、全 紫釉は口を尖らせてしまう。ぷうーと頬を膨らませた。白月も真似をして、ふたりで彼を睨む。
「だんだんと似てきたよな、お前ら……」
脱力するとはこのことかと、彼は乾いた笑いをした。それでもすぐに咳払いし、話の続きを求める。
「で? 隠し部屋を隠すためってのはわかったけど……結局、親父さんの体はどこにあるんだ?」
「……爛清、あなたはこの部屋を調べてる際に、こう言いましたよね? 床が冷たい、と」
神妙な面持ちで彼に言葉を投げた。足元にある天狗の絵を見下ろす。
──板を正しい場所に嵌めれば、遺体が出てくる。そう思っていたけど……嵌めても、何の変化もない。ということは、他に何かあるのだろうか?
うーんと、首を捻った。
「この天狗、何かあるはずなんですけどね」
独り言になってしまう。それでも謎を解いてしまいたい気持ちに駆られ、ため息で誤魔化した。
──そもそもなぜ、天狗なんだ? 魂を操るのなら、異國の妖怪じゃなくてもいいはず。そこに意味があるのだろうか?
何も思いつかないことに、苛立ちが募っていく。
──ああ、ここに牡丹がいれば、お腹を吸って気持ちを落ち着かせられたのに。
連れてこなかったことを後悔した。
「……あれ? そう言えば……」
あることを思いだす。腰を曲げて、天狗の絵がある板を撫でた。
「この國での天狗は妖怪ではなく、凶事を知らせる流星だったはずです」
この國の天狗は犬の姿を成している。流星を見ながら天から降りていく犬がいたため、その姿からそう言われていた。地へと降りた犬は大暴れし、町を滅ぼした。
そして襲われた者は皆、魂ごと消滅してしまう。命を狩る者とも言われ、それが、天狗が災いを知らせる流星であると伝えられている由縁でもあった。
──もしかして妖怪ではなく、流星として考えればいいのかな?
その場に座りこみ、じっと床を眺める。そしてふたりの妖怪に目をつけ、彼らに尋ねた。
「この國の天狗……流星は、魂を狩る存在と言われています。あなたたちも魂を司る妖怪ですよね?」
こてんと、小首を動かす。
白無相は両目を見開いた。けれどすぐに細め、首を左右にふる。
「姫様、わたしたちと天狗では、役割がちがいます。はい」
白無相はどう答えたらいいのか迷っているようだ。苦笑いし、肩をすくませている。
「……? 役割、ですか?」
「はい。わたしと黒無相は魂を狩るのではなく、奪うのです。はい」
真っ白な服の袖をヒラヒラとさせた。きょとんとしえいる全 紫釉の隣へ座り、床の天狗を指差す。
「狩ると奪うでは根本的に違います。はい。天狗の狩るというのは、魂を導くこと。同意のもと、許可を得た者の魂を言います。しかし、わたしたちは違います。文字通り、文句を言う暇も与えないまま、強引に魂をものにする。これがわたしたちです。はい」
「……え? でもそれだと、災いの流星というのは?」
純粋な疑問だった。話を聞く限りでは災いではなく、人々を導く存在のよう。それがなぜ災いになってしまうのか。そこが、どうしても解せなかった。
すると白無相は弱々しく首をふり、ため息をつく。
「姫様、人間からすれば、導くとか奪うとかそんなのは関係ないのですよ。どっちも悪。そう、考えられてしまうのです。はい」
「……あっ」
どうやら、妖怪たちの価値観でしか考えられなくなっていたようだ。人間としての気持ちよりも、妖怪の価値観を優先しまっていたのだろう。それに気づかされた全 紫釉は、心の中で少しばかりの反省をした。
両頬を軽くたたく。そうすることで平等な気持ちになれるよう、心を切り替えた。
──天狗についてはわかった。だけどそうなるとここから先、どうすればいいのか……
「姫様、提案なのですが……この天狗から察するに、ここから先へ行くのは、狩られた魂ならば可能かもしれませんよ。はい」
「狩られた?」
──そうか。この絵が意味することは、この天狗に狩られた魂……それと同じように狩られた魂であることで、先へ向かえるということか。
「確かに、天狗でなくても誰かに狩られた魂ならば、先へ進めるかもしれませんね。でも、誰を? どうやって?」
「どうやっては、わたしたちが代用しましょう。はい」
どうやら彼らは奪うのではなく、狩ることもできるようだった。白無相と白月は頷いている。
「では、お任せします。問題は、誰を。ですね。戻っている時間はありませんし……」
──私がやってもいいけど、多分補助に回らなければいけないからなぁ。そうなると消去法で……
向かいがわで欠伸をかいている彼を注視した。そして腕を伸ばし、彼の肩を軽くたたく。
「爛清、一度、死んでみませんか?」
「…………え?」
話をふられるとは思っていなかったようで、爛 梓豪はいつになく驚いていた。




