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直江さんと景勝さん

 会津までの道は平穏だった。どの国も今は戦をする状況になく順調に行程を消化していった。


 俺個人としては、初めはあんなにきつかった峠道も最後の方はひょいひょいと登っていけるようになった。


…荷物をすずに持ってもらっていたのは誰にも内緒だ。


「この峠を越えたら会津だ」

 左近さんはこちらを振り返ると少し嬉しそうに笑った。


「お待ちしておりました。島左近様。ここからは私がご案内いたします」

 いつの間にか道の先に紫色の着物を着た女性が立っている。上杉の透破と呼ばれた女性だ。


…相変わらず美女だ…つい見惚れちゃう…


「…お兄ちゃん…」

 すずがジト目で俺を見ている。


「うふふ。光栄ですわ…太助様…」

 透破の女性がこちらを妖艶な目で見ている。


…あちゃ…また声に出しちゃったか…。


…てかこのひと俺の名前知ってるの?






「ふむ…なるほど。話はわかりました」

 姿勢よく座る整った顔の男は直江山城守と名乗った。左近さんが事情を話すと案外すんなりと内容を受けいれ、俺の出る幕はなかった。


「と、いうことです。景勝様…いかがでしょうか?」

 直江さんは首を上座に向ける。

 俺と左近さんは下座に。直江さんはその左側、上座には髭面のおじさんが難しい顔で座っていた。


「あんの狸親父がぁ!顔思い浮かべただけで腹が立つ!」

…なんか怒り狂ってる…。このおじさんが上杉景勝か。


「そもそも石田治部が下手を打つからあの親父に好きなようにやられてるんだろうが!島殿!なんとかせよ!」

 景勝さんは左近さんに絡み始める。


「なんとかするためにこうしてわざわざ会津までいらしてくれたのです。落ち着いてお話をしましょう」

 直江さんが冷静にたしなめると上杉さんは1つ深く息を吐く。


「そもそも…この話、本当なのか?先の出来事がわかるなぞ尋常じんじょうなことではないぞ…」

 上杉さんは身を乗り出して左近さんに問いかける。


「尋常なことではありません。が、我々を担ぐために石田様の御家老ごかろうが単身会津まで来るとは考えにくい。信じる価値はあります」

 直江さんは俺の目をじっと見ている。


「これが本当であれは上杉は馬鹿ではないか…狸親父の背中がガラ空きなのに最上を攻めるとな?」

 上杉さんはまだ左近さんの話を信じていないようだ。

…まぁ、普通そうだよな。


「あり得る話です。最上領は我々の宿願。大乱に乗じてそこを奪取したいと考えても不自然ではありません。また、石田様と家康の合戦がまさか1日だけの短期決戦になるとは誰も考えなかったはず。戦が長引けば我々は後顧こうこうれいを断った上で全力で家康の背後を突いていたはず…と、都合の良い方に良い方に考えた結果が最上攻め。そして西軍が敗戦して我々も撤退というお粗末さ」

 直江さんが表情を変えずに言うと上杉さんは苦い顔をして直江さんから顔を背ける。


「それで…左近殿のお話を聞く限りだと確かにその未来では我々と石田様は連携が取れてないと考えるのが自然ですな」

 直江さんは左近さんを真っ直ぐ見て頷く。


「はい。連携を取れなかったのか、取ろうとしたが互いの目的の違いのため諦めたのか…はわかりませんが…」

 左近さんが頷くと直江さんも頷く。


「うん。どうも戦の流れを聞くに皆が皆行き当たりばったりで行動しているように感じますね。流れを予想していたのは家康のみかと」

 直江さんの言葉に上杉さんがピクリと反応する。


「あんな狸親父に見透かされていたというのか!?この武の名門上杉が!」


…また怒り狂ってる。上杉さん血の気荒すぎ。


「景勝様、少し静かにして頂けますか?」

 直江さんが上杉さんを手で制する。上杉さんはその手に圧されて黙り込む。


…あれ?直江さんが家臣だよな?

 

「我々上杉含めて国許に残った大名たちは、この大乱がきっかけで再び戦国乱世が始まると夢見たのでしょうな…」

 直江さんは何かを恥じるように俯いた。


「それを望むのは我々の性質…いや宿命と言ってもいいかもしれません」

 何故か左近さんも同じような表情で俯く。


「恥じることも悔やむこともない!家康を討ち取れば良いのだ!正直豊臣にも石田殿にも恩も何もないが、あの狸親父がデカい顔してのさばるのだけはどうにも許せん!」

 静かになった部屋に上杉さんのだみ声が響き渡る。


 直江さんも左近さんも呆気に取られて上杉さんの顔を見ている。もちろん俺もだ。


「何だ?」

 上杉さんが怪訝な表情で直江さんを見返す。


「あっはっはっはっ!」

 直江さんは呆気に取られた表情から急に大声を上げて笑い出す。

「それでこそ上杉景勝!我が主!やりましょうぞ!」

 笑いをおさめると上杉さんに向かって力強く頷いた。


「やりましょうっていうか…やってね?いつも通り戦の前のことはお前に任せるから、よろしくな!」

 上杉さんは急に直江さんに丸投げする。直江さんは嬉しそうに頷いた。


「島殿。後はこいつとよろしくやってくれ!こいつが決めた事は俺の決めた事だ!石田殿にもよろしく伝えてくれ!」


「はっ!」

 左近さんが平伏すると上杉さんは席を立って部屋を出ていった。


「上杉様から全幅の信頼を置かれていますな?直江殿」

「それは左近殿も同じでござろう?」

2人は笑い合うと表情を引き締める。


「年が明けるまでに最上と伊達をどうにかしなければなりませんな」

 左近さんが言うと直江さんも頷く。


「ただ、最上も伊達も家康に近しい…不用意に調略ちょうりゃくを仕掛けるのは危険です」


「ですな…とはいえ、後ろをどうにかしなければ上杉様は身動きが取れない…」


 左近さんも直江さんも考え込んでいる。



「あのぉ…最上さんと伊達さんのところは仲良しなんですか?」

 俺は手を挙げて左近さんに問いかける。左近さんは俺を見た後直江さんの方を見る。


「仲良しとは言えんだろうな…両家は戦を繰り返している」

 直江さんが教えてくれる。


「なら…両方味方につけようだなんて欲張らないで、片方味方に付ければもう片方の動きを抑えられるんじゃないですか?」


「うむ…しかし先ほども言ったが伊達も最上も親家康だ…こちらの動きが家康に筒抜けになる恐れがある…」

 直江さんは俺の意見に浮かない表情で返事をする。


…そっか。また知ったかぶった。恥ずかしい。


「いや、確かに両方仲間に入れる必要は無いかもしれん。」

 左近さんが声を上げる。


 俺と直江さんは左近さんを見る。


「伊達と最上をぶつければ良い」

 左近さんが言うと直江さんが頷く。

「なるほど!その間にこちらは家康の背後を突く…か。悪くはない。…が、やはり家康が伊達と最上に我々を牽制するよう命令する可能性がある」


…結局振り出しに戻った。


「直江殿、この件については一度持ち帰り検討させてくれませんか?」

 左近さんが切り出す。


「わかりました。こちらでも考えてみます。今日は石田様との連携が確認できただけで十分です」

 直江さんは笑顔で頷く。


「今後の連絡は…」

 直江さんが言葉を切って『パンパン』と手を叩くと直江さんの背後に透破の女性が現れる。

「この紫乃を通していたしましょう」


「紫乃と申します。今後ともお見知り置きを」

 紫乃さんは妖しく笑うと頭を下げる。

…気のせいかな?俺のことばっかり見ている気がする。


「私の屋敷に部屋を用意致しますので、今日はこちらで休んでいかれてはいかがですか?」

 直江さんがニコニコと提案してくれる。


「かたじけない。お言葉に甘えさせて頂く」

 左近さんは素直に頭を下げる。






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