第十四話 十重結界
「これくらい楽勝!」
無数の光の結晶が飛び、魔物を穿って爆発する。
連続する爆発が魔物を一掃するが、目元で起こったそれによって群れの頭が全身を震わせた。
文字通り地面が揺れ、結界狼が牙に爪を立てる。
俺はどうにか持ち堪えたが、マドカは振り落とされてしまった。
「マドカ!」
「大丈夫!」
落ちたマドカは光の結晶で足場をつくり、どうにか落下を防いでいた。
「行って!」
「あぁ!」
マドカのお陰で邪魔な魔物は消えた。
一息に駆け抜けて頭上まで登る。
ここからなら大した攻撃はこない。
そう高をくくっていたが、そうではなかった。
「ギュアアァアァアァァアアアアアア!」
咆哮と共に全身から放出される魔力。
それは周囲にあるものすべてを弾き出す衝撃波となって拡散した。
「ぐッ!?」
至近距離にいた俺に躱す術はなく、遙か上空まで吹き飛ばされる。
枝葉の天井を突き抜け、太陽に近づき、雲に手が届きそうになった。
「体は、動くッ」
魔力の衝撃波のほとんどは結界狼が引き受けてくれている。
体に負傷がないなら、このままやるだけだ。
未だに上昇し続ける体を無理矢理に制御し、結界刀を振り上げる。
鍔に雷の魔法陣を刻み、刀身に結界を折り込む。
放つのはこれまでで最高威力の雷の刃。
「十重」
刀身に迸る白雷が残光を引いて馳せ、虚空を断つ。
雷の一閃は雷鳴の如き音を立てて視界を二つに斬り裂いた。
まさに落雷に打たれに等しい群れの頭は死へといたる痺れを経験する。
「ギュアァアァァァアアァアアアアッ!?」
断末魔の叫びを放ち、頭蓋と背骨からゆっくりと別れていく。
その巨体から夥しい量の血液が流れ出し、二つの肉塊が倒れる。
だが、それが地面に転がる前に、その二つは一つの魔石となって落ちた。
どすんと一つ、地鳴りのような音がして群れの頭は排除される。
これでエルフの里は救われた。
「よっと」
落下地点に結界クッションを敷き、深く沈み込んで跳ね返る。
それを何度か繰り返してから柔らかい土の地面に着地した。
「あははっ! 凄い、凄い! 一撃で倒しちゃったじゃん!」
「あぁ、何とかな」
結界狼に乗ったマドカが側にくる。
それに続いてエルフの兵士たちも全員、この場に集う。
「感謝します。これで我らの里は救われました」
「魔物の群れもちりぢりに逃げて行きます。もう大丈夫でしょう」
「貴方は里の英雄です」
そんな照れくさい言葉を言われていると、遅れて結界狼が落ちてくる。
さすがは結界製、あの高さから落ちてもびくともしていなかった。
「さて、それじゃあ帰ろう。みんなに無事だって伝えないと」
「うん! はやくミーファちゃんに会いに行こう!」
そうして俺たちは全員揃ってエルフの里へと帰還した。
§
エルフの里に戻って戦士長に報告すると大歓声を受けた。
誰もが里の無事を喜び、俺たちを称えてくれた。
エルフの兵士は名誉ある品を贈られ、マドカはミーファと抱き締め合っている。
盛り上がりは尽きず、宴の用意が成される中、ふとラインと目が合った。
遠巻きにこちらを見ていたラインは、数秒ほど目を合わせるとそのまま背を向けて去って行く。
俺はその背中を見届けて、ミーファたちの元へと戻っていった。
そうして宴が執り行われ、その日はエルフの里で一泊する。
翌朝、自分たちの世界に帰る時がきた。
「みな、この里のために尽力してくれて感謝する。とくにトウヤ。キミが居なければ里は滅んでいただろう。本当にありがとう」
「やっぱりお兄ちゃんを呼んでよかったでしょ?」
「あぁ、そうだ。ミーファのお陰でもあるな」
ミーファは父に頭を撫でられ、嬉しそうにしていた。
「それじゃあまた」
「会いに来るからね、ミーファちゃん」
手を振り、エルフの里を後にする。
舗装された道を歩いて、ゲートへと向かう。
「いやー、大変だったねぇ」
「あぁ、でもやり甲斐はあったろ?」
「まぁね。ミーファちゃんの笑顔も見られたし」
「そればっかだな」
「だって可愛いんだもーん」
やっぱり子供好きだな。
「あ、そうだ。この前二人でクエストやったっしょ? 今回も大人数でやったから、次は約束通りに三人ね」
「はいはい、わかったよ。予約もされてることだしね」
「んふふー。このままトウヤをうちに取り込むからね」
「ついに本性を現したな」
「あははっ!」
そうして笑い合いながらゲートを潜る。
マドカのパーティーに取り込まれる日もそう遠くないみたいだ。
まぁ、それも悪くない。
お疲れ様でした。
新作を書いたので良ければ下から見ていただけると幸いです。
ありがとうございました。




