第165話 シュデルの剣
「止めて! どうしてこんな酷いことするの! ホルスはこんなことしないよ!」
マインが泣きそうな顔で叫んだ。仲間が傷つけられたことで少女の心もまた傷ついたのである。
「あぁん? あんな腰抜けと俺を一緒にすんな。殺すぞ――」
威圧感の込められた声に、マインが思わず顔を青くさせて後ずさる。すると残った護衛がその手を掴んで逃亡を図る。
「待って、皆が!」
「申し訳ありません! 貴方は族長の大事な妹! 仲間もきっとわかってくれ――グハッ!」
「おいおい、俺様が逃がすわけないだろう?」
後ろから飛んできた剣が護衛の肩を貫いた。
「グッ! な、何だ? 肩が?」
「え? い、石に! 嫌、どうして!」
「ぎゃはははははは! これが俺の剣魔法だぁ。お前の肩に刺さってるのは石化剣ピエドエスパーラだ。切った箇所からあっという間に石化するぜぇ」
そこまで語った直後、剣に貫かれた護衛は完全に石となった。
「そ、そんな……」
マインの膝が砂に埋れる。一方で石化を見届けたシュデルは満足気だった。
「はは、やっぱ俺様は最強だな。この世界中に存在するあらゆる剣は俺の支配下にある。つまりだ! 砂しか操れねぇ落ちこぼれの劣等種にこの俺様が! ……あ?」
その時、蠍の針がシュデルの首に突き刺さった。
「て、テメェ」
「油断したな。我が一族の尻尾は再生するのだ!」
そう。攻撃を仕掛けたのは、先程尾をシュデルに切られた護衛の一人だった。完全に切ったと思いこんでいたシュデルの隙をつき、その一撃を放った。
「仲間の仇だ。蠍の毒は猛毒! お前はもう助からん!」
パピルサグ族は体内の毒をある程度調整可能である。動きを封じる程度の麻痺毒として注入することもあれば、確実に殺す猛毒とすることもある。
今放ったのは後者であった。この毒を受ければ絶対に助からない、とそう判断している。
「グフッ!」
シュデルの膝が落ちた。手を口元に持っていき仰向けになり喉をかきむしりのたうち回った。
「これが我らパピルサグの実力だ! わかったらとっとと立ち去るがいい」
彼が帝国兵に向けて叫ぶ。この中で指揮官は今にも死にそうなこのシュデルだろう。それならば頭を失った兵の戦意も喪失する筈。そう、思ってたいのだが。
「殿下お戯れはそこまでに」
「毒など通用しない筈ですよね?」
しかし、騎士は平然とした顔でシュデルに向けて言い放つ。千鋭百鬼団の兵達は焦る様子すら見せなかった。
ピタッとシュデルの動きが止まり、そして、やれやれ、と頭を掻きながら立ち上がる。
「少しは慌ててみせろや。張り合いのねぇ」
「な!? ば、馬鹿な! 我らの毒を受けて何故!」
「ギャハハハ! いいねぇその顔! 勝ちを意識した奴が一瞬にして絶望に落ちる時のその顔が最高だ!」
「こいつ、まさか毒が効かないのか?」
もう一人の護衛が困惑した顔を見せた。
「毒だけじゃねぇよ馬鹿が。俺はあらゆる剣を使いこなすしその性能も限界以上に引き出せる。その中には身体能力や再生力の向上は勿論、あらゆる毒や病を無効にするなんてものもある。これらの効果を俺は全ていっぺんに享受出来るのさ。だから無敵、俺様は無敵なんだよギャハハハ!」
シュデルが勝ち誇ったように大声を上げて譏笑した。
「さて、通じなかったとはいえ、俺様を殺そうとした罰は受けてもらわねぇとなぁ」
剣の一本を手に取り、嗜虐に満ちた顔で近づくシュデル。だが、その前にマインが立ちふさがった。
「もう止めて! 何でも言うことを聞くから仲間を傷つけないで!」
「ほう、今何でもといったな? ギャハハ! 聞いたなテメェら。こいつが何でも言うことを聞くってよ!」
「くっ、マイン様、いけません!」
「黙れ、殺すぞ」
「ぐっ!」
睨みを効かせたその時、とてつもないプレッシャーが襲いかかり、護衛の二人が膝をついて頭を垂れた。
勿論これもシュデルの持つ剣の効果である。
「ま、テメェらは珍しい種族だ。つまり奴隷で帝国の持ち物だ。だからとりあえず生かしておいてやるよ。テメェもそれでいいな? 何でも言うことを聞くんだもんなぁ?」
「う、うぅ……」
シュデルは既にパピルザク族は自分たちの物と判断している。仲間を人質に取られたも同然なマインは逆らうことが出来ずにいた。
「さて、ならとっととお前らの暮らす薄汚ねぇ巣の場所を教えろ」
「い、いけませんマイン様」
マインに詰め寄るシュデル。護衛が止めようとするが、シュデルはその決断を急かした。
「早くしろよ。俺は気が短いんだ。少しでも迷ったら仲間の首を跳ね飛ばすぞ!」
「――ッ! こ、こっち、です……」
マインは仲間を見殺しになどとても出来なかった。この状況で取れる選択は集落まで彼らを連れて行くだけであった。
「殿下、その石になったのをどうしますか?」
マインに案内させ移動を始める帝国騎士。そこでワズイルが石になったパピルサグ族を指差して聞いた。
「あん? そんな屑石に興味ねぇよ。くだらねぇこと聞くんじゃねぇ」
「は、はい! 失礼しました!」
すっかり弱腰になったワズイルが謝罪し、そしてシュデルの後ろからついていった。
その場に残されたのは石化した護衛のみ。それからしばらく砂漠の砂と風に晒され続けていたわけだが、それを発見した黒い集団がいた。
「アギィ?」
「アギ、アギィ!」
「アギ~」
「アギギィ!」
「アギィ!?」
そして、石化した彼は通りがかったアイアンアント達によって運ばれていったのである――




