第9小節目 ♫ 紅玉の瞳
どれほどの時間が経ったのか。
クロウリーは窓から差し込む朝の光によって目を覚ました。
彼は見知らぬベッドに寝かされていたのだ。
「ここは…。」
体には包帯が巻かれており、赤土色の粘土の感触もすっかり消えていた。
そして不思議なことに、満身創痍であったはずの体は驚くほどに軽かった。
あたりを見渡すと、傍らには一人の少女がいた。
歳の頃は十代半ばだろうか。二つに結われたくせの無い髪は、オカリナ国民特有の赤土色。その中でも特に赤みが強く、外の陽の光に照らされている部分はまるで燃えるような鮮やかさだった。
その色彩にクロウリーは一瞬目を奪われる。
さらに彼女の顔立ち___白く陶器のような肌に、小さな口と鼻。薄く開きが良い一重瞼に縁取られた大きな瞳。そしてどこか丸みを帯びたその輪郭___。
いかにも『オカリナ顔』だと称されそうなそれは、優しげでありながら、どこか芯の強さを感じされた。
「気がついたんですね。よかった。」
少女が口を開く。
クロウリーは目の前の少女に見覚えはなかった。
しかし、その穏やかな声と控えめに微笑むその表情に、なぜか安心感を覚えた。
彼はしばらく言葉を探していたが、ふと自分の枕元に置かれていた物に気づく。
それは、ミケルのソプラニーノオカリナであった。
クロウリーはそれを無言で手に取った。
そしてその瞬間、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
「それ、あなたが抱きしめていたんですよ。」
少女が静かに告げる。
「気を失っていたけれど、しっかりそのオカリナを持っていたんです。
だからきっと大事なものなんだと思って。」
クロウリーがあれだけ土にまみれていたというのに、オカリナは汚れひとつ付いていなかった。そして今も変わらずにその輝きを放っていた。
「ありがとう…。」
クロウリーは彼女の言葉を聞きながら、震える手でオカリナを握りしめた。
「……ユーリ。
私の名前。
この森で暮らしています。」
ルビーのような美しい紅色の瞳は、真っ直ぐにクロウリーへと向けられた。
二人の出会いが、この国を変えることになるとは、まだ誰も知らなかった____。
つづく




