第八十五話 あと、少しだけ
第八十五話! シルクさんの謎はますます深まっていく……
「ラルクくん……また変なこと言っちゃったね」
てへへ……と言うような仕草で頭を掻きながら、少し涙を溜めた目をこちらに向けて言うシルクさん。その顔には、無理して笑っているような表情が浮かんでいる。
よく考えたら、今までもおかしかったんだ。僕の鑑定中に、急に泣き出したこと。『興味がある』という理由だけで、金貨3枚もかかる鑑定を無料でしてくれたこと。店を休んでまで、特訓に付き合ってくれたこと……
「シルクさん、単刀直入に聞きます。一体、僕とあなたの間に何があったんですか? それに……何故、勇者を僕に重ねているんですか?』
そして、前に泣いた時の言葉。
『アルス…! ホープは!? ホープはどこに行ったんだい!? 私は2人に……』
『希望の勇者』アルスと『最強の剣聖』ホープ、その2人の名前が出たこと。エルフ族は長命だ。その2人と知り合いで、僕を見て思い出しただけでもおかしくはないが……
「あなたはいつも、僕のステータスを鑑定してから泣いていた」
僕の固有スキル、『武芸百般』、10年前に死んだ勇者と剣聖、そして全員となんらかの接点があるシルクさん……彼女は、何者なんだ?
「…………。」
返ってきた答えは沈黙だった。シルクさんは気まずそうな顔をして、下を向いている。ランプから出る光が差し込んで、その表情は見えなくなった。
「……僕には、教えられませんか」
何か理由があるんだろうか。僕にはわからないような理由が。そう思って聞いてみると、シルクさんはゆっくりと頷いた。床にはいくつかの水滴が零れ落ちている。
少しの沈黙の後、シルクさんは消え入りそうな声で僕にこう告げた。
「……あと、少しだけ。ちょっとだけで良いから待っててくれないかな」
たしかに僕に向けて告げられた言葉。しかしその言葉は、僕以外の『何か』に向けられているような……
「どうして今じゃダメなんですか?」
「ラルクくんにはまだ……早すぎるんだ。そうとしか言えないよ、今は……ごめんね」
普段からは想像もできないほど弱々しい声だったが……その声には、絶対に譲らないという強い意志が込められていた。ここは折れるしかなさそうだ。
「分かりました。でも、またいつか……その時が来たら、話してください」
「ああ、約束するよ。絶対に話そう……君達にとっても、大切な話だからね」
「それじゃあ、今日はこれで。今度は客として来ますね」
「うん……待ってるよ、ラルクくん」
そう言って、僕はシルクさんの店から出て行った……胸の中にある違和感を残したままで。
〜1週間と少し後〜
「これ、もしかして全員が受験者……!?」
「こんなにいるの!?」
「多すぎるでしょ!?」
鑑定してもらってから1週間と少しが経った。その間、僕はノーマルスキルの特訓を繰り返して何度も行い試験に備えていた。
そして今日は試験当日。僕はマール、リールと共に学園の門の前……試験の集合場所まで来ていた。
門の前の広場は馬車が何十台でも止まっていられるくらい広かったはずなのだが、学園の受験者によって埋め尽くされていた。しかも『冒険者コース』の推薦入試者だけでこの人数なのだ。やっぱり王都は何事もスケールが大きい……!
そう驚きながらあたりを見渡していると、広場が急に大きな影に覆われる。そして空から聞こえてくる、羽ばたくような音。僕をふくめ周りの人が皆上を見上げると、そこにはドラゴンが飛んでいた。これは……
「ファイルガリア学園受験者のみんな、集まってるかぁぁぁあ!」
その上から聞こえてくる、どこかで聞いた声……フィーズさんの声だ。多分、拡声の魔道具を使っているんだろう。
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉお!!!」」」」」
返事をするように声を上げる受験生たち。大きな声と熱気に包まれたその光景は、まるでモンスターたちの大群のよう。鼓膜が破れそうだ……!
「ファイルガリア学園に、入りたいかぁぁぁあ!」
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉお!!!」」」」」
「う、うぉぉぉぉぉぉお!」
返事はどうやらこれらしい。僕もそれに乗って、声を張り上げる。
「だったらこの試験で勝ち取れ! 自分の手で勝利を掴め! と言うことで第一試験は……」
「「「「………………」」」」
今まで爆音に包まれていたはずの門の前は急に静まり返り、その第一試験の内容を聞き逃すまいと言うように全員が耳を澄ましている。一体、どんな試験なんだ……!?
「名付けて、『トレジャーハンティング』! 君達には、この学園内であるものを探して貰う!」
名前そのまんまだな! というか、『学園内』って……大丈夫なのか? ものすごく荒れそうな気がするんだけど……
「ルールの説明を始めよう! 言うのは一回のみ! ちゃんと聞いておかないと後悔するぞ!」
おっと。別のことを考えている場合じゃないな……
「ルールは簡単! 学園の中に散りばめられている、100個の赤い宝玉……君達にはそれを探して、学園のどこかに隠された出口から1時間以内に脱出してもらう!」
なるほど、宝探しゲームか……これ、実力関係あるのか?
「自分で探しても良し! 人から奪ってもよし! 誰かと共謀しても、裏切ってもよし! ただし過剰に人を傷つけるのだけはアウトだ! せいぜい気絶させる程度にしとけよ!」
気絶させる程度ってそれ無事じゃないよね?
「それじゃあ試験はあと10分したら始まるから! 10分後にはこの門の前にいること!」
その言葉と共に、上空のドラゴン……とフィーズさんもとい学園長は学園のある方角へと飛んでいった。
特にやることもないし、そのあと10分間はどういう動きをするか考えながら過ごしていた……そして、10分後。門の前の広場に、アルトさんの声が響いた。
『試験…………そろそろ始めるよ。10、9、8……』
え、待って!? まだ学園内にも入っていないのにスタート!? いや、どういうこと……!? しかし、その問いへの返答は次の瞬間に行動で示された。
『……3、2、1……0。じゃあ、いってらっしゃい』
「「「「「…………え?」」」」」
その瞬間、僕たち含む広場にいた受験者たち全員が……突然地面に空いた大穴に落ちていった。
ついに一章終わりから引っ張り続けた、学園編開幕です! ……が、まだ章タイトルは出しません。




