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出会い!結婚?玉の輿!?

「こちらです」

 米原駅に降り立った俺にひかるさんは手のひらで方向を指し示す。


 言われた方向に歩き出す。

 ロータリーを越えて少し歩くと高い建物はなくなり住宅地が広がる。


 閑静な住宅街を2人で歩く。平日の昼間だからか、すれ違う人もいない。


「結構歩くんですね…」

 俺は少し後ろを歩くひかるさんを振り返る。


「はい。少し遠いところなので…」

 ひかるさんは申し訳無さそうな顔をする。


「あ!全然大丈夫ですよ!」

 俺は慌てて笑顔を作るとまた前を向いて歩き出す。


…タクシーにでも乗ればいいのに…と思うが表情には出さないようにする。


「あ…こちらです」

 危うく通り過ぎてしまいそうな細い路地でひかるさんが声をあげる。


 俺は言われた通り路地に入る。

建物と建物に挟まれた路地は昼だというのに薄暗い。

…そろそろ着くのかな?


 路地を突き当たると岩肌剥き出しの壁が目の前に現れた。

…行き止まり?


 ひかるさんはその岩肌に生える草木の陰に迷いなく歩き出す。

俺は慌ててそれを追う。


「トンネル…?」


 そこには人1人がやっと通れるようなトンネルがあった。トンネルというか洞窟と言った方がわかりやすいかもしれない。


「こちらです…」

 ここからはひかるさんが先導してくれる。


 俺はスマホのライトで2人の足下を照らす。トンネルの中はひんやりとしていて土と草が混じり合ったような独特の匂いがする。嫌いな匂いじゃない。

 

 スマホのライトが照らす地面には時折大きな岩があったりはするが概ね平らで歩きやすい。


…それにしても…こんな道を選ばなくても…きっと山を突っ切る近道なんだろうけど、多少遠回りでも普通の道がよかったなぁ…。


…って、危ない。俺は思ったことをすぐ口にする悪い癖がある。しかしひかるさんの前ではそれをやらないように殊更気をつけていた。


「あ…あれ?」

 俺は声をあげる。

 スマホのライトが突然消えたのだ。まだバッテリーは大分残っているはずなのにおかしい。


 辺りは完全に暗闇になった。


 俺は電源ボタンを押し直そうとスマホを持ち替える。するとスマホは俺の手をすり抜け地面に落ちた。


 カツーンという音が洞窟内に響き渡る。


…最悪だ…こんなところでスマホを落とすなんて…


「私は夜目が利きます。問題ありません…」

 ひかるさんの声が近付くと俺の手が暗闇の中から現れた真っ白な手に握られる。 


 俺は暗闇に消えていったスマホを諦めひかるさんのひんやりとした手に導かれて先へ進む。


 女性と手を繋ぐなんて中学生の時に林間学校でフォークダンスをして以来だ。しかもその時の女の子の嫌がる素振りを思い出すと今でも『うわぁ~』と声を上げたくなる。


 とにかく俺は暗闇の恐怖もスマホを落としたショックも忘れてひかるさんの柔らかい手の感触にドキドキしていた。

 

 手汗に気付かれたら嫌だなと思い始めた頃向かい側に光が見えた。


 どんどん光が近付いてきて足下もはっきり見えるようになるとひかるさんは繋いでいた手を離す。


 俺は少しがっかりしながらもほっとしていた。無事にトンネルを抜けられたことと、手汗がバレなかったことに。


 トンネルを抜けると変わらぬ青空が広がっていた。


 遠くにお城が見える。


 おー!あれがかの有名な…


「彦根城ですね!」

 

 俺が大声で言うとひかるさんは気の毒そうに首を左右に振る。


 え…違うの?


「あれは佐和山のお城です…」

 

 ひかるさんが俺の知ったかぶりを訂正してくれる。…けど。


「えっ!?でも佐和山城ってもう無いんじゃないんですか?この辺りで現存する天守って彦根城だけですよね?」

 

 つい負けず嫌いの血が騒ぐ。


 ひかるさんは少し悲しそうな顔をしてから曖昧な顔で笑うと何も言わずに歩き出す。


 …やっちまった…知ったかぶりと負けず嫌いのダブルコンボ。ひかるさん怒ったかなぁ…。でも佐和山城ってことはないよな。佐和山城は関ヶ原の後取り壊されたはずだもん…。いやいや!今はそんなことはどうでもいい。ひかるさんの機嫌を直してもらわないと!


 俺はひかるさんの後を歩きながら何か話のネタになるものは無いかとキョロキョロと辺りを見渡す。


 先ほどまでの住宅街とは異なり田園風景が広がる。といってもこの時期なので田んぼは乾いた土だけがあり、畑も少しの作物があるだけだった。


 掘立小屋がいくつかある。道はアスファルト舗装されておらず、道の脇には用水路がある。まさに日本の原風景といったところだ。


「静かなところですね」


 俺はひかるさんのご機嫌を伺うように声をかける。


「はい。夏には蛍がたくさん見れますよ」

 

 ひかるさんは振り返って笑う。


…よかった。機嫌は悪くないみたいだ。


 向かいから子供たちが走ってくるのが見える。

ん?んん?近付いてくる子供たちの服装に違和感を覚える。皆時代劇で見るような服装をしているのだ。


 木の枝を持った男の子がびっくりした顔でこちらを見る。


「あれ!?ひかる様!ひかる様だ!」


 鼻水を垂らした男の子は指をさしている。


「本当だ!ひかる様!」


 女の子がひかるさんの白いワンピースの裾を握ってしげしげと見る。ひかるさんは今日も白いワンピースに桜色のカーディガンだ。


「わぁ…何この綺麗なお着物…」


「皆様…お久しぶりです。お元気でしたか?」

 

 ひかるさんはしゃがんで子供たちに目線を合わせると笑顔で挨拶をする。


 子供たちは頷き口々にあれこれとひかるさんに話しかける。同時に喋るので何を言ってるかはよくわからない。

 

 ひかるさんは1人1人に目を合わせ頷いている。子供たちはやっと満足したのかひかるさんと、ついでに俺にも手を振ると走り去っていった。


「今日は何かの撮影でもあるんですか?」


 俺が聞くとひかるさんはまた曖昧に笑って少し首を傾げると再び歩きだした。


 俺は何だかモヤモヤした気持ちでその後を追う。


 しばらく歩くと大きな屋敷の門の前でひかるさんが立ち止まる。


「お疲れ様でした。こちらです」


 ひかるさんは感慨深げに門を見上げる。


 立派な門構えだ。門から中を覗き込んでも母屋は遠くに見える。どれだけの庭の広さか…。もしかしてひかるさんってめちゃくちゃお嬢様?

 

 確かに言われてみたら礼儀正しいし、所作も言葉遣いも丁寧。新幹線代ぱっと出せるくらいお金もあるみたいだし…。


…あれ?これ俺逆玉のっちゃいました?


「ひ!ひかる様!?」


 門から1人の老人が飛び出してくる。白髪頭を1つに束ね作務衣を着ている。陶芸家のような出で立ちだ。


「本当に…ひかる様じゃ…」


 老人は信じられないと言った表情でひかるさんを見ている。


「じい…心配をかけました」


 ひかるさんは老人に頭を下げる。


「そんな…そんな…ご無事で…ご無事で何よりでした!…あ。さぁさぁこちらへ!お父上もいらっしゃいます!さぁ!」


 老人は慌ててひかるさんを門内に誘う。俺もそれに続く。


「ひかる様…それは伴ですか?伴のものは門の脇で待たせておかれたがよろしいのでは?」


 老人は俺を睨みつける。俺はその迫力に怯んで動けなくなる。


「じい。この人は私のつまになる方です。父にご挨拶に参りました」


 ひかるは苦笑して老人に説明する。


「つ…つまですと!?この男がひかる様の夫になるのですか?な…何故…」


 老人は気の毒になるほど狼狽してひかるさんと俺を何度も見比べる。

 

 「じいったら。夫になるのに何故もどうしてもありませんよ」


 ひかるさんは上品に笑うと老人を置いて先に進む。


 取り残される老人と、動けなくなった俺。老人は俺を睨みつけると溜息を吐きひかるさんの後を追っう。俺も2人の後を追った。


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