関ヶ原夜襲作戦
日が沈むと同時に行動を開始する。
夜襲には島津、立花、に加え石田軍から島隊が、宇喜多軍から明石隊が加わった。
惟新さんが立てた作戦は少数精鋭で一気に家康の喉元に迫り家康の首だけを獲るというものだった。
闇に紛れて夜襲部隊が徳川家康の本陣に近づいていく。
「琴子…これどうなるの?」
「わからない。史実では夜襲は却下されて実現しなかった…確実に歴史は変わっている…」
俺の質問に琴子はさらっと答える。
その後いつまで経っても攻撃が開始されない。
「何かあったのかな?」
俺が呟くと琴子は隣で首を捻っている。
もう暫くすると夜襲部隊が帰って来る。
皆無傷だ。
「どうしたんですか?」
先頭で戻ってきた島津さんと惟新さんに聞く。
「ダメでごわした。敵伏兵の匂いがぷんぷんして。あれは相当数の兵を伏せてありもしたな」
島津さんが手を振りながら答える。
「豊久のおかげで命拾いしたわい。父親譲りの勘の良さよ」
惟新さんは大笑いしている。
「おかしい…あの場所にあの数の伏兵など…こちらの情報が漏れているとしか思えん」
左近さんが馬から降りて悔しそうに呟く。
「夜襲は実現せず…もしかして歴史の修正力…?いや、そういうレベルじゃないか…」
琴子は手を顎に当てて考え込む。
「左近さん。夜襲の情報が漏れたとしたら…」
俺が呟くと左近さんは目だけで頷く。
稲葉と平岡が家康に情報を流したのだろう。
夜襲は失敗したがこれであの2人と家康の繋がりがはっきりした。
「しかし、これで敵は休める時が少なからず減ったのだ。明日は士気で勝ることができるぞ」
三成さんが夜襲から戻った将兵をそう言って迎える。
隣で大谷さんが頷いている。
島津さんたちも笑顔だ。確かに士気はあがっている。
明日の戦に備えて皆休む。
俺も割り当てられた寝床で横になる。
いよいよ明日は本戦だ。
歴史は変わるのか?それとも変わらないのか。
変わらなければ俺も琴子も、ひかるさんも…いや、俺達に良くしてくれた皆の人生が一変する。
俺は俺に出来ることを精一杯やるだけだ。プレッシャーは感じるけれど、やりきらなければならない。
…怖い。身体が自然と震えてくる。それは決して寒さのせいだけではなかった。
そのとき温かい身体が俺に優しく覆いかぶさってくる。
目を開けると目の前に琴子の顔があった。
「琴子?」
俺が声をかけると琴子は人差し指を口に当てて俺の目をじっと見つめてくる。
俺はそれを見てそれ以上の言葉を飲む。
琴子は俺の首に腕を回し頬を俺の頬に当てる。
俺は目を閉じて琴子の体温を感じる。
いつしか身体の震えは収まっていた。
「治部が夜襲か…意外だな」
「島津辺りの入れ知恵かと」
「それにしてもだ。治部が他人の意見に耳を貸すとはな」
「御意」
「これは明日、心してかからねばならんか。上杉の手当てはどうだ?」
「秀康様が抑えられるかと。伊達にも上杉を牽制するように命じてあります」
「伊達が言う事を聞くか?」
「伊達からは姫を貰い受けておりますれば…」
「ふむ…さすがの独眼竜も娘は可愛いか」
「東は問題ありません。問題は小早川…」
「そうだの。大坂で変に目立ったが問題はないか?」
「稲葉と平岡は完全に殿に臣従を誓っております。小娘一人では何もできますまい」
「小早川が寝返ればこの戦場は終わりだ。大坂入りした後のこと、抜かりないな?」
「はっ。治部を抜けばあとの大坂方は腑抜け揃い。こちらが何もしなくても擦り寄って参りますわ」
「佐渡よ、油断はするなよ」
「御意」
「半蔵はどうした?」
「念の為上杉の動向を探らせております」
「わかった。何かあればすぐ知らせろ」
「御意」
「儂は少し眠る。夜明け前に起こせ」
「御意」
第4部 完




