獰猛な獣人
「ミラーフェアは優しいね」
「そんな事言われたらより一層、差し出す気が失せたわ」
「それに守ってあげるって、言ったでしょ」
カルラがミラーフェアの頭を撫でると、セルアル達が笑顔で
任せろと言わんばかりに、拳を握り締めてカルラと共に
ロビーへ向かったのだった。
そして、カルラとセルアル達が協会のロビーに出ると
騎士団長が、ロビーのほぼ中央で椅子に深々と座り
その背後には数名の騎士が、ズラリと横一列に並んでいた。
「待たせたわね」
「騎士団長が自ら、冒険者協会に一体何の用かしら?」
「取り巻きまで、引き連れて」
「こ、これはカルラさん、先日の会議はお疲れ様でした」
「実は冒険者協会で、獣人を保護していると耳にしましてね」
「引き取りに来たのですよ」
「引き取りに来た?」「それはどう言う事かしら?」
「獣人は人の何倍も力が強く、獰猛で人肉を好み食する
非常に危険な種族だと耳にしたので、王都の住民に被害が及ぶ前に
対処する必要があると思いましてね」
すると驚いた顔したカルラが少し間を置いて、突然大声で笑い出した。
「な、何がそんなにおかしいんだ!」
「この私を愚弄するか!」
立ち上がった団長の顔は紅潮して
全身が、怒りで小刻みに震えていた。
「悪かったね」「そんなつもりはなかった」
「まぁ確かに保護はしているが、獰猛で人肉を好む
その獣人が居るのに、私達は誰も傷一つ負ってない」
「それは、何故だろうね」
「そ、それはだな…」
言葉に詰まった団長の代わりに、カルラが口を開いた。
「それは、団長さんが言う様に危険では無いから」
「そうだろう?」
団長が返答に詰まると、後ろに控えている団員達が
口々に叫んだ。
「団長!」「これ以上の話し合いは、無意味です」
「そうですよ!」
「多少強引なやり方になってでも、獣人を捕らえましょう!」
「住民に危険が及ぶ前に獣人を捕らえる」
「義は我々にあります!」
団員達がスラリと剣を抜いて、ジリっと前に歩み出た時
「やめて〜」
カルラと騎士団のやり取りを見ていたミラーフェアが
飛び出してくると、小刻みに震える短い両手を横に広げて
カルラの前に立った。
見た目は人間と変わらない、獣人の小さな娘の姿を
目の当たりにした団長及び団員達は、暫くの間立ち尽くした。
「ミラーフェア」「どうして出てきたの?」
カルラの声で我に返った団長達が、カルラを守らんと
震える両手を懸命に広げる、獣人の娘を見て思った。
これが、本当に獰猛で人肉を好んで食する獣人なのか?…と
その時、受付嬢が小走りでカルラに駆け寄り
ボソボソと耳元で囁くと、何かを手渡した。
「無理を言って悪かったわね」「有難う」
「いえ」「お役に立てて光栄です」
カルラは団長の方に視線を戻すと、ミラーフェアの両肩に
手を乗せて話を続けた。
「この娘が団長さんの言ってた獣人で、名を『ミラーフェア』
あるギルドへの加入が決まって、リーダーとメンバーも了承済み」
「ギルドに加入?」
「これが、ミラーフェアの冒険者カード」
「確かめてみるといい」
「王都の住民でないのに、冒険者カードを作れる訳が…」
騎士団長が、ブツブツ呟きながらカードを手に取り
その詳細に目を通すと溜息を吐いて、カルラにカードを返した。
「成る程ね」「身元引き受け人、『カルラ・ジェイス』か
確かに、ギルマスの貴女が身元引き受け人なら
カードも作れるが、もしもこの獣人が人を殺したりすると
ギルマスの地位は剥奪されるぞ?」
「獣人じゃなく、『ミラーフェア』だよ」
「それにこの子は、人を殺さない」
「何故そう言い切れる?」
「実際、お前達を襲ってないだろう」
「それに冒険者カード取得で、王都の住民になり
尚且つギルドメンバーの一員にもなる」
「それを何の罪状も無く…」
「お前達、引き上げるぞ」
カルラの言葉を遮り、団員達に吐き捨てる様に告げると
足早に冒険者協会から去って行った。
騎士団長とカルラのやり取りを、息を飲んで見ていた
セルアル、スハノ、カーシェと周りを囲んでいる
冒険者達から、歓喜の声が上がりミラーフェアが
カルラに抱きついた。
「有難う〜」
「流石、カルラ様!」
「ギルマス万歳〜」
「やった〜」
「ザマアミロ〜」
しがみ付いてる、ミラーフェアと騒いでる冒険者達に
カルラは少し戸惑ったが、『まぁ いいか』
小さく呟いて、ミラーフェアの頭を撫でると
「それじゃあ、ギルドの申請を終わらせようか」
ミラーフェアを抱き上げて、セルアル達に告げたのだった。




