無茶はいかんぞ、無茶は。
ロムスさんの言う通りだと、帝都は間違いなく混乱する。
魔道帝国は良きにつけ悪しきにつけ、魔道皇帝で持っていた様な国だ。
皇帝が“不死身”と言うことから、後継者もいなかったはずである。
(秘密裏に皇太子が生まれていたら別だが)
「皇帝陛下が崩御なされたなら、帝都の混乱は必至。
荒れる帝都に磁器を持っていっても無駄どころか、
壊されるのが目に見えている。
ロムス様、この情報に間違いは無いのですか?」
「誓って。
我が家に誓って間違いは無い。」
貴族にとって家名に傷をつける行為はあってはならない事の一つである。
その貴族の名誉が汚されると言ってもよい。
その為、貴族にとって家名に誓うというのはうそ偽りが無い行為なのだ。
「確かに混乱するであろう帝都に行くよりも、
ロムス様の領地へ向かう方が我々にとっても利となりましょう。」
「それでは!」
「はい。
冒険者として、我々が護衛の任務をお引き受けいたします。」
僕たちはロムスさんの護衛を引き受けるにあたっていくつか問題が出てきた。
彼らの様に身分の高いものが乗る馬車ではない事も問題なのだが、
それ以上に問題なのが、僕たちは昨日テリアの町を出たばかりだ。
オロール王国からの商人は三年ほど来ていない為、とても珍しい。
門番は必ず覚えていると考えて間違いはないだろう。
わずか一日でテリアに引き返すのは
”何か良からぬことを企んでいる連中”
と見られるのは確実だ。
なら、テリアの町を迂回するルートを考えるが、
わざわざ迂回すること自体が怪しまれる要因となる。
せめて服装だけでも、貴族とわからないようにしなくてはならない。
ロムスさんは商人風、娘のアデールさんにはその娘らしい服装に着替えてもらった。
その後、どう進むかを決めかねていると、
探知呪文を展開していたマロリオンが接近してくる者の存在を告げる。
馬に乗った三人
テリアの方角から来たと言う事だ。
「おお、無事か。
君たちが森の方の近道を通ろうとしているのを聞いたので急いでやってきたのだよ。
このテリアの猟犬である”ヨルヴィック”の目の黒いうちは、
若者に無謀なことをさせるわけにはいかん。
まったく、無茶はいかんぞ、無茶は。」
やって来たのはテリアで衛士たちの隊長をしている”ヨルヴィック・ガイザー”
大柄な男で鎖帷子の上に板金鎧の胸の部分をつけたものを着ている。
顔はいかつく髭面で髪の毛と同じ茶色い髭が頬から顎にかけてふさふさと蓄えられ、
柄を短くしたハルバートを片手で扱っているところを見ると膂力には目を見張るものがある。
「ふはははは、
ワシはこう見えても、”緑の守護騎士”を目標にしておってな・・・
なぬ?知らぬ?
うむ、オロールでは知られていないかもしれぬの。
ならば聞かせよう。
”緑の守護騎士”と言うのは、今は無きルテールの騎士の中でも一番の騎士じゃ。
その騎士は常に民を守り、民からも敬愛されていた。
動乱の時代には姫を守り帝都に亡命させる時の決死行など鳥肌モノじゃ。
主と民の為に尽くした”緑の守護騎士”彼こそが真の騎士。
ワシは敬愛してやまないのじゃ。」
ヨルヴィックはテリアに戻る道中で、次から次へと”緑の守護騎士”の逸話を語った。
彼曰く、これでも抑えているらしい。
僕たちは屈強な護衛が付き従え、雨の中、テリアに戻ってきたのだった。
テリアの住民にとって僕らは”無茶をする若者”と映っている様だ。
僕らを見る彼らの視線は少し生暖かい気がした。
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魔道皇帝崩御!
この知らせは瞬く間に帝都を駆け巡った。
”不死身”とされた皇帝が死亡したのである。
崩御の知らせを聞いたある者はこれからの事に恐れ、ある者はニヤリと笑う。
いつもなら人通りが多く賑わっている通りも人のいない寂しいものになり、
帝都の家々はこれから起こるである動乱に備え家の扉をピタリと閉じてしまった。




