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関ヶ原までの道順

「関ヶ原…美濃みのの関ヶ原か…随分と喉元のどもとまで迫られたものだ。いや、誘い込んだのか?」


 三成さんは顎に手を当ててブツブツと呟く。


「まぁいい。それで?何故戦になったか順を追って話してくれ」


 狭い部屋に大人が4人と熊が1頭いるものだから部屋の中は蒸し風呂のようだ。それなのに三成さんだけは涼しい顔をしている。


「順…」


…まずい。順を追って話すも何も付け焼き刃の俺の知識ではきちんと説明できない。何で徳川が上杉討伐することになったんだ??


「すべての始まりは太閤たいこう秀吉様が亡くなったことです」


 突然隣の琴子が口を開く。


「太閤秀吉様は幼い秀頼ひでより様を遺し他界たかい。後の政務せいむを5人の大老たいろうに任せましたね?」


 琴子が三成さんに確認する。


「あぁ。当初は徳川、宇喜多うきた殿、毛利もうり殿、前田まえだ殿、小早川こばやかわ殿が大老職にあったが小早川殿が身罷みまかられてからは代わりに上杉殿が」


 三成さんの答えに琴子は頷いて続ける。


「その5人の大老は相互監視そうごかんしの役割もになっていましたが徳川家康はそれにかまわず好き勝手を始めた。しかし大領たいりょうゆうする徳川家康に物申ものもうせる大老は太閤殿下と古くから付き合いのある前田様しかいなかった。徳川家康も前田様に対しては強く出られずあやういながらも五大老の制度は均衡きんこうたもっていた。しかし、前田様が身罷られた。それによって徳川家康はあからさまに行動を開始したはずです」


 三成さんは悔しそうに頷く。


「そして細かい経緯けいいは省きますが、石田様は隠居いんきょいられ、今こうして大坂の政局せいきょくからは身を引いている…おそらくこれが今までの状況かと…間違いありませんか?」


 琴子は三成さんと熊男を交互に見る。


「うむ…おおむね間違いはない…」


 三成さんと熊男は肩を落とす。


…琴子…すごいな。


「では、ここからはこれから起こる事です。よろしいですか?」


 琴子は三成さんに確認を取る。


「いや…待て。少し暑い。皆も疲れただろう。一旦休憩を入れて…そうだな夕刻、涼しくなってからまた話を聞かせて貰おう。そなたたちは一旦下がれ。…左近残ってくれるか?」


 確かに三成さん以外は汗をかいている。ひかるさんは前髪がオデコに張り付いているし、琴子なんて作務衣の色が変わる程だ。


 俺達は一礼すると部屋を出る。


「涼しい〜!!」

 外に出た途端琴子が大声を上げる。


…さっきまでの琴子の雰囲気とは大違いだな。


 庭には風が渡り汗ばんだ身体を冷やしていく。


「川へ行こう!」

 と琴子が手をげて提案する。


…どうせ喜作爺さんに仕事をやらされるのが嫌なだけだろう…けど、悪くない。


「川!行こう!」

 俺も手を挙げて賛成する。


「はいっ!」

 ひかるさんも笑顔で手を挙げた



「ひゃほーっ☆」


 川に着いた途端琴子は服を着たまま川に飛び込む。まったく女子高生は元気だな。


「太助様…ありがとうございました」

 

 ひかるさんと俺は木陰に腰を降ろし琴子が水遊びしているのを見守る。


「何も!俺は全然役立たずでした。ひかるさんと琴子のお陰です。三成さんに信じてもらえて良かったですね」


 謙遜けんそんでも何でもなく俺は言う。

…実際ほとんど説明してくれたのはひかるさんと琴子だ。


「琴子〜!お前大したもんだな!よくあんなに細かく知ってたな〜」


 水遊びをしている琴子に声をかける。


「え〜?なんて〜?」


 琴子は何故なぜか川底の石をひっくり返そうと前屈まえかがみになっていた。その体勢のまま俺達の方に顔だけ向けたものだから、作務衣の胸元むなもとから薄い胸が覗き…その先端にある…。


「ばっ!バカ!胸元!胸元!」

 俺は慌てて目を手で押さえて大声をあげる。


「えっ?…えっ!?きゃあ…」

 琴子は顔を真っ赤にして身体を起こす。


…まったく…下着も着けてないのか…。まぁあの胸の大きさじゃ必要ないか…。


『ガツン』

 突然頭部に激痛が走る。

「痛っ!」

 思わず悲鳴をあげる。


 油断のできない時代だ。何が起きたのか周りを伺う。


 ひかるさんが少し怒ったような、憐れむような、不思議な表情でこちらを見ている。


「サイッテー!」

 琴子が投球フォームのフィニッシュの体勢で睨みつけてくる。どうやら激痛の正体は琴子が投げた小石か何かのようだ。


…あれ?もしかして…


「俺、言葉に出してました?」

 恐る恐るひかるさんに確認するとひかるさんは表情を変えずにゆっくりと頷いた。


…やっちまった。思ったことすぐ口に出しちゃうんだよな。


「ごめん!琴子!ごめんなさい!」

 俺はとにかく謝る。


「うるさい!もう喋るな!本当に…最低…」

 琴子は怒り、そして涙ぐんでいる。


…いっそ怒ってくれ。泣かれるのが一番困る…。


「今のは太助様が悪いです。というわけで、太助様はこれから何でも一つ琴子さんの言うことを聞かなければなりません。よろしいですね?」

 ひかるさんは有無を言わせない雰囲気で言う。


「はい!琴子様…何でも言うこと聞きます!」

 俺はコクコクと頷きながら叫ぶ。


「本当?」

 琴子はジトっとした目で見返してくる。


「はい!それはもう!何でも!」

 俺はみ手をせんばかりの勢いで頷く。


「それってストックできる?」


…ストック…。今は願い事を使わず取っておくってことか。鬱陶うっとおしい。…けど。


「はい!そりゃあもう!もちろんでございますよ!琴子様のよろしいタイミングでご利用ください!」

…俺に拒否権はない。


「なら…わかった。とりあえず許す」

 琴子は怒りのオーラを纏わせながら頷く。


「さぁ!では仲直りです」

 ひかるさんは満足げに手をパンッと叩いて笑った。その笑顔はとても綺麗で、とっても可愛かった。


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