表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/14

第十二話 結界半球


「ソルフのとことレオナのとこは雑魚の相手だ。ヨモギとクルースのとこは俺たちとだ。で、問題のトウヤだが」

「俺はここに残って防衛、だろ?」

「はっ、よくわかってるじゃねぇか」


 だいたいそんな所だろうと思った。


「群れは親玉が率いてる。そいつを潰せばあとは有象無象だ。ちりぢりになって逃げるに決まってる。とにかく頭を潰すことだけ考えろ。心配しなくてもそこのトウヤが結界を張ってりゃ里は無事だ」


 今回も便利に使われているが、それで里が守れるならそれでいい。

 手柄を立てられなくても、べつにいい。


「ねぇ、お兄ちゃんたちが行かなくて大丈夫なの?」

「たぶんな」


 不安そうなミーファの頭を撫でて安心させる。


「なーんか、気にくわないなぁ」

「今回は」

「わかってるって。里の安全が優先。トウヤがここで待機するのにも意味があるから別にいいけど……なんだかなぁ」


 マドカは納得がいっていない様子だった。

 

§


「さて、いよいよだな」


 数時間前にラインが率いる冒険者たちが里を出発した。

 待機組である俺とマドカ、あと数名はここに残って万が一に備えている。


「万が一なんて起こらないけどな! わっはっは!」

「ラインの真似か?」

「そ。似てたでしょ?」

「似なくて良い」


 似てたら似てたで、それも嫌な感じだ。


「今頃はもう魔物の群れとかち合ってるねぇ」

「無事に頭を潰せてるといいんだが」


 気を揉むだけ無駄なことだけど、気にせずにはいられない。

 魔物の群れが突っ込んでくるかも知れないと思うと、待機していても気は抜けなかった。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん。差し入れだよ」

「おっ、ありがとー。これなあに?」

「ミーファの手作りお菓子! クッキーに花の蜜を絡めてあるんだ」

「へぇ、そうなの! じゃあ、一ついただきまーす。んー、美味しい!」

「俺も」


 皿から一つ拾い上げて口へと運ぶ。

 いい塩梅の甘さ加減とクッキーの食感が合わさって、とても美味しい。


「よかった。あとで作り方、教えてあげるね」

「じゃあ、楽しみにしてるね」


 残りのクッキーも頬張りつつ、森の奥を見据える。

 今のところは静かなもので、この向こうで冒険者たちが戦っているとは思えない。

 でも確実に死闘は繰り広げられていて、恐らく死者も出るだろう。

 最悪の事態を想定しつつ、動きがあるのを待つ。

 そんな折り、一人のエルフが血相を欠いて森から飛び出てきた。


「報告! 冒険者パーティーはほぼ壊滅! 魔物がこちらに向かっています!」


 瞬間、周囲が騒然とし、同時に魔物の雄叫びが里に木霊した。

 にわかに慌ただしくなるエルフたち。兵士は弓を構え、女子供は家へと避難する。


「ミーファ! はやくこっちに!」

「でも……」


 ミーファの不安そうな瞳が俺たちを写す。


「大丈夫だ。俺が何とかする」

「ちゃんと守るから、安心して」

「……わかった。怪我、しないでね?」

「里をお願いします」


 ミーファは母親に連れられて家の中へと避難した。

 丁度その頃になって魔物の姿が見え始める。

 乱雑に生えた木々を交わして突き進む無数の魔物たち。

 そこへ何本もの矢が射かけられるが焼け石に水だ。

 幾ら射貫いても数が減った気がしない。

 地面を覆い尽くすような魔物の群れが蠢き、大きな波となって里を飲み込もうとしていた。


「ダメだ! 押さえられない!」

「里が、里がッ」


 うろたえる兵士たちの側を抜けて里の縁に立つ。

 そこから迫り来る魔物の群れを見据えて、大きく呼吸をし、スキルを発動する。


「悪いが通行止めだ」


 エルフの里を覆い尽くすほどの結界をせり上げ、半球状に包む。

 結界は瞬く間に完成し、激突した魔物のすべてを弾き返す。

 激突の衝撃で骨が折れたもの、進行方向を阻まれたことで渋滞し、ほかの魔物に踏みつぶされてしまうもの。

 それらの悲鳴が森中に木霊し、勝手に数が減っていく。


「うひゃー、すごい光景。大丈夫? 平気」

「あぁ、まぁな。ちょっと疲れるけど、大丈夫そうだ」


 これほど大規模な結界は出したことがない。

 だからか、疲労感が強いが立ってられないほどじゃない。

 すでに群れの動きも止まりつつあって、引き返している魔物もいる。

 このまま維持していれば返っていくだろう。

 そう思っていると――


「ッ」


 目の前に巨大な猪の魔物が現れる。

 森の暗がりから両目を光らせ、じっとこちらを見つめていた。

 それと数分か十数分かにらみ合うと、向こうからゆっくりと引いていく。

 それに合わせてほかの魔物たちも来た道を帰っていった。


「びっくりしたー。あんな大きな魔物いるんだねぇ」

「あぁ、あいつが突っ込んできてたら流石に危なかったかもな」


 そして、たぶん奴はまたやってくる。

 しばらくは結界を解けなかった。

ブックマークと評価をしていただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ