言いたいことは、こっちです。
目の前の美青年に目を奪われたのは一瞬で俺は辺りの様相の変化に雄叫びを上げた。
な、なんで!
あれほどに美しく皹割れて、時には崩れ落ち、逞しく育っていた雑草達が、見る影もなくなっているのだ。テレビで見たことのあるヴェルなんたら宮殿やバッキンなんたら宮殿、あるいは…もういいか。の、ように美しくキランキランに輝いているのだ。今なお現役♪って感じで。…俺は膝を付き泣いた。
「主よ…何時まで泣くつもりか?」
目線をあげると白い足。大理石に反射している。
床がピカピカだと思ったら余計泣けてきた。
ん?主?
視線をあげると見下ろす紫の瞳があった。
「…貴方は、誰ですか?」
イケメンは押し黙る。
「あ、あの…?」
鼻をすすり上げる。
「主よ、何を悲しんでいる?」
イケメンが尋ねる。
てか、貴方…寒くないんですか?
めっちゃ薄着…って言うか、布っ切れ巻いてるだけですよ。
「もう、人ではないからな。主も寒くはないだろう?」
ふと問われて気付く。
ドイツの空港に到着した時に感じた肌にチクチクと刺さる冷気。
それがない。
あれ?俺…声に出した?
イケメンを再び見た。
「俺への問いかけなら、声に出さずとも分かる、主よ。で、何が悲しいのだ?」
心がどっかに行ったまま俺は呟いた。
「この城が豪華なのが………廃城の方が好きなんです。」
常人には理解されないものだ。
イケメンの表情が僅かに固まる。
えっ?そんなことで?って。
分かっている…。
そう正しい意味で美しい城になってしまった麗しの建物…。
こっちの方が皆の心には響くだろう。
「この城は、ライカが設計したのだが、主は好きではないと?」
怒っている風でもないイケメン。
でも、これは俺の求める姿ではないんだ。
うん、心には正直にならねば!
「はい、俺は!」
「時に聞くが。」
さ、遮られた!
「今の年号は?」
イケメンは周囲をぐるりと見渡す。
俺の言葉はスルッと無視されたようだった。
「へ、平成…です。」
イケメンは、考え込む。
あ、日本の年号言ってどうする!!
「いや、あの!!20××年です。」
イケメンは空中に親指と人差し指を引っ付けてかざし、画面を拡大するような仕草をした。
えっ?
何もなかった場所にA4サイズの…ゲームのアイコンのような四角い画面が出てきたんですけど。
思わず目を擦る。
な、何が起こってる?
俺ってば、殴られ過ぎておかしくなってる?
イケメンは、画面をスクロールして何やら呟いている。
「成程。」
一言発するとアイコンを閉じた。
そして、俺を見た。
あれ、ため息吐かれた?
「……俺は目覚める予定ではなかったんだがな。」
頭を掻くイケメン。
「時は思った以上に過ぎたようだが、まさか時空を…空間をねじ曲げてまで、俺を目覚めさせる条件を見付け出すとは…どれだけ暇なんだ。神と言う奴は。」
何やらぶつぶつ言っているけど、大丈夫かな。
なんか黒いオーラが発せられてるような。
イケメンは、大きく息を吐くと可哀想な子を見てるみたいな視線をおれに落とした。
「主は、廃墟…廃城の方が好みか。」
あれ?スルーしたんじゃ…。
問われたことに頷く。
「俺の目覚めと共に城の調度品も元の場所に戻ってきたが…、ま、いいか。主、主のイメージを俺に。」
彼の指が俺の額に当たる。
な、何?
゛ぱちん。¨
イケメンは、指をならした。
「!!!!!」
一瞬のことだった。
失われた俺の理想の光景が広がっていた。
俺に尻尾があったら千切れん程に振っているだろう。
「素晴らしいです。凄いっ!ありがとうごさいます。」
イケメンは、笑った。
なんか、もう殴られ過ぎて夢を見てることにする。
「主、名前は?」
「あ、玲…御劔玲…です。あ、あの…主って、俺のことですか?あ、貴方の名前は?」
イケメンは、ニヤリと笑った。
「皆は、ライモンと呼んでいたが、主の好きなよう呼んで」
「ライモンさんで。」
間髪入れず答えた。
「………そうか?好きに呼んでいいのに。」
「あ、あの!俺…夢をみてるみたいで、覚めるまで、この城探索してていいですか?」
ライモンは、首を傾げた。
「俺の城だが、玲は俺の主だから、好きにするといい。それよりも、1つ頼みたいんだが?」
今度は、俺が首を傾げた。
「俺の眷族…いや、仲間を起こしても?」
「こんな夜中に起こしても大丈夫ですか?」
俺の問いにライモンは笑う。
「俺が目覚めたのに起こさない方が五月蝿い連中だからな。今から地下にある霊廟に行くが、主は?」
「れ、霊廟!!」
すげぇ!!見たい!!
「では、」
「あ、あの!」
「ん?」
「行く前に服を探しましょう!!」
俺は至極真っ当なことを言った。
山の奥の廃城とは言え、冬なのに寒くも暑くもないけども!!
見てると寒そうだし、万が一誰かに遭遇したら俺が何かやだ。
「そうか。」
イケメン・ライモンさんは、すっと俺を上から下まで見た。
で、瞬間…色合いとかは違うけど俺とおんなじ感じの服装に。
所謂、普通のデニムにチェックのシャツ姿になった。
色合いは、ほぼモノトーンだけども。
あ、足の長さが違う…………くそぅ。
「主の服装は動きやすいな。うむ。気に入った。」
ライモンさんは、スタスタと歩いていく。
彼が歩いていく側から瓦礫が避けていく。
不思議な光景だった。
「主は俺の後ろを歩くといい。」
「あ、ありがとう…。」
ニッコリ笑ったライモンさんに、トキメキそうだ。
「大分壊れてるな。」
目の前には瓦礫の山。山の向こうに霊廟に入るヒンヤリとした少しかび臭い空気を感じた。霊廟の壁には恐らく金箔で装飾された荘厳な彫刻があったと思われる。
でも荒らされて無惨な状態だ。まぁ、俺には、アレだ。
ピラミッドや多くの遺跡が盗賊や時の権力者に荒らされていたようにこの廃城も…人間の強欲さ何かも感じられるよな。
感慨に浸っているとライモンさんが立ち止まった。
彼の数メートル先に祭壇かな?そんな感じの棚があって数個の聖杯?ってあれは盗まれなかったのかな。結構キラキラしてて綺麗なんだけど……あれ?此処に入った時にあんな目立つのあったっけ?
…この壊れた霊廟には相応しくない…でっかい水晶が。
『なんだ…起きたのか?』
銀色に輝く水晶から声がした。
ギョギョ!!
「あぁ…お前はどうする?」
石に語りかけるライモンさん。俺は自分の空想を越えた非現実的なやり取りに口が塞がらない。
「お前が起きたのなら、目覚めるさ。」
辺りが銀色に光った。
「ま、眩しっ!」
目を庇った腕を下げて見たものは、先程の光のように眩しいイケメン2号だった。
つづく