第335話 剥製王へのロキの要求
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「私の城の武装に問題があるというのか」
「そうだ。俺は大砲にはちょっとうるさくてな」
「そこまで言うからには、この城の武装を強化する自信があると見ていいのだな?」
「勿論だ。俺に任せてくれるなら徹底的にやってやるよ」
「お待ちください。そのドワーフはバラムドーラで暮らしていました。やすやすと信じてよいものでしょうか」
待ったをかけたのは執事のクレヴォであった。
ロキは縄を解かれた腕を軽く回しながら、わざとらしく肩を竦めてみせる。
「確かに俺は坊主の下にいたが、成り行きでそうなっただけだ。俺の希望を聞いてくれるなら場所はどこでもいい」
「ほう。それで希望というのはなんだ?」
「女だ。そこにいるのでもいい。とにかくオッパイの大きな女を用意してくれ。それをしてくれるならいくらでも協力してやるよ」
ロキはいつもの調子で言い切った。
あまりにも欲望に忠実な要求に、ファーは「キュ~イ……」と力なく鳴き、七人のノームたちは揃って顔を覆った。まるで「また始まった」と言いたげだ。
「ハハッ、ハハハハッ! いいぞ。欲望に忠実なドワーフか。そういうのは嫌いではない」
玉座に座るレクターが笑った。
だが、笑っているはずなのに、その梟のような双眸には一切の熱がなかった。獲物を観察するような、あるいは飾り棚に並べる品を見定めるような、そんな冷えた目だ。
「よかろう。クレヴォ、そのドワーフの部屋を用意してやれ。希望通りのメイドも一緒につけてな」
「――承知いたしました」
クレヴォは一礼し、ロキたちを謁見室から連れ出した。
長い廊下を進む間、ロキはあえて鼻歌まで混ぜて浮かれた様子を見せる。
だが、ファーだけは気づいていた。ロキの指先が、ほんの少し強張っていることに。
「鍛冶用の作業場も準備する。でき次第、作業に移ってもらうぞ」
「わかってるさ。で、女は?」
「これで満足か」
クレヴォが手を叩くと、ロキの希望通りのメイドが五人、部屋の中へ入ってきた。どのメイドも容姿は整っており、体つきも見事で、レクターが自慢するだけのことはある。
ただし、その歩みは妙に揃いすぎていた。
足音の間隔も、手の位置も、首の傾け方さえ同じ。生きた人間なら自然と生じる小さな揺らぎが、そこにはなかった。
「うひょぉおぉおお! 素晴らしいぞ! これなら俺は大満足だ!」
ロキは大げさに叫び、真っ先にメイドへ飛びつくように近づいた。そしてその胸に顔を埋め、わざとらしいほど鼻の下を伸ばしてみせる。
「――貴様のようなドワーフがいるとはな。てっきりドワーフはもっとプライドの高い存在だと思っていたぞ」
「好きに言え」
「キュ~イ……」
「オイッスゥ……」
「――せいぜい今のうちに楽しんでおくんだな」
クレヴォが冷ややかに言い残し、部屋を出ていく。
扉が閉まる。
足音が遠ざかる。
それが完全に聞こえなくなった途端――ロキの表情が消えた。
「……冷たい。全く体温を感じないではないか」
ロキはゆっくりとメイドから離れた。先ほどまでのだらしない笑みは、もうどこにもない。
メイドたちは動かない。
ただ、そこに立っている。
肌は滑らかだった。造形は完璧だった。けれど、そこには脈も、息も、身じろぎもない。
「可哀想に――本来ならお前たちは、温かみのある最高の女だっただろうに」
ロキの声は低かった。怒鳴るでもなく、嘆くでもなく、ただ静かに落ちた。
ファーが「キュ~イ……」と小さく鳴く。さっきまで呆れ顔だったノームたちも、今は何も言わなかった。ロキの怒りが、本物だとわかったからだ。
「……何が理想の女だ」
ロキが拳をぎゅっと握りしめる。
「魂の入っていない人形に何の価値がある。芸術家気取りのクソ野郎が。あいつは作品を作っているんじゃない。ただ壊しているだけだ」
そう言って、ロキはメイドたちを見つめた。
美しい。
確かに、美しいのだろう。
だが、笑わない。怒らない。照れもしない。嫌がりもしない。
生きている女なら当然あるはずの反応が、そこには何一つなかった。
「生があってこその神秘だ。温もりがあって、鼓動があって、怒ったり笑ったりするからこそ女は美しいんだ。それを……こんなにしおって」
ロキの声に、低い怒気が滲む。
「キュ~イ……」
「オイッスゥ……」
ファーとノームたちが静かにロキを見上げる。いつもの呆れた目ではない。彼らもまた、目の前のメイドたちを哀れんでいるようだった。
「見ておけ。お前たちの無念と恨みを、この俺が晴らしてやるからな――」
ロキはそう呟き、もう一度だけメイドたちを見た。
その目には、いつもの欲望の色はなかった。
ただ、鍛冶師として、そして生きた女を愛する男としての、静かな怒りだけが宿っていた。
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