第172話 砂漠で四男と対峙
パピルサグ族の地下集落からシュデルが出てきた。僕を見て眉を顰め口を開く。
「これはこれは帝国の恥晒しの愚弟様じゃねぇか。はは、全く一体誰が来たかと思えば、お前の名前まで出てきて驚いたぜ。まさかそっちからのこのこ現れるとはな」
相変わらずだなシュデルは。これでも皇子だから公の場ではそれなりに体裁を整えるけど、誰の目も届かない状況だと口調は荒っぽくなる。
そしてシュデルの斜め後ろには……ワズイルの姿があった。やっぱりこの騎士も来ていたのか。
「殿下! あそこに私の妻もいますぞ!」
「あん? あぁ、俺の顔に泥を塗ってくれた恥知らずの妹か」
「な! 何を勝手なことを言ってますの!」
ワズイルがモルジアを見てシュデルに語りかけた。シュデルもモルジアを見て眉間に皺を寄せた。自分の思い通りに行かないのが許せないってところか。だけどモルジアは当然納得していない。語気も荒くなる。
「おい。こっちに戻ってくるなら今のうちだぞ?」
シュデルが手を掲げモルジアに向けて言った。まるで警告するかのような言い草だ。
「冗談じゃありませんですの。死んでもあんたの側になんて戻りませんですの」
「お~何でそんな事を言うのかモルジア~私なら君をずっと大切に出来ると言うのに」
ワズイルが前に出て両手を広げてモルジアにアピールする。だけどモルジアは顔を歪めて僕の後ろに隠れてしまった。
「お兄様! 私は愛しのお兄様から絶対に離れませんですの!」
「……悪いけどモルジアもこう言ってる。それに別にそんなことを話に来てるんじゃない」
「あん? テメェなに勝手に主導権握ろうとしてるんだ? 砂しか操れない雑魚がよぉ!」
「随分と無礼な奴だなおい」
するとライゴウが前に出て大剣を構えた。ほぼ同時にシュデルも剣を取り出し手をかける。
「何だそいつは?」
「俺は王に惚れ込んだ冒険者のライゴウだ」
「……くっ、ククッ、ア~ハッハッハ! こりゃおかしい! マジか! おいおい、冗談だろう? こんな屑に従うような奴が本当にいたのかよ! あまり俺様を笑わせんじゃねぇよ」
シュデルがゲラゲラと笑い出した。ライゴウの顔がみるみるうちに赤くなっていくけど、ここで手を出しては作戦が台無しになる。
「ライゴウ、ここは抑えて。ね?」
「あぁ、わかってるけどなぁ。くそ、さっさとぶった切りてぇぜ」
「やめなよライゴウ」
アローネもライゴウを宥めている。すると一人の騎士が前に出て声を上げる。
「随分な物言いですがね。我々からしたらホルス王の方がよっぽど魅力的だ」
「うん? ん~ん~? き、貴様はジャハル! それによく見たら、で、殿下! そこに並んでるのに私の元部下がいますぞ!」
「何ぃ? つまり何だ~? そいつらは帝国兵や騎士ってことかよ。おい、お前ら一体どういうつもりだ!」
「そうだ一体どういう……あぁ、そうか。さては寝返った振りをして騙すつもりだったのだな。それならもうそんな物は必要ないぞ。さぁ! 我が妻以外の愚か者どもを掴まえてしまえ! 歯向かうなら殺してもいいぞ!」
ワズイルが見当違いな解釈をして、さも当然みたいに叫ぶけど、こっちにいる皆はそれを呆れたような目で見ている。
「我々がここに立っているのはホルス王の兵として。もはや帝国に戻るつもりなど一切ない」
「な、何だと? 自分で何を言っているのかわかってるのか!」
顔を真っ赤にさせてワズイルが叫ぶ。だけど皆知らん顔だ。
「アハハハハッ! 全くワズイルよぉ。将軍にしては大した人望だなおい?」
「ぐぅ……」
シュデルの皮肉にワズイルが喉をつまらせた。それにしても見てると、ワズイルはもうすっかりシュデルの手下みたいな扱いだ。
「まぁいい。どっちにしろ結果は見えているんだからな」
「結果? 一体何の話?」
「今から帝国を裏切ったそこの馬鹿どもも含めて皆殺しにされるって結果だよぉ。テメェのクセェ首も仕方ないから持ち帰ってやる。あぁだが、使えそうな女は運が良ければ助けてやるよ。兵士のご褒美にもなるしなぁ」
「流石シュデル様だ」
「よく判ってらっしゃる」
「俺はあの青いローブの女がいいな」
「俺はあっちの清楚っぽい女だな」
「あっちのエロいねぇちゃんもたまんねぇぜ」
「よく見ると使えそうな女も多いな。今から楽しみだ」
シュデルの発言に騎士や兵士が下卑た目を皆にむけてきた。
千鋭百鬼団はシュデルと思考が似ているのが揃っているとジャハルが言っていたけど、まさにそのとおりなようだね。
「シュデル。あまり僕たちを舐めない方がいいよ。そこにいるワズイルだって尻尾を巻いて逃げるしかなかったんだし」
「な! 何を馬鹿な! あれは貴様らが卑怯な真似をしたからだろう!」
「一体何が卑怯だったというのか……むしろ前に出ることなく不利と見るやさっさと逃げたのはワズイルだろう」
「う、うるさいデタラメを言うな!」
ワズイルが顔を真っ赤にさせて叫んだ。でも兵士たちが呆れているのは確かだよ。
「とにかく恥をかきたくなかったらすぐにパピルサグ族を解放して国へ引き返すんだ。僕は逃げる相手にまで手を出そうとは思わない」
「……あん?」
シュデルのこめかみがピクリと反応した。こう言って引き下がるわけ無いとは思ってる。それで済めばいいけど、シュデルの性格を考えれば、逆に敵愾心を強めることだろう。
「テメェ舐めた口聞いてんじゃねぇぞ! テメェらなんざ今すぐにでもミンチに出来るんだからな!」
「ほう? 随分と面白い事を言うではないか。どうやら妾が王の兄とやらは口だけは達者なようであるのう」
フィーが会話に割り込む。そして挑発めいた言動を見せた。
「……全く次から次へと、なんなんだテメェは?」
「妾はフィー。王の第一の獣魔にして守護者なり」
厳かな口調でフィーが言い放つ。その美しさも相まって誰もがその言葉に耳を傾けた。
「……チッ、こんないい女が何でそんな屑と」
「口の聞き方に気をつけよ愚かなる人間よ。貴様のような三流以下の生き物でも一応は我が王の血縁者であるからのう。多少は許してやってもいいがあまり調子に乗っていると今すぐ消し炭にしてくれるぞ?」
フィーの忠告にシュデルが目を丸くさせる。だが、すぐに顔を歪め、指を突きつけて笑い出した。
「あ~っはっはっは! おいおい聞いたかよ! この女、顔は美人だがどうやら頭の方が随分と残念らしいぜ! 俺たちを消し炭に――」
――ズドオォオォオォオォオオォオォオオオン!
シュデルがフィーを小馬鹿にするように笑い出すが、フィーが右手を掲げたその瞬間、明後日の方角で豪快な爆発音がし、巨大な火柱が天を貫いた。
薄暗くなっていた空がまるで炎に包まれたように真っ赤に染まる。シュデルの兵達もワズイルも唖然となって言葉を失った。
シュデルの瞳も驚愕に染まっていた。それにしても改めてフィーは凄いな……本当に今の魔法があればシュデルも含めて消し炭にされていたかも……加減できないのが欠点だけどね――




