第169話 砂漠でシュデルの存在を知る
パピルサグ族の彼の石化を解いた後、その口から聞かされたのは、僕の兄が彼らを襲ったという事実だった。
「その男は名前は言ってましたの?」
「はい。確かシュデルと……これは本当に兄で間違いないのですか?」
彼からそう問いかけられた。その名前にモルジアが眉を顰める。どうやら本当に帝国の兄が砂漠にやってきたようだ。
「間違いないよ。確かにその人は僕の兄だ」
「やはりそうだったのですね……」
「念の為言っておきますが、兄と言っても仲はよくありませんですの。何より私も大嫌いですの!」
モルジアが嫌悪感を示した。以前やってきたワズイルとモルジアは結婚させられそうになっていたが、それを提案したのはシュデルだったみたいだからね。
そして僕自身もあまりいい思い出はない。砂の魔法を練習していた時も邪魔ばかりされていた記憶しかないな……属性が砂であることでしょっちゅう馬鹿にされていた。
でも、そのシュデルがここまでやってくるなんて……もしかしてあの時逃げたワズイルが関係しているんだろうか。
「シュデルは何人ぐらい連れてきていたかわかる?」
「鎧姿の兵は多かったですね……数は百や二百では効かなかったと思います」
結構な戦力で来ているってことか。ワズイルの時より多いかどうかが焦点になる。
「王よ。それでどうするかのう?」
フィーが僕の判断を聞いてきた。ここはしっかり僕が決断しないといけない。
「うん。パピルサグ族とは交易を結んでいるし放ってはおけない。マインや仲間も助けないと」
「勿論ですの! いい機会ですの! シュデルを叩きのめしてやるですの!」
『ケケッ、随分とやる気じゃねぇか』
モルジアが眉を怒らせて僕に同意してくれた。カセはどこか楽しんでいる様子も感じられる。
「で、でもホルスは大丈夫? お兄さんなんだよね?」
「ンゴォ~……」
一方でイシスとラクは相手が身内であることを心配してくれているようだ。イシスはやっぱり優しい。
「うん。心配してくれてありがとう。でも……帝国として来ているなら放置してはおけない。それに確かに兄だけど性格は全然違う。シュデルは好戦的だし、話し合ってわかる相手じゃないと思う」
戦の時も相手が例え降伏しても構うことなく皆殺しにしたと聞いたことがある。性格は兄弟の中でもかなり凶暴な方だ。
「同感ですの。このままじゃ何をしでかすかわかったものではありませんの!」
「愛が足りないかしら」
モルジアもシュデルの性格をよく知るからこそ不安でもあるんだと思う。
僕にしても正直言って帝国にはあまりいい思いがない。確かに祖国だけどあそこは侵略国家だ。砂漠に目をつけられたら今後厄介なことになる可能性の方が高い。
「我は王にどこまでついていきますぞ!」
「相手が帝国とは面白そうだ。勿論俺たちも行くぜ!」
「パプルサグ族とは我々も少なからず縁がありますからな。手伝わせて頂きましょう」
アインやライゴウ、それにスイム達冒険者も協力を惜しまないといったところなようだ。相手の数は多いようだし素直にありがたいね。
「お、おらも王様を守るだ!」
ジャックが盾を構えながら勇気を振り絞って言ってくれる。
「お前たちはどうするのだ? 相手はお主達の元同胞であろう?」
そしてフィーは元々は帝国兵だった皆にも聞いてくれた。僕としてはどうしても嫌なら連れて行こうとは思わない。
「へへっ、今更そんなのいいっこなしですぜ」
「俺達はこの国でやっていこうと決めたんです!」
「もう帝国に戻る気にもなれない」
驚いたことに誰一人としてシュデル率いる帝国兵と戦うことを忌避する様子がなかった。僕たちと一緒に戦ってくれるつもりらしい。
「ただ――一つだけ。相手があのシュデルであるなら、連れてきているのは千鋭百鬼団の可能性があります」
元帝国騎士の一人が教えてくれた。千鋭百鬼団……名前だけなら僕も知ってる。シュデルによって選びぬかれた千の騎士と兵士たち。十人一組となって百の隊として攻めてくる。その隊の一つ一つが鬼のように強いということで百鬼団とされた。
もし、今教えてくれた騎士の予想が当たっていたなら、シュデルは本気でこの砂漠に狙いを定めたことになる。直接戦ったことはない。だけど、シュデルの扱う魔法は知っている。剣魔法――あらゆる剣を操りそしてその力を限界以上に引き出す魔法だ。
正直簡単に勝てる相手ではないかも知れない。こっちにはフィーを含めた頼れる仲間もいるけど、それでも気を引き締めて戦わないと――
――キュルキュルキュルキュルキュルキュル。
その時、奇妙な音が近づいてくるのが判った。顔を音のする方に向けると上半身のついた乗り物、そうロキが自慢していた戦車が姿を見せたんだ。
「よう坊主。これから帝国とやらとやりあうんだって? ペルシアの持っていた魔石と魔法火薬のおかげでこれも動くようになったぜ! 折角だからこの俺様の最高傑作で存分に敵兵相手に大砲を撃ち込んでやるよ!」
「にゃん……何か凄いのがやってきたにゃん」
「ス~!」
う、うん。確かにペルシアの言う通り、改めてみるとこの戦車は思ったよりとんでもないかも。これがあれば、相手がシュデルでもいい戦いになるかも知れないよ!
「よし、それなら皆でパピルサグの皆を助けに行こう!」
「「「「「「「「「おおぉおおぉぉおぉおぉおぉおぉぉおお!」」」」」」」」」」
頼りがいのある鬨の声が響き渡る。そして僕たちは準備を終えて、ある程度の人員とゴーレムを国に残し、パピルサグ族救出のため出発したんだ――




