それなら自動車で良いか、うん。
「これはいったい??」
四角い箱が馬車を引いている。
大小さまざまな歯車が箱の側面についた歯車を回し、それが地面を噛むことで箱を進めている様だ。
「なにか、すごく大掛かりな物ですね。これで暗黒大陸へ?」
ジュリアが箱をしげしげと眺めている。
だけど、この様な目立つもので暗黒大陸はおろか魔導帝国を抜ける事が可能とは考えられない。
「はぁ、キュアさん何を考えているのだろう?」
「おやおや、“何を考えている”とは失敬だな。ニコラ君は」
四角い箱の前の部分がカパリと開き、中からキュアさんが出てきた。
「それよりどうだい、この自動馬車は。こんな魔道具、魔導帝国にもないぞ!ハハハハハ!」
キュアさんは自動馬車とやらを作ってご満悦の様だ。
「あ、でも馬が無いのに自動馬車?」
「馬が無い……それなら自動車で良いか、うん。」
結局、自動馬車ではなく自動車となった。
何処かで聞いた事があるような気がするのは気のせいだ。
ジュリアはしげしげと自動車を見ている。
「まあ、自動車でもいいですけど。どうするのです、これ。目立ちますよ。」
「ああ、それは問題ない。自動車を使うのは魔導帝国を抜けてからだ。そこまではラバで引っ張る。」
「?自動車とやらもラバで引っ張ってゆくのですか?かなり重い様に見えますが?」
自動車を見ていたジュリアがキュアさんに尋ねる。
「いや、それは部品で運ぶ。王国騎士団には収納ギフト持ちがいるからね。」
収納ギフトは商人に最も役に立つと考えていたが、騎士団の補給を考えた場合、騎士団にも必要なギフトなのだろう。
「という事は騎士団の装備も同じ様に収納されるのでしょうか?」
「ああ、流石に騎士の格好で魔導帝国を横断できるとは思えない。当然、装備は収納して移動だ。はら、あの様に普通の格好だ、平民として移動しても問題ないだろう。」
丁度、大型馬車から厳つい男達が下りてくるところだった。
鍛えられた肉体を持つ男たちが二十五人である。
明らかに怪しすぎる。
「でも、騎士団に見えなくても厳つい集団は怪しすぎる。これじゃ傭兵団だよ。」
「傭兵団!いいですね。そうなると一緒に行動する言い訳を考える必要があります。」
「実際、騎士団は大型馬車三台に分けるから護衛の為の傭兵とするなら問題はないか。その方針は私から騎士団に伝えておこう。それはそうと……。」
そう言ってキュアさんは僕の肩を掴む。
キュアさんのこの行動は嫌な予感しかしない。
「当然、部品の自動車は現地で組み立てる必要がある。それは判っているね。」
「ええ、まぁ。」
「実際この大きさだ。組み立てるには複数の人間が必要だ。」
「そうですね、確かに。その場合は力の強い人が良いのでは?」
「うーん。力より器用さや知力が重要だからね。その点で行くと君は適任なのだよ。」
キュアさんは僕の肩をがっちりつかんで放そうとしない。
僕はジュリアに助けを求める。
「ニコラ……頑張ってね。後の準備はやっておくから。」
「裏切り者ー。」
僕はそのままキュアさんに連行され、出発までの残りの日数、自動車の組立の訓練に充てられた。




