第337話 大砲の完成
いつも感想や誤字脱字報告を頂きありがとうございます!
ロキが捕まってから一週間が過ぎた。
砂の王国でホルスたちがロキの身を案じる一方で、当の本人は与えられた鍛冶場を活用し、作業に没頭していた。
レクターの城に用意されていた鍛冶場には、思った以上に素材も道具も揃っていた。
城の武装を整えるための設備だったのだろうが、それはロキにとっても都合が良かった。
既存の部品を流用し、足りない箇所を作り直し、必要な機構を組み込む。
そうして出来上がったものを前に、ロキは鼻息荒く胸を張った。
「そうか、完成したのか」
謁見の間では、レクターが玉座に座り、ロキたちを見下ろしていた。
ロキに対する関心は以前より強まっているようだ。
だが、相変わらずその瞳には一切の温度が感じられない。
美しいものを見ているようで、そうではない。
価値のある素材を見定めているような、そんな冷たい目だった。
「ま、俺にかかれば造作もないことだ」
ロキはガシッと腕を組み、得意げに鼻を鳴らした。
隣に立つクレヴォは、どこか呆れた様子でロキを見ている。
「それで、その大砲はどこにあるんだ?」
声を発したのはギルだ。
完成したと聞いただけでは、当然信用できないのだろう。
「今から見せてやる。さぁ、お前ら早く持ってくるのだ!」
ロキは謁見室の扉に向けて声を上げた。
だが、扉が開く様子はない。
しん、と謁見の間が静まり返る。
「――何も来ないではないか」
レクターが抑揚のない声で言った。
確かに、何かが運び込まれる気配はない。
「むぅ。あいつら一体何をしとるんだ」
「もしかして、お前といつも一緒の連中のことを言っているのか?」
「あのサイズで大砲を運べるわけがないでしょう」
「だったらどうせいというんだ!」
「お前が運べよ」
ギルの冷静な突っ込みを受け、ロキは渋々と謁見の間を出ていった。
そして、少ししてから再び扉が開く。
誰もが、何故わざわざ扉を閉めたのかと突っ込みを入れたかっただろうが、ロキとしてはこれも演出の一つだったのだろう。
「待たせたな!」
「……オイッスゥ」
「キュイ~……」
元気よく大砲を押してくるロキとは対照的に、七人のノームとサラマンダーは疲れ切った顔をしていた。
どうやら、合図したらこの大砲を持ってこいなどと無茶振りされていたらしい。
その声には、ロキへの恨み節のような感情がしっかり乗っていた。
「ほう。これが貴様の言う自慢の大砲か」
「そうだ。移動式だからな。設置も自由だ」
ロキはフンッと鼻息を荒くして答える。
謁見の間に運び込まれた大砲は、城に備え付けられていた古い砲をそのまま使ったものとはまるで違っていた。
重厚な車輪付きの台座。
太く、長く伸びた砲身。
砲弾を込める箇所は妙に丸みを帯び、全体的に無駄なまでに曲線を意識した造形になっている。
兵器として見れば異様だが、作りそのものは悪くない。
少なくとも、素人の手による代物ではなかった。
「見ろ! この美しい曲線を! そしてこの砲弾を詰める箇所の膨らみ! これこそが俺の理想の大砲!」
ロキは大きく腕を広げ、堂々と宣言する。
「その名もズバリ! ギガンティックブレスト砲だ!」
「…………」
自信満々に大砲の名前を公開するロキだったが、レクター、クレヴォ、ギルの反応は冷ややかだった。
七人のノームたちは揃って頭を抱え、サラマンダーはもう知らんとばかりに背中を向けている。
「何だ。驚いて声も出ないのか?」
「呆れてるのですよ」
クレヴォの指摘も、ロキには届いていないようだった。
「ブレスト……いや、そっちの意味か」
ギルが低く呟く。
クレヴォは指摘する際も眉一つ動かさなかったが、心底くだらないものを見たような目をしていた。
「名前はともかく、確かに見た目は悪くない」
レクターが静かに口を開く。
「曲線も整っている。無駄が多いようにも見えるが、造形としては一つの形を成している」
「そうだろう、そうだろう! 俺の自信作だ!」
「だが、私の好む美とは違う」
レクターの瞳が、大砲の表面をなぞるように動く。
「兵器にしては俗だ。欲望が形になりすぎている」
「褒め言葉だな!」
「褒めてはいない」
ギルが即座に突っ込む。
だがロキは全く気にした様子もなく、大砲の砲身を撫でた。
その指先が、一瞬だけ砲弾を込める箇所に触れる。
それは単なる職人の癖にも見えた。
自分の作った品の出来を確かめているだけにも見えた。
けれど、その口元がほんのわずかに歪んだことに気づいた者はいなかった。
「見た目ばかりよくても仕方がない。性能を見てみなければな」
「ほう。性能か。いいだろう。その辺の岩にでも撃ってみるか?」
「そんなものを撃っても意味はなかろう」
レクターは玉座の肘掛けに指を置いた。
その瞳は相変わらず冷たい。
だが、次の言葉を口にする瞬間だけ、その硝子のような目の奥に歪んだ愉悦が浮かんだ。
「そうだな――まずは挨拶代わりに、砂漠の国へ一発撃ち込んでみるのはどうだ?」
謁見の間の空気が、わずかに沈んだ。
七人のノームたちが動きを止める。
サラマンダーも、背を向けたままぴたりと固まった。
ギルは面白そうに片目を細め、クレヴォは無言でロキを見る。
「……砂漠の国に、か」
ロキが呟く。
その声は一瞬だけ低かった。
だが、次の瞬間にはいつもの調子でニヤリと笑う。
「ふん。いいだろう。俺のギガンティックブレスト砲が、どれほど飛ぶか見せてやる」
「ほう。自信があるのだな」
「当たり前だ。ただし、これは長距離砲だ。砂漠に入って撃つ必要はない。ここからでも十分届く」
「それは面白い」
レクターの表情は大きく変わらない。
だが、その瞳だけがわずかに歪んでいる。
「ならば見せてもらおう。貴様の大砲が、どれほどのものかを」
「ああ、見ておけ」
ロキはそう言って、大砲の砲身を叩いた。
軽い金属音が謁見の間に響く。
その音の奥に、誰にも気づかれないほど小さな何かが、かすかに噛み合う音が混じっていた。
本作のコミカライズ版の第23話が本日発売の月刊コミックREX10月号に掲載されてます!
そしてコミック単行本最新第4巻が来月9月26日発売です!
どうぞ宜しくお願い致します!




