第八十九話 再試験
第八十九話! アルトさんの話とは……?
「2人とも揃ったね……さて、話を始めようか」
声のトーンを落とし、そうやって僕とライアさんに話を始めたアルトさん。その声はどこか神妙な雰囲気を帯びていて……何の話をするんだ?
「アルトさんじゃないですか! お姉ちゃんがお世話になってます!」
はい、神妙な雰囲気がライアさんの元気な質問の声で消えました。というかこの2人、知り合いなんだ……って、お姉ちゃん? もしかして……
「ライアさんって……フィーズさんの妹なの?」
「そうだよ! 君もお姉ちゃんのこと知ってるの!?」
道理で強いわけだ……ほかの受験者の人たちとは桁が違う強さだったからな。なんというか戦いづらいというか……戦い方が上手い人だった。
「うん、前にちょっと話す機会があって……」
「何か変なことされなかった? ボクのお姉ちゃん、30歳でまだ彼氏ができたことないからカップルがいたらよくちょっかいかけてるんだけど……」
「あー、えっと、それは……」
これは正直に言っていいものなのだろうか。いや、ここはフィーズさんの名誉にかけて……
「ライア、ちょっと前にフィーズがげっそりしてたでしょ……そういうことだよ」
言っちゃったよ。
「あぁ……本当にごめんね、悪い人じゃないんだよ……」
この反応、さては相当こういう状況に慣れてるな……? 僕はひっそりとライアさんとアルトさんの苦労を察する。
「全然大丈夫ですよ、怒ってませんから……ええ、全然怒ってません」
僕はそうやって笑いながら返す。全然怒っていない……というと嘘になるが、まあそんなに気にしてはいない。少し口調に本音が混じってしまったが……
「「これは完全に怒ってるね」」
どうやらバレてしまったみたいだ……そういえば、さっきアルトさんが『げっそりして帰った』とか気になることを言っていたけど……
「アルトさん、あの後フィーズさんに何をしたんですか……?」
確か前の会話でアルトさんが……
──── 地獄とは失礼な。ただ、物質どころか時間の概念さえもない真っ暗な空間に閉じ込めるだけでしょ────
こんな恐ろしいことを言っていた気がする。あの時は冗談だと思っていたが、まさか……!
「大丈夫、今回は体感3日間で済ませたから……これ以上、聞きたい?」
「結構です」
涼しい顔で答えるアルトさん……その目には光が灯っていない。ライアさんも目を逸らしているし、これ以上は聞いてはいけないんだ……うん、僕は何も見てないし聞いてない。
「長話しすぎたね……じゃあ、そろそろ本題に移ろうか」
「「そうしましょう」」
この気まずい空気を流すようにそうアルトさんに促され、僕たちは本題に入ることにした……
「「……再試験?」」
アルトさんが語り出した本題。それは僕たちに、更に高い難易度での再試験を課すというものだった。
「そう、再試験。君たちには少しあの試験は簡単すぎたから……もちろん今の結果だけでもBクラス以上の入学は堅いけど、更に上のクラスを目指してみる気はない?」
「強制ではないんですね」
「もちろん。このまま普通に2次試験を受けたって構わないよ」
なるほど、この再試験は僕たちの実力が足りなかったから受けさせられるものではなくて、僕たちの実力を測るためのものなのか……
「それを受けるメリットはわかったんですけど……デメリットはあるんですか? そんな条件じゃ、ボクたちに有利すぎる」
急な話ながら、そうやって冷静に切り返すライアさん。確かに彼女の言う通りだ。その条件じゃ、受けない理由がない……
「もちろんデメリットもある。この再試験は……今回みたいに、安全が保証されてはいないんだ。もちろん命の危険だってある」
命の危険、か。冒険者をしていたらそれはつきものだけど、わざわざそれに近づくようなことはしたくないな……そう思って断ろうかな、と思っていたのだが……そこにアルトさんがある一言を加えた。
「私から詳しいことは言えないけど…………ただ一つ言えることは、もしもその試験に受かればそんなデメリットなんて関係ないくらいの大きなメリットを得られる。私は受けるべきだと思うよ……特にラルクくんは、ね」
そう思わせぶりな言い方で僕に視線を向けながら告げるアルトさん。詳しくは言えない……? 特に僕は受けるべき……? そして、さっきの更に上のクラスという言葉……まさか。
「Sクラス……!?」
「……それは自分で見て確かめるといいよ」
……否定しない、か。だったら、僕の返答は既に決まっている。
「……受けさせてください、再試験」
そんなの受けないわけないじゃないか。フィリアのいるSクラス……絶対に受かってやる。
「はぁ……アルトさんに口止めしてるのに、お姉ちゃんは……。お酒飲んだらすーぐ口が滑るんだから……もちろんボクも受けさせてもらいます。次の試験もよろしくね」
どうやらライアさんも再試験を受けるみたいだ。
「再試験もよろしくお願いします、ライアさん」
「ボクのことはライアでいいよ、ラルク。こちらこそよろしく」
「青春だねぇ……それじゃ、あと一時間で始めるから。また呼びに行くね」
そうやって僕たちは再試験に向け、決意を新たにしたのだった……ん? 今……なんて言った?
「「あと一時間!?」」
「じゃあね〜」
いくらなんでも短すぎ……って、もう元の世界に戻され始めている!
「「ちょっと待ってぇぇぇえ!?」」
僕たちのその叫びはどこまでも広がる真っ暗な空間に、ただただ吸い込まれて行ったのだった……
急に始まる再試験! ラルクは合格できるのか!?




