裁縫
ただ、講義は手がつかなかった。やることがあった。
吹奏楽は吹くだけなんて言われたりするけどそれだけじゃない。衣装や小物も手作りしなければならない。私たち1年が率先して作らねばならない。そう、簡単なポンチョとかを。
「ねぇ〜、糸が通らないんだけど」
「こんなことも出来ないとは、女の風上にも置けないな」
「え、ひど」
「西条くんひどーーい」
「すまん。語弊があったようだ。人としてどうかと思う」
「はぁ!? もっと酷いんですけど」
「まぁ、確かに友梨は不器用だよね」
ポンチョにもふもふをつけて派手にしようと思ったのだが、それ以前の問題で困っていた。
……なぜ、なぜ通らないの!!
「私、やるよ?」
びしょびしょになってる糸をペロッと舐めたタイミングで茉子ちゃんが私に哀れみの笑顔を突きつけてきた。そんな彼女を睨みつける。
「ひっ!!」
「こら! この女豹!」
「いて!」
遥香に頭を叩かれた。なんで私ばっかり。
なんて思って涙目にした彼女に目を向ける。
「え? これ全部やったの?」
「う、うん」
茉子ちゃんの机にはたぶん部員半分のポンチョが出来上がっていた。
「斉木さんの手つき、まるでプロのようだったよ」
「えへへ。高校の時もよくやってたから。家でも趣味みたいなのでやってるし」
「とても家庭的でいいと思います」
「褒めてもらえるような事じゃないよ」
「いやいや、今どき簡単な裁縫も出来ない女性……、失敬、人もいるしな」
……はじまったよ。この夫婦のイチャイチャ。ってか!
「悪かったわね! 女子らしくなくて!」
「西条くんさいてー」
「なんとでも言え」
西条は視線をおろして今やってるポンチョの作成を進める。
バツが悪そうに茉子ちゃんがソワソワと私を見てる。私は負けを認める。仕方がない。
「適材適所……だね」
と言って針と糸を彼女に差し出す。
「……とても言いづらいんだけど、……糸はいらない」
「…………そうだよね」




