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俺のマスターは吸血姫~無双の戦鬼は跪く!~  作者: 黎明煌
第三章 「無双の戦鬼、友達できるかな?」
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94 「半年以上飛んでいた気さえするぞ」



 ズドン、と。

 重苦しい音と共に学園の屋上へと着地する。

 いや、決して両腕にぶら下がる彼女達が重いと言っているわけではないぞ? むしろ軽すぎてもっと食えと言いたい。

 ……刀花に言ったら翌週くらいには屋敷を巻き込むダイエット週間に突入してしまうから言わんが。


「とうちゃーく!」

「私……私もう絶対平日は早めに起きる……」


 ぴょんと軽快に腕から降りる刀花に対し、我がマスターは風を受けてボサボサになった髪を見つめながらどんよりと呟く。


「お気に召さなかったか?」

「朝から安全ベルト無しのジェットコースターさせられるお嬢様って芸人でもいないと思うわ」


 そういうものか。

 俺は最近携帯するようになった専用のブラシで彼女の金糸の髪を整えつつ、次に遅刻しそうになった時の作戦を練る。

 安全面が心配なら、今度はきちんと縄でくくりつけて飛ばしてみるか。


「さて、兄さんは職員室で待機してから教室ですよね?」

「そう聞いている」


 始業式を体育館でしている間に、俺は細々とした説明を受けるらしい。

 ちなみに二人はこのまま体育館へ赴き、式を受けることになっている。


「うぅむ、猿どもが密集する場へ送り出さねばならんとは……不安だ」

「生徒を猿呼ばわりするあなたの方が私は不安よ」


 口惜しい。

 そのような密集地帯に我が主と妹を放り込むなど、蠱毒に放り込むようなものではないか!

 特にマスターは国籍が違うどころか種族も違う。そしてなんといっても泣く子も見惚れる金髪美少女である。

 彼女を巡って暴動が起こってもおかしくはない。むしろ起こらねば猿どもの見る目がない……。


「マスター、危険を察知したらすぐに俺を呼ぶのだぞ」

「呼んだらどうなるのよ?」

「死宴の始まりだ」

「絶対呼ばないわ」


 まあ二人に危機が迫れば、自動で俺は召喚されるのでそこに自由意思はないのだが、これは黙っておこう。


「むしろあなたの方が心配だわ。クラスで粗相しないでね?」

「いいですか兄さん? 暴力はダメですからね?」

「ふん、その程度分かっている。ガキの使いでもあるまいに」

「そういう態度が私達を不安にさせるのよもう……」

「案ずるな、秘密兵器も持ったからな」


 度重なる念押しに、内ポケットのくしゃりとした感触と共にそう返す。彼女達が持たせてくれた物だ。困った時に見ろと申し付けられている。

 少々胡乱げな眼差しで見られてしまったが、二人は観念するように一つ溜め息をついた。


「……はぁ、やっぱり早計だったかしら」

「まあまあリゼットさん。信じて待つのもいい女の嗜みですよ」

「俺を信じろ」

「信じる実績がないのよねえ……」


 刀花はステップを踏むように、そしてマスターはぶつくさぼやきながら歩き出す。


「終わったら校門で待ち合わせましょう。むふー、兄さんとぉー、学園でぇー、待ち合わせー♪」

「ランチは外食かしらね。それか学食ってもう開いてるの?」

「どうでしょう。ちなみにおすすめはアスリート定食ですよ」

「トーカはアスリートじゃないでしょう……? そんなの食べてるから……あっ」

「何を察したんですかー!」

「きゃっ!? なんで腰を摘まむのよ!」

「腰にお肉が付く呪いをかけています」

「やめて!? それなら胸を揉みなさいよ胸を!」

「えっ、リゼットさん……私兄さんが好きなのでそういうのはちょっと」

「私だってそうよ! って朝から何言わせるの!?」


 キャッキャと話す彼女達の後に続く。

 朝から少々バタバタしてしまったが、ようやくだ。

 腐るほどの大人と子どもが生活する学園とやら。俺の対人能力を養う名目で編入させられたものの、優先すべきは彼女達の安全と、そして共に過ごす時間。


 ──共有するべき時間のために、他を斬り捨てるのは当然のことだ、そうだろう?


 自分の中での指針を確認し、一つ頷く。

 そうとも。屋敷だろうが学園だろうが、俺のやることは変わらんのだからな。


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