第43小節目 ♫ 研究室にて
研究室といっても、理系の実験室のように器具が並んでいるわけではない。
ここは教授が自身の楽譜や資料を整理し、担当生徒たちの質問に答えるための場所。
いわば、エリーゼの静かな書斎だった。
部屋に足を踏み入れてまず目に入るのは、深い飴色の木でできた屋根のグランドピアノ。
磨かれた表面は木製であるのにも関わらず、ステンドグラス
の窓の光を鈍く反射していた。
壁一面は本棚になっている。分厚い音楽理論書や楽譜集がぎっしりと並び、最上段は天井までも届き、端に立てかけてある梯子を使わなければ届かないほどだ。ユーリはそっと息を呑む。
「お掛けなさい。」
エリーゼはピアノの椅子に腰掛けた。そして二人を手前のアンティークの長ソファに座るよう促した。
クロウリーはどこか落ち着かない様子で椅子に腰かけ、ユーリも少し戸惑いながらその隣に座った。
そしてまた少しの間があり、彼女は二人を鋭く見つめる。
「それで……学生時代、私の顔を見るなり怯えて逃げていた貴方が一体どんな用なのかしら?」
エリーゼの問いは、クロウリーの図星をまっすぐに突いていた。
彼女を怖がっていたのは紛れもない事実だったのでクロウリーは苦笑を浮かべ、気まずそうにしながらも話し始めた。
「……実は、先生に助けていただきたいことがあるんです。」
「助けてほしいこと…?」
エリーゼの眉が上がる。
「はい、それは…。」
クロウリーが切り出そうとしたその時、エリーゼの視線を自身の手元へと移った。そして何かを探すように指先を動かす。
「……無い。無い……!」
小さく呟く声。
ユーリが彼女の様子に気付き、すぐさま声をかける。
「どうされました?」
「無いのよ…。
私の指揮棒が…!!」
つづく




