黒騎士ゲルギオス。お前に命令する!
ロムスさんの屋敷はとても大きく、薔薇に生垣の中は広い庭があった。
その広い庭には大きな池が二つあり、青く水をたたえていた。
街の壁と同じ建材で出来ているのか一つは長方形に作られ
もう一つは雲の様な形をしているが、どちらも底は平らになっている様だ。
「ああ、そこは水浴びをする施設です。
暑い日には気持ちの良いものですよ。」
帝国の貴族は家に池を作り暑い日には水浴びをするらしい。
水練場としての施設も兼ねているところもあると言うから驚きだ。
王国では水浴びをするのはもっぱら川で、
泳ぎの訓練を特別にする者はいない。
冒険者訓練所が海の近くにあったおかげで僕たちも泳ぎの訓練をしていたが
王国の兵士ではほとんど泳げるものはいないだろう。
僕たちの馬車は家の裏手にまわり、そこで売り物の積み荷を降ろす。
売り物のほとんどが王国で作られた磁器だ。
数があり重い品物だったがゲルギオスさんの助けもあり
ロムスさんの家に運び込まれた。
特に白い磁器に様々な絵が描かれた磁器は他国との貿易にも使われる逸品だ。
それに今回、アルバートさんから特別に修繕された磁器を渡されていた。
「この面白さがわかる人にはわかる」
と、アルバートさんは言っていた。
王国の磁器は全て木の箱に収められ紐でしっかりと縛られている。
持ち込んだ一つを除いて、木箱の紐は解かれロムスさんの家の応接室に並べられた。
ロムスさんはその一つひとつを丁寧に見ている。
片方の目に丸いレンズを当てながら詳細に観察している様だ。
その様子は僕の他、交渉のためにジュリアが固唾をのんで見守っていた。
長い時間をかけ、並べられた磁器をすべて見終わると、ロムスさんは深く息をつく。
「素晴らしい。
やはり磁器は王国の物に限りますね。
白さもさることながら、それに描かれた絵やその発色もまた良い。」
「それはお気に召されて様で何よりです。」
「ええ、どれも素晴らしい、一流のものです。
ただ・・・」
「ただ?」
「ほかに変わり種のような物があればよかったのですが・・・。」
ロムスさんの言葉を聞いて僕は残っていたもう一つの木箱の紐を解いた。
その中から現れたのは、薄い瑠璃色の大皿だった。
ただこの大皿、金線、銀線で修理され、その線が不思議な模様を形作っている。
それを見たロムスさんは
「修復?いや、修理された大皿ですか。
修理の際に使われた金線、銀線がいい味を出していますね。
なるほど、これは変わり種と言える一品ですね。」
ロムスさんはその大皿を見て大変気に入ったようだ。
取引は全てこちらの求める魔道具との交換で購入。
帝国での価値の差はあるが、明らかにこちらの要求の方が多いような気がする。
ロムスさんは「護衛の報酬だから問題はない」と言っていた。
だけど、こちらの言い値で購入するのには何かわけがあるように思える。
「今回は良い取引が出来た。
次回もよろしく頼むよ。」
「判りました。ご希望にこたえるよう努力いたします。」
ロムスさんからの要望は今後も続けて交易したいとの事だった。
その為にこちらの言い値で購入したのだろう。
「では今後ともよろしく。
また、変わり種を期待しているよ。」
僕たちはロムスさんと握手を交わすとアッシュランドでの取引を終えた。
購入品も手に入った上、半端品もない状態だとオロールに帰るだけなのだが、
しばらくブロッサムで逗留することにした。
皇帝崩御で帝国がどのように動くかわからないからだ。
五日ほど温泉を堪能しながら情報収集を行っている。
これは僕たち自身のリフレッシュも兼ねていたからだ。
「宿泊客の中には宿を引き払う者が増えているそうだぞ。
帝国の人間を見かけない事に不信感を抱いたみたいだ。」
ゼフィールの報告の通り、
帝国の人間だけでなく、よその国から着た旅人も目に見えて減っていた。
それと同時に、街中を動く兵士を見かけるようになっている。
(そろそろ何か起こるのか?)
そう考えた時、兵士の一団が僕たちに近づいてきた。
「探しました。
アルバート商会の人達ですね。
領主代理のロムス様からのご伝言です。」
兵士たちは何やらただならぬ雰囲気である。
「ここは間もなく戦場になります。
そうなる前にブロッサムから離れられよ。
との事です。」
兵士たちはロムスさんからの言葉を伝えると踵を返して走り去った。
街は戦闘の準備の為、兵士たちが東奔西走する。
保養に来ていた旅人たちも慌ただしく宿を引き払っていた。
そんな中、黒騎士のゲルギオスは何やら考え込んでいる。
僕は彼が何を考えているのか判っていた。
元々、彼が仕えていた姫君の安否を確認する為に帝都へ赴くような人物である。
その息子や孫の安否が確認できた後は、
助けられた恩を返す為に僕に同行していた。
確か“生涯の忠誠を誓おう”と言っていたから本当にそうするつもりだろう。
今後の事を考えると、ゲルギオスにはロムスさん達の傍についてもらった方が良い。
僕は一計を案じる事にした。
「ゲルギオスさん、あなたは僕に生涯の忠誠を誓うと言いましたね?」
「うむ、であるから主君として傍についているのです。」
「主・・・という事は主の命は絶対だな?」
「当然です。それが騎士と言う物です。」
それを聞いた僕は安堵した。
間違いなく僕が考えた通りになる。
あとは考えていた通りに命令すればいい。
「では、黒騎士ゲルギオス。お前に命令する!
僕たちと敵対しない限り、ロムスさんとその子孫を守れ。
その期間はお前の命ある限りとする!
この命令は即座に実行せよ!」
「ニコラ殿・・・かたじけない!!」
黒騎士は一礼すると飛び出していった。
その様子を見ていたジュリアが僕に話しかける。
「ニコラ、よかったの?
ゲルギオスさんはとても強い人だよ。」
「問題ないよ。
第一、僕らの目的は商売となっているけど、帝国の調査だよ。
彼がいると目立つから調査は難しくなるしね。」
僕はそう言い訳しておいた。




