第244話 ゴマ盗賊団
アングルはアプステアに言われ、エルドラド共和国からゴマ盗賊団がアジトにしている洞窟までやってきていた。
死の砂漠では比較的安全とされる外周部に位置する岩山地帯にその洞窟はあった。
入り口は完全に偽装されており、アプステアからの情報がなければ気づくことは出来なかっただろう。
特定のリズムで岩の壁を叩くと、壁の向こう側から声が掛けられた。
「岩」
「山」
「川」
「し、死体――」
「……通れ」
ただの岸壁にしか見えなかった岩肌の一部が重苦しい音を奏でながら開く。
ちなみにもし合言葉に答えることが出来なかったり間違った場合は問答無用で殺されるところであった。
「本当にこんなところで暮らしていたのか」
「――何か文句が?」
「い、いや――」
案内してくれている強面の男に睨まれ汗を垂らして俯くアングル。ゴマ盗賊団についてはアプステアから簡単には話を聞いていた。
条件さえ飲めば好きに盗賊稼業をしていいと許されている集団だ。頭を含めて四十人の集団でもある。
規模だけ見ればもっと大きな盗賊団はいくらでもあるが、この集団は精鋭揃いであり、一人一人が並の盗賊の十人力の腕を持つ。更に頭の側近であり四本腕とされる四人がおり、その四人の実力は一人で下手な盗賊団を殲滅できるほどの実力を持つと言う。
「セサミ親分。アプステアの使いってのを連れてきやした」
洞窟の奥が大きく広がっておりちょっとした広間のようになっていた。その中心近くに頭がいた。
どこで手に入れたかは知らないが、豪奢な椅子に腰を掛けた男がアングルを睨めつけてくる。
親分と呼ばれたその男を意外そうな目で見やるアングル。なぜならかなり年が若く見えたからだ。ダボッと広がったような白いズボンを履き薄手のベストを羽織っていた。褐色の肌が顕になっているが普段から鍛えているのか細身だが腹筋は割れ体も良く引き締まっている。
目つきは鋭く青い髪を右に流しているが先端部分は赤く変色していた。
「ふん。あの野郎か。今度は一体何の用だ? どうせろくでもないことだろう?」
怪訝そうにアングルを見ながら口を開くセサミ。それにアングルが反応した。
「な、内容はこの手紙に書かれている」
アプステアから預かっていた手紙をアングルが取り出した。すると、どこかから腕が一本飛んできて手紙を掴む。
アングルがギョッとした顔で腕の飛んできた方を見た。小柄な男がニヤリと不気味な笑みを浮かべて戻った腕から手紙を取る。
「その手紙、怪しくて明白、臭くて香ばしい、とても面倒でとても容易――」
長い灰色髪の男が奇妙な言い回しを見せる。左目を髪で隠した男だ。右半身は妙に筋肉質で、逆に左半身はやせ細っているという奇妙な体をしている。
「なんでもいいぜ。俺はこの剣で切れるならなぁ」
壁に背を預けていた男が、ククッと笑う。黒いざんばら髪の男だった。気だるそうな顔つきだが発言は物騒でもある。彼が握りしめた剣は地面に深く突き刺さったままであった。
「遊んでないでこっちに手紙を寄越せ」
「へいへいっと」
セサミに言われ、小柄な男が手紙を真上に投げると、乾いた音が響き渡り、手紙が何かに弾かれたように飛んでいきセサミの手の中に収まった。
「何だ今のは?」
キョロキョロとあたりを見回しながらアングルが声を上げる。
「ストリートは相変わらずだな」
「見えなくてはっきりしている」
「陰からこそこそ動き回るのは性に合わないがな」
どうやらストリートという名前の団員もいるようだ。そして今の団員同士のやりとりだけでもどことなく不気味な空気を感じるアングルでもあった。
「ふん」
鼻を鳴らしつつ頭のセサミが手紙に目を通す。
「――つまり砂漠に出来た新しい国を狙えってことか。希少な翼の生えた奴隷を取り戻せと」
「そ、そうだ。引き受けるなら前金も渡す」
アングルが革袋を取り出して見せた。振るとじゃらじゃらと金貨の擦れる音が聞こえる。
「投げろ」
「待て、先ず受けるかどうか、あ!」
「へっ、お前隙が多すぎだろう」
また腕が飛んできてアングルから袋をひったくる。今度は直接袋を持って腕がセサミに届けた。
「ちょ、待て勝手に!」
「――チッ、金貨五百枚かよ。舐めてるのかあいつは」
セサミが袋を逆さまにして落ちてきた金貨を瞬時に数えて見せる。その目には不満の色が滲んでいた。
「な、何がだ! 前金で金貨五百枚だぞ! 大金だろう!」
「俺が何も知らないとでも思っているのか? 今の金貨は価値が下がりまくっていた。だが、最近の噂で新しい金の輸入先が見つかり近々金貨の値が上がると聞いている。つまりテメェがもってきたこの金貨はただでさえ価値が低い上にこれから下がる一方ってことだ。お前、まさかそんなことにも俺が気づかないと思ったのか?」
「あ、ぐ、そ、それは――」
痛いところをつかれ、思わぬピンチに陥るアングルであった――
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