第336話 アインの誓い
いつも感想や誤字脱字報告を頂きありがとうございます。
ロキが連れ去られてから、城を中心に砂漠も調査してみたけど、結局見つけることは出来なかった。
やっぱりサーチの言う通り、ロキは城に侵入してきた連中に攫われたと見て間違いないだろう。
怪鳥に乗って飛び立ったという話だし、既に砂漠から出ていった可能性も高い。
「僕のせいだ……」
玉座に座りながら、僕は俯いていた。
「僕がもっとしっかりしていれば……敵の侵入を許すことも、ロキが連れていかれることもなかったのに」
「スゥ~……」
肩の上に乗っているスーが、慰めるように僕の頬を小さな手で撫でてくれる。
その優しさが嬉しい。
だけど、それでも頭から離れない。
僕はこの国の王だ。
皆を守る立場なのに、逆に皆に守られてばかりじゃないか。
アインは僕を守ろうとして大怪我を負った。
ロキは僕たちの為に協力してくれていたのに、敵に攫われた。
そんな状況で僕が玉座に座っていていいのだろうか。
この場所は、本当に僕に相応しいのだろうか。
「そう自分を責めるでない」
「でも――」
「陛下。あの男、悪運だけは良い。きっと無事だと思うぞ」
「うちもルガールの言う通りだと思うにゃ。それにあの助平ドワーフが、ただ黙って攫われたとは思えないにゃん」
フィー、ルガール、ペルシアの三人が励ましてくれているのはわかる。
でも、どうしても自分を責める気持ちは消えなかった。
「ホルス。まずは寝ないと駄目です。休むことも王の務めですよ」
「そうですわお兄様。あれからろくに寝ていないではありませんか」
『ケケッ。女の相手で寝不足ならまだわかるけどな』
「カセは少し黙っていてくださいですの」
茶化すカセをモルジアが叱りつける。
寝ていない……か。
ロキの捜索。
今後、同じような襲撃を許さないための対策。
色々考えていたら眠る時間なんてなかった。
でも、それも言い訳なのかもしれない。
皆が思っている以上に、僕の心は弱い。
王として、もっと強くならないといけないのに――。
「陛下。少しよろしいでしょうか」
謁見室の扉を開けて入ってきたのはメルだった。
いつも笑顔を絶やさないメルだけど、今日はいつもより笑顔が少ない。
その瞳は真剣そのものだった。
「メル。何か進展が?」
「いえ。ただ、陛下に一緒に来て見てもらいたいものがあるのです」
「見る?」
一体何だろう。
メルに促され、僕は彼女についていくことにした。
向かった先は、騎士たちが訓練に使っている場所だった。
そこにいたのは――アインとフェルだった。
「アイン!」
僕は思わず声を上げる。
アインは襲撃者を食い止めようとして大怪我を負った。
幸い、イシスの生命魔法やケアの薬によって命に別状はなかったけど、まだ無理をしていい状態ではないはずだ。
「王よ。アインはここでずっとライと修行を積んでいる。こやつが望んだことなのでな」
フェルがそう答える。
「アイン、休んでなくていいの?」
「主殿。我は――」
アインを見る。
そこで僕は気がついた。
アインは目隠しをしていた。
それだけではない。
耳には耳栓がされ、頭部は触角ごと包帯で巻かれている。
「視覚も……聴覚も……それに触角まで?」
「はい」
アインが頷く。
「我は奴に遅れを取りました。自分の弱さを痛感したのです」
アインは拳を握る。
「力不足だったことも悔しい。ですが、それ以上に悔しかったのは――一瞬でも奴の言葉に惑わされたことです」
「アイン……」
「故に、フェル殿に頼み修行をつけてもらっているのです」
「ふむ。だが、今のそれは何のためだ?」
フィーが疑問を口にする。
確かに視界も聴力も奪い、さらに触角まで制限した状態では、まともに戦えるとは思えない。
「アインは自ら鼓膜を破り、相手の言葉を届かなくした。しかしその結果、戦いに必要な感覚の一部を失い、技の精度を落とした」
フェルが静かに語る。
「だからこそ、敢えて重要な感覚を封じているのだ」
「感覚を封じた状態でも、これまでと変わらない……いや、それ以上に戦えるようになれば」
アインが槍を握り直す。
「我はもう、奴に遅れを取ることはありません」
その言葉には迷いがなかった。
「ライもかつては剣であった」
突然、フェルが口を開く。
「動くことも、己の意思を示すこともできぬ。ただの武器だった」
フェルは自分の手を見る。
「だが、イシス様より命を与えられ、今こうして戦うことができている」
「フェル……」
「アインよ。己を嘆く暇があるなら、その命を得た意味を示せばいい。それがお主の望むことなのだろう?」
「――そのとおりである!」
アインは力強く答えた。
「我が主に誓おう」
そして僕へと体を向ける。
「このアイン――次に奴と戦う時は必ず勝利して見せると。王の騎士として必ず!」
その言葉と共に、アインは再びフェルとの訓練へ戻っていった。
「主様。アインは負けず嫌いなんです」
メルが優しく微笑む。
「だから一度負けても、すぐに前を向く。主様の為となれば、なおさらです。だからこそアイアンアントたちもアインを慕い、ついていくのでしょうね」
その言葉を聞いて、僕は改めてアインを見る。
「主よ。気づいておるか?」
フィーが口を開いた。
「あやつは感覚を封じておるにも関わらず、先ほどからずっと主様の方を向いて話していた」
「あ……」
言われてみればそうだった。
「五感を封じた状態で、あそこまで動ける者などそうはいないでしょう」
ルガールの言葉にフィーが頷く。
「それだけ必死に修行を積んでいるということでもある。いや……もしかすると五感で探しているのではないのかもしれぬな」
「どういうこと?」
「あやつにとって主様という存在は、それほどまでに大きいということよ」
「感動だわ。これも愛よね愛!」
「ス~」
「ンゴンゴ」
フィーの言葉に、スーとラク、そしてアイも頷いている。
アインは僕がいつまでも悩んでいる間も、前を向いて進んでいた。
それなのに、僕がこんなところで立ち止まってどうする。
ロキのことは心配だ。
でも、僕には王としてやるべきことがある。
「皆。引き続きロキの捜索は続ける」
僕は立ち上がる。
「だけど、まだまだやるべきことは沢山ある。僕もいつまでもくよくよしていられない。次の襲撃に備えて、皆の力を貸してほしい」
「ふふっ。勿論であるぞ」
「任せてホルス。でも、貴方は少しでも寝ること!」
「愛ゆえにね!」
「そうですわ。いざという時にお兄様が動けなくては意味がありませんの」
「ス~」
皆の言葉を、今度は素直に受け止めることができた。
だから僕は、このあと少しだけ仮眠を取ることにした。
この国を守る為に――。
本日発売の月刊コミックREX9月号に本作のコミカライズ版最新の第22話が掲載されてます。
そしてコミック単行本最新第4巻の発売日が9月26日に決定!どうぞ宜しくお願い致します!




