堅実な男の作られ方
仕事は午前九時から始まり、午後五時には終わる。
所謂"クジゴジ"と言うヤツだ。
それでそれなりの月給と、景気に関係なくボーナスも出るのだから、世間一般のサラリーマン達からすれば、羨ましくて仕方がないだろう。
しかし、これが皆が言う"夢も面白味もない"ボクが選んだ職業なのだ。
五時になれば、皆一斉に帰り支度を始める。
残業手当が出ない訳では無いのだが、課長の"八名勝男"がうるさいのだ。
そもそも、戸籍課自体残業などする様な部所で無いし、仮に残務があっても八名課長に小言を言われるくらいなら、皆、ウチに持って帰ったりするのが通例だった。
「天野さん!今日、これから予定ある?」
ボクの1年後輩の"池田輝也"だ。
女子職員は既婚者を含め、一様に"イケてる"だの"仕事が出来て格好いい"と持ち上げているが、ボクはいけ好かない。
「スミマセン!家の用事があるので…」
流石は天野さんだ!こんな軽いだけの男には靡かない。
ボクは、帰りに家の近くのスーパーに寄り、鯖の切り身と味付けをするだけで出来上がる筑前煮セットを買って帰った。
ウチに帰って鯖の味噌煮と筑前煮とインスタント味噌汁を平げ、ベッドに横たわりテレビをつけた。
テレビはついているのに画面に目をやる事なく、ファッション雑誌を読み始めた。
"こんな格好をして天野さんとデートしたら、天野さんはボクに惚れてくれるだろうか?"等と妄想を働かせていると、何だか"ムズムズ"して来た。
ボクは下着を擦りおろし、自慰行為を始めた。
"乙女ちゃん!気持ちいいかい?"等と彼女との妄想を膨らませて、ティッシュの中に自分の不甲斐なさを吐き出した。
ベッドの上でしばらく、少しの罪悪感と満足感に浸り、その後、シャワーを浴びて眠りに就いた。
その夜、子供の頃の夢を見た。
景気の良かった頃、トラックの長距離ドライバーをしていた父は、殆どウチに帰らず、母は、家事だけはキチンとしていたが、夜、よく出掛けていた。
恐らく、二人共、違うパートナーと大人の関係に耽っていたのだろう。
ボクは大概、一人きりで夕食を含め夜を過ごした。
その頃の何とも言えない虚しさに、途中、目を覚ました。
ボクが小学五年生頃に両親は離婚して、母は、同じ様な生活にプラスして、いちいち違う男を連れ込んでは情事に耽っていた。
やがて、景気が落ち込むと、母は出掛けて行かなくなる代りにウチで酒を呷り、泣きながら"馬鹿野郎"と叫んでいた。
ボクは、この頃から絶対にこんな大人になるまいと心に刻み込んでいた。




