全てを雇いたい。
アッシュランドの名前を聞いた途端、ジュリアが少し緊張した表情を見せた。
だがそこはアルバート商会の娘、直ぐにいつも通りの表情になる。
「なるほど、そちらの事情は理解しました。
ここからアッシュランド迄の道程はかなり遠いですね。
二人では道中危険なため、護衛が欲しいという事でよろしいでしょうか?」
「ああ、そうだ。
理解が早くて助かる。流石はアルバート商会の人間だ。」
「ありがとうございます。
それで護衛の件ですが、当方も帝都へ赴く目的がありますので
全ての人間をあなた方の護衛に就かせることは出来かねます。
ですので、私どものメンバーの中から三人ほど、そうですね・・・」
ジュリアが護衛に就かせるメンバーを選出しようと考えている。
彼女の事だ、パーティのバランスを考えているのだろう。
すると、
「いえ、一部では無く、あなたを含めて全てを雇いたい。」
ロムスさんから全て雇うといった要望が出た。
しかし、帝都に向かう目的があると前置きしたのだが、効果は無かったのだろうか?
「いえ、それは出来かねます、ロムス様。
私共は商人です。
帝都で物を売り商品を仕入れなくてはならないのです。」
売れるものを仕入れ、それを売るのが商人である。
人数の多い帝都でこそ王国の磁器は高く売れるだろう。
そして、魔道具は帝都にこそ多く存在し、
それを仕入れる為には帝都へ向かなければならない。
「それに関しては我が領でも対処できると思う。
あなた方の商品を全て言い値で購入しても良い。
目的である“便利な道具”も幾つかは手に入るだろう。」
ロムスさんは全てを雇う為、嘆願している。
僕はその姿に少し疑問を感じた。
商人へ護衛を頼むのにあれほど有利な条件を出すものだろうか?
「どうですかな?
皆さんの町での宿は保証しますよ。
どうせなら、途中の関所を楽に通り為の通行手形を発行して上げても良い。」
ロムスさんは我々を帝都に行かせない様にしている。
何故だろうか?
「ジュリエットさん。
今はまだ帝都へ行っても商売にならない。
しかし、我が領へ行く方が安全に商売をすることが出来ますよ。」
ロムスさんは今“我が領へ行く方が安全に”と言った。
帝都と比較しても安全にという事は、帝都で何か起きるのだろうか?
ロムスさんの言葉を考えているとジュリアと目が合う。
ジュリアも同じ様にロムスさんの言葉を考えていた様だ。
僕とジュリアはお互い頷き合う。
「ロムス様。
我々を帝都に行かせない理由は何ですか?
護衛だけとは思えない。
明らかに不自然だ。
帝都に何かあるのでしょうか?」
「何かと言われますと?」
「先ほどロムス様は“我が領へ行く方が安全に”とおっしゃられました。
帝都では安全でない何かが起こるのでしょうか?」
ジュリアが訊ねるとロムスさんは“あっ!“と言いそうな顔をした。
そして感嘆の吐息を漏らすと、
「判りました。お話ししましょう。
ですが、この話を聞いた場合、護衛を受けていただけないといけませんよ。」
「いえ、それでは話にならない。
先ずその話の内容を確認してからです。」
「ならばこちらも情報を出すわけにはいけませんね。」
このままでは話は平行線になるのはジュリアもロムスさんも理解しているし、
護衛の話を物別れにする気は両者に無いのだ。
「ではこうしましょう。
ロムス様のお話の内容にかかわらず護衛は引き受けましょう。
その上で、情報が有用ならば全ての者が護衛に就くこととします。
さほど重要でなければ、護衛は三人までとします。
この条件でいかがでしょう?」
「・・・仕方ありませんね。
その条件でお願いします。」
そう言って、ジュリアとロムスさんはがっちりと握手をした。
さて、ロムスさんの言う有用な情報とは何だろうか?
ロムスさんの情報はとんでもない物だった。
「魔導皇帝グレゴワール陛下は崩御なされた。」




