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#2 焼肉から始まるターン制バトル

 車のボンネットで焼肉ができそうな、ちょっと暑い日。


 肉が焼けそうというか、知らない人の白い車で、すでに焼いている。

 火が通っていないのは気のせいか。

 いまさらだが、黒塗りのベ〇ツにしておけば良かったと後悔している。


 神奈川県ピョコハマ市のとある場所。

 俺と魔術師は、車の往来はげしい車道にいた。


 俺の身長は3メートル。

 魔術師も体がでかい。


 そんな俺たちは、軽車両として扱われている。


 肌は焼いても家焼くな! どうせ焼くなら高級車! 偉人たちが遺した言葉と、なま焼けの肉をかみしめていた時だった。


 両腕に入れ墨をした輩が肩で風を切りながら近づいてくる。車の持ち主らしい。

 パンチパーマをかけているせいか、かなりパンチのある容姿だ。


 パンチ男(パンチパーマン)の身長は180センチくらいか。

 高身長の部類にはいるが、俺と魔術師の背丈からすれば小さいほうだ。


 オラオラなオーラを出しながら、男が腕の入れ墨(彫り物)を見せつけてくる。

 彫り物の図柄は、うんまい棒の袋に描かれたアレ的な感じのアレなキャラのようだ。

 キャラの名前は知らない。

 俺に命名権があるとしたら、“土佐衛門”、“クモンイクモン”とつけたかもしれない。


「こちらのパンチパーマン2号は、リーダーの知り合いかい?」


 プロテインの粉をまぶした肉を頬張る魔術師が、パンチパーマンと俺の間で視線を行き来させる。


 魔術師もパンチパーマンと表現してきたか。

 俺と同じで語彙力がないな、オマエも。

 というか、パンチパーマンの1号はどこへ行った?


「バク天カードマンの劣化版みたいなヤツなど、俺は知らん。長方形でレンズが銀色のサングラスをかけた痛々しいパンチパーマンなんて、知り合いにはいない」

「ムム。3千万円の愛車で焼肉をした不届きものは貴様か?」


 いままで口を閉じていた男が文句を言ってくる。

 路駐していたヤツが偉そうに。

 ヘリウムガスを吸ったような声には少し驚いたが、挨拶だけでも返しておくか。


「アロパ~!」


 パンチパーマのうえ、銀色のアロハシャツを着ていたので無意識に口走ってしまった。


 機嫌が悪そうだ。

 立てた親指と小指をグリングリンしながら、うさんくさい作り笑顔で言わなきゃダメだったのか?


「ムム、見覚えがあるな……。そうか、貴様はあのときの勇者『早目野はやめのパブロン』か!」


 だれだコイツ? 「ムムム」、「クゥ~」と小声で呟くヤツの姿を見ると、本当にバク天カードマンに思えてくる。

 俺の名を間違えて覚えているらしい。『早目野はやめのパブロフ』が正解だ。もっとも、パブロフは本名ではない。異世界で活動していた際の源氏名だ。


「バク天市場かどこかで会ったか?」

「吾輩の名はハスター」

「とっとこハスター……。ハムスター? ひまわりのタネを口いっぱいにため込むアイツか?」

「いまハスターって言ったよな? 忘れたのか? 姿を変えて地球の調査に来たから無理もないか……。では、こう言えばわかるか? 痛風の呪い!」


 旧支配者の一柱『ハスター』か。


 旧支配者とは、旧神ノーデンスと対立関係にある邪神らのことだ。

 惑星を消しとばすくらい楽勝でこなすほど厄介なヤツらだ。

 レベルカンストしている俺が言うのだから間違いない。


 異世界で対峙したときの姿とは違う。いまの姿はアロハなおっさんだ。

 そんなもん、分かるはずがない。


 四大元素だか、元祖だとか言って、俺に風属性の呪いをかけた張本人。

 風属性といっても“痛風”という病気だが……。


 だがしかし、ハスターに親指を麻痺させる呪いをかけられているため、全く痛くない。


「やっぱりオマエか。はやく俺にかけた呪いを解け。靴が履きづらいんだよ!」


 俺の足のサイズは50センチだ。間違えて45センチのハイヒールを履いても気が付かないという、少し不便な生活を強いられている。


 もっとも、足の親指がグニョってなるか、ヒール部分がへし折れて、ローヒール(パンプス)になるだけだが。


「吾輩と勝負して貴様が勝てた暁には解いてやろう。吾輩の勝利で終わったら中指の指紋を消してやるからな!」


 すでに俺は親指の指紋を消されている。

 地味な呪いは勘弁してほしい。


「ところで、調査とはなんだ? 2秒以内に5文字で説明しろ」

「餃子の女将おかみ……」

「意味がわからん。ちゃんと説明しろ。ギョウザのハスターめ!」

「全国の『餃子の女将』を巡ってレポートを作成せねばならんのだ。クトゥルフの野郎、吾輩に面倒なことを押し付けやがって。いつかシバいてやる!」


 ハスター(ヤツ)の事情なんてどうでもいい。目の前の敵を倒すのみ。


 召喚システムが呼び寄せたわけではなさそうだが、バトルのテストをしてみるか。

 ハスターをぶちのめして呪いを解いてもらうとしよう。


 ストレンジ・バトル・エミュレーター(SBE)は、うまく動くだろうか。


 不安をいだきつつ、専用スマホでバトル管理アプリを起動……。


『バトル設定モード起動。あふれんばかりの笑顔でコマネチをしてくださいっ!』


 アプリの音声が告げた。


 “コマンドを入力してください”が正解だ。

 いきなりのバグ(プログラムの不具合)だが問題なさそうだ。

 ハスターが真顔でコマネチを決め込んでいるのは大問題だが、無視しよう。


「ナビゲーション、オン」


 ナビゲーションは初心者向けの機能だ。

 紺色のスク水を着たサキュバスが案内役としてポワりんと出現した。

 超一流の絵師に発注したおかげで、サキュバスは超絶カワイイ容姿に仕上がっている。


 以降、アプリの無機質な声に代わり、ちょっと頭の悪そうなサキュバスがアニメ声でシステムの説明などをしてくれる。


 サキュバスがスク水をギュウっと引っ張り、女子の大事な部分が顔を出しそうなほど、超ハイレグにしている。


 利用者へのサービスの一環として、システムに組み込んだ機能だ。

 うまく動作しているらしい。


「こんちぁ! パブロン、いえ、便座ブロック様。いますぐ入金しろ! カネを出せ!」


 オマエは強盗ですか?


 2本の指を目元にあてる“チョッパリ・ピース”をしたサキュバスが、酔っ払いをこじらせたような笑みで課金を促してくる。


 見てくれはいいが、やはりオツムは残念系だった。


「おい、サキュブス。口からハミ出したその八重歯にトウモロコシの粒をかぶせるぞ。爪楊枝は貸してやらんから覚悟しておけ」


 5万円というリーズナブルな料金を払えば、サキュバスを全裸にできる。

 システムを正式リリースする際、18歳以上の利用者から脱衣料を徴収しようと思っている。


 対邪神システム(ダイダロス)のテスト中だ。

 そもそも、俺はシステムの創造主。

 金はあるが、払う気は毛頭ない。


 カネは出さないと返答した途端、サキュバスが服を重ね着した。


「厚着のサキュバスなど、ただのバスだ。露出狂と書いてサキュバスと読むくらいだ。すべて脱げ!」

「デブロフさまが五万ウォン出したら全部ぬぐぞっ! バク天ポイントが大量につくぞっ。いまなら、なんと7000ポイント! 入金しねぇと、ハスター(ハムの人)の愛車を吹き飛ばすぞっ!」


 ふくれ面のサキュバスが、催促と脅迫のコンボを繰り出してくる。

 ハスターの首ねっこを掴み、縦横無尽に大きく揺らしている。


 サキュバスは勝手に通貨単位をウォンに変更したようだ。

 日本円にすると、およそ5千円。

 サキュバカなのか、サキュバグなのか判断に困る。


「だれがハムの人だ。吾輩の名はハスターだ!」


 買ったばかりのギョウザを振り回しながらハスターが喚いている。

 頼むからジューシーな肉汁を飛ばさないでくれ……。


 サキュバス改め、ギョウザの汁を浴びたサキュバグが、俺の背後で“ニンニク、ニキニキ”とか、天竺に行けそうな歌をうたっている。

 いいから、オマエは黙れ!


「路駐しているヤツが悪い。世の中に迷惑をかけるハムサンドとかいう旧支配者なんて死ねばいいのに」

「クソ勇者。ハムをサンドするんじゃねえ! 吾輩の名はハスターだ!」

「うるさいぞ、ハムスターサンド。サキュバグが何か言いたそうだ。傾聴しろ。死ね。サキュバグも死ね」

「に、二次元の私に文句を言っても仕方にゃーで! ほんだら、ご主人様(クソニート)の爆発寸前のタマを全力で爆破すっかんね!」


 方言まじりで必死に抗議をしてくるサキュバグ。

 ヘリコプターの回転翼がごとく、長めのツインテールをブリンブリンと振り回す。

 頭をシェイクしすぎたのか、金髪ドリルに変わってしまった。


「俺のタマはすでに爆発している。魔術師と一緒に、マニア向けの店で何かをヌイてきた。そうだ、赤ちゃんプレイについて聞きたいでちゅか?」

「も、もういいですぅ……」


 競馬で負けたサル顔のオジサンのように、サキュバグが肩を落とす。

 情緒不安定っぽいサキュバグを放置して、俺は設定をすすめた。


「参加者は1名。バトルはターン制。時間無制限1本勝負」

「ほほう。そうきましたかぁ。顔はいいくせに、ドクズなデブロフ様にお仕置きすっぞ!」


 サキュバグの表情から明るさが消え、悪だくみをするような形相へと変化する。

 すぐさま、スマホから煙と変な汁が出てきた。

 こんな機能をシステムに実装した記憶はない。

 アプリをリセットし、初めから設定をやりなおした。


「利用人数1名。姫と俺が交互に攻めるターン制バトル。60分コースで!」


 コマンドを音声で入力する。

 風俗店の受付のやり取りみたいだが、どんな言い回しでもアプリが認識すればいいのだ。


 魔術師と焼肉パーリーの途中だ。さっさとバトルを始めますか。


「設定モード終了。バトルスタート」


『バトル用のフィールドを指定してください』


 アプリが言ってきたが、こんな機能を組み込んだっけか。

 そういえば、異世界の雰囲気を現世でも味わえるように開発した気がする。

 一応、テストをしておくか。


「居酒屋風の謁見の間で頼む」


『はい。よろこんでぇ~い!』


 それっぽい返答がきたな……。

 ときを置かずに、謁見の間っぽい空間が現れた。


 狭い。狭すぎる。バグったアプリが、4畳の部屋を再現したらしい。


 畳みの敷かれた謁見の間ってなんだよ! 茶室かっ!


 だめだ、キャンセルが効かない。

 手遅れか……。


 すぐさま、ドーム状のバリアが張られた。バトル当事者以外に危険が及ばないようにするためだ。


 バトルが終わるまで、この場から脱出できない仕様になっていると記憶している。

 速攻でアプリのバグを直そうとした時だ。


 はずしたサングラスをハスターが投げ捨てる。

 ものすごくつぶらな瞳で、めっちゃ睨んできた。


 『ちっちゃい目でメッチャ睨んだ! クスクス……。クズボール(クズのニート。つまり、俺)のHPが少し減りました!』


 “まるもじ”というのだろうか。変態少女文字(変な字体)で書かれたテキストが上空に表示された。 

 見ればわかるし、ダメージ量が抽象的すぎる。


 ハスターの攻撃は、あれで終わりらしい。


 なにこれ。バグってんじゃねえか!


 この先、ハスターとの勝負というより、バグとの闘いになりそうだ。


 俺が後攻めだったらしい。

 頭を抱えて考え事をしていると、防御とみなされて俺のターンが終了した。


「おい、ジャンガリアン・ハムスター。アンタのターンだぞ」


 ぼんやりしているハスターに声をかけてみる。

 スイカのタネのような目を輝かせ、ハスターがその場で回転ターンしてターン終了。

 違う。うまいけど何か違う。


「神様きどりのご主人(クソニート)様! 入金なさいますかぁ?」


 サキュバグが出張ってくる。

 戦闘中にでてくるなよ。前が見えん。


 動画視聴中に表示される細長い広告バナーなみにウザイ。


「うるせえよ、ブス! 出現場所を考えろ!」

「せめてサキュブスって言ってくれだぞ。省略しすぎだぞ、このゴミ虫が! 働けコノヤロウ!」

「わかったよ。サキュバグスでいいか?」


 文句を飛ばしてくるサキュバグの脚を掴み、俺は剣の代わりに装備した。

 聖剣サキュバグで餃子を試し切りしたところで、俺のターンが終わってしまった。攻撃とみなされたようだ。


「おい、デブロフ。サキュバスの使いかたを間違ってないか?」


 1歩踏み出したハスターが、自身の四角いサングラスを踏みつぶした。

 バキバキに壊れたサングラスを見たハスターが、その場に倒れ込む。


 バトルは呆気ない幕切れを迎えた。


 ハスターの弱点はサングラスだったらしい。

 というか、現世では弱体化するようだ。


「我が同胞を探しているのだろう? 敵の敵は味方。貴様にいいものをやろう」


 つぶらな瞳のハスターが「笑うんじゃねえ!」と言いながら、四つん這い状態でメモを渡してきた。 

 ダンジョンまでの地図だ。


 ハスターは明言しなかったが、旧支配者の居所を示したものだろう。


 『テストバトル終了』という文字列が上空に浮かぶ。

 バトルモードが解除され、ドーム状のバリアが消失した。


「おい、ハス太郎。とっとこ呪いを解け!」

「痛風の呪いを解いたからな! そうだ。ひとつ言っておく。貴様はあと“8万6千800秒”で死ぬぞ。ざまぁ! ばーか! 頭ばーか!」


 すて台詞を残し、ハスターが姿を消した。


 俺は痛風の呪いから解放されたらしい。もとから痛みを感じないため、解呪されたのか判断できないが、ヤツの言葉を信じよう。


 そんなことはどうでもいい。


 ハスターは“秒”で言い放ったが、俺の余命は24時間ということだ。


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